悪ー弐拾九ー
街は暗闇に包まれ、ユニアドに夜がやってくる。
光を求める住人たちは各々自分たちの明かりを点ける。
一つ、また一つと点く光はやがてユニアド全体に広がり、昼間とは違う顔を見せ出す。
ユニアドを照らす人工の光はユニアドという街を遠くから見れば建物とのコントラストを低くさせ、やや幻想的な世界を見せてくれる。
そしてその幻想的な街の主な住人は。
心に“悪”を宿した者達だ。
まるで、街が生み出した光の幻想に取り込まれたかのように、彼等は街を闊歩して回る。
さらには夜ということもあり、昼間と比べれば闇に乗じてやりたい放題だ。
まさに夜の街は彼等のものと言ってもいいだろう。
だがその存在を許すわけにはいかない。
野放しには出来ない。
放置するわけにはいかない。
そのままにすればいずれは──。
風が吹く。
街を、建物と建物の間を吹き抜けるその風はやがては上へ向かい、ある人物にまるで街の様子を報告するかのように集まる。
いや、人なのかどうかも怪しい。
その人物はユニアドのビルの屋上から街を見下ろしていた。
そのビルは大体三十階建てのものであり、人が落ちないように柵がある。
その者はその柵の上に乗っていた。
風が吹く。しかし風は服をたなびかせるのみで、その人物自身には何の影響も与えていないように思われる。
帽子でも被っているのか、頭を押さえる動作をする。その時押さえた手は、とても人のものとは思えない程白かった。
見れば服から覗くその者の体はどこも白い。着ている服が黒だからかより際立つように感じられる。
黒い服に、白い体。そしてその者が街を眺めるその目は。
血のように、赤く染まっていた。




