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悪殺し -悪に殺される話-  作者: 皆口 光成
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悪ー参拾八ー


廃墟となった学習塾に机と椅子の雪崩れ込む騒然たる音が鳴り響いて数分。




「サヤさーん?大丈夫ー?」




一人の女子校生、ミキナさんの緊張感の無い声が聞こえました。




「いやこれはさすがに無事じゃないだろ…」




と、言う男子校生は私のクラスメイトで心配そうな声で話します。




「あら?やったのはハゼト君でしょう?何他人事のように言っているの?」


「お前がやれって言うからやったんだよ!!」




ビシッと指をミキナさんに突き立てます。




「目が覚めたら何故か委員長とお前がいるし、特に説明も無く『私が合図したらそこに積まれている机と椅子を思いっきり倒しなさい』とか言うし!」


「しょうがないでしょ。時間が無かったんだから」




ミキナさんは平然としたまま雪崩となって崩れた机と椅子の方へ近づきます。




「ほら何してんの?早くしないとサヤさんが埋もれたまま死んじゃうわよ?埋没死するわよ?貴方のせいで」


「…えげつないな、お前」


「それほどでも」


「褒めたわけじゃねーよ」




そんなやりとりをしている間に。




「んん〜…。ごわがっだよ〜」




私はそんな泣き言を漏らしながら山となった机と椅子の上を出てきました。




「委員長!無事か!?」


「無事に決まってるでしょう。見れば分かる事じゃない」


「いや精神的なことだよ!!」




そう言ってハゼト君は机と椅子の上へ上がり、私の安否を心配してくれました。

途中邪魔になりそうな物があったのでそれをどかしながら。




あの時。




私があの痩せ顔の男性に追い詰められていた、いえ追い詰められていると(・・・・・・・・・・)思い込ませた(・・・・・・)時。




ミキナさんの合図でハゼト君が積まれていた机と椅子を倒した時。




私はすぐさまある行動(・・・・)をしていました。




それは二階へ続く階段に上がることです。




もちろん階段は机やら椅子やらが乱雑としていてとても人が通れるようには見えません。

しかし、よく見ると机の下がちょうど人一人分くらい通れるくらいの隙間を作ってくれていたのです。




私はその隙間に滑り込むように入っていたので無傷、という訳です。




まぁ、その後出るためにすごく複雑な造りとなったジャングルジムを体験した訳ですが…。




「まぁ、無事で良かったわ」




そう言ってスタスタとミキナさんは未だ縛られた状態のA組の女子校生二人の元へ向かいました。

見ると、先ほどの騒動で意識を取り戻したのかこちらを呆然とした表情で見ていました。




「大丈夫。もう安心よ」




そう言ってミキナさんは二人を安心させる言葉を掛けます。




「早速だけどその手に縛り付けられてる拘束を解いてもらうわ。自力でね。やり方は教えるから言われた通りにして」




そのまま手首にされた拘束の解き方のレクチャーを始めました。




「そういやあの拘束の解き方、確か委員長が教えてくれたけど何で知ってたんだ?」




ハゼト君が素朴な疑問を私に投げかけました。




私はその問いにひとしきりの間を置いた後。




「………今日昼に学校で手足を拘束した人から教えてもらいました」


「何がどういう理由でそういう状況になったんだ?」




当たり前の反応をされましたが、その当の本人は理由をあれやこれやと言って誤魔化したので私にも分かりません。いつか教えてもらいますが。




「さて、それじゃあ逃げましょうか」




いつの間にか二人の拘束は解け、自由になっておりミキナさん含む三人が私とハゼト君が来るのを待っていました。




「確かこのお喋りな男が仲間はあと二人いることを話していたから早くしないと鉢合わせなんてことになり兼ねないわよ」




そう言ってミキナさんはハゼト君を見ながら入り口を指差しました。

一瞬なんのジェスチャーかと思っていると、ハゼト君が溜息を吐いて入り口に向かいました。




「本当、えげつないなお前」


「あらそれほどでも」


「だから褒めてないって」




そんなやりとりをした後、ハゼト君は入り口から顔だけを外に出し左右を確認しました。

右を、そして左を確認した後に右手をクイックイッと動かして私たちが来るように誘導します。




そこで私はようやく先程のジェスチャーの意味を理解したのです。本当、今頃ですが。




要はミキナさんはハゼト君に先頭を歩くようにしたのです。理由はもちろん敵がいないかの確認をさせるため。

つまりハゼト君に先導と盾という一番危険な役割を当てたのです。




おそらくそんなことしなくてもハゼト君自らが率先してやってくれたと思うのですが…。




「まったく末恐ろしい奴だよ。お前は」




ハゼト君はそう言って外を見ます。




「大体最初にあの男を殴る役を俺にしておけば委員長があんな危険な目に会うことも無かったんじゃねーの?」




それは私も思っていました。何せハゼト君はクラス一に力の強いフィジカルを備えた生徒なのです。

それならば力の無い私よりも適役だと思っていたのですが。

それともミキナさんには何か考えがあってのことだったのでしょうか?




「それもそうね」




と、あっさり認めてしまい私はズッコケそうになりました。




「でもそれだとハゼト君が一番危ない可能性があったのよ」


「?」




これは意外なことだったのでハゼト君はミキナさんの方へ振り向いていました。




「あのお喋りな男、懐に銃を隠し持っていたから男のあなたにやられたと分かったらついカッとなってあなたを殺す可能性があったからね」




ミキナさんのその言葉にハゼト君だけでなく私はもちろんA組の二人も凍りつきました。




「だからあの役をサヤさんにしたのよ。サヤさんのようなか弱い女の子ならあの男、油断すると踏んだから。あちら側からすれば私たちは大事な商品だから手荒な真似は出来ないと思ったしね」




そう言ってミキナさんはハゼト君に前を向け、という意の指差しをし、ハゼト君に引き続き外の様子を確認するよう促しました。




「…よし、今なら大丈夫だ」


「なら行きましょう」




そう言ってハゼト君を先頭に私たち五人は廃墟である学習塾を後にしました。




机と椅子の下敷きになった痩せ顔の男性を一人にして。


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