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悪殺し -悪に殺される話-  作者: 皆口 光成
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悪ー弐ー


午前七時五十分。校門前。




無事に電車には間に合い、学校にも遅刻せずに到着することが叶った。

ココでは時間にやたらとうるさく、午前八時になると自動的に校門が閉まるという仕様になっている。

よって、門が閉まる十分前、校門から校舎にかけてココの生徒たちが多くひしめき合っているのだ。




ココには入ってまだ一ヶ月というなんとも微妙な時期に入学したのだが、この光景にはさすがにもう慣れた。




「おはよう。サツキくん」




ふと、後ろから声を掛けられたので反射的に振り返る。




「おや、これはこれは」




そのまま、さながら英国紳士のように頭を深々と下げ、挨拶を返した。




「おはようございます。サヤさん」



「…相変わらず礼儀正しいですね。さながら英国紳士のように」




やれやれ、と言わんばかりの溜息がこちらにも聞こえるほどに口から漏れる。

サヤさんはそのまま淡い栗色の長髪をたなびかせて並ぶように隣に来た。




「学校にはもう慣れましたか?」

と、唐突に聞かれたので一瞬変な間が生まれてしまった。




「あ、あぁ、そうですね…」

返答に困り、視線を別方向に逃がす。




サヤさんにはこの学校に転入してから、つまりおよそ一ヶ月間、ずっと気にかけてくれている。

同じクラスだからというのもあるが、そのクラスの委員長というのもあるが、ここまで親切な人はそういないだろう。




僕の返答を待っているのか、サヤさんは上目遣いでこちらを見ていた。




「まぁ、その、…クラスのみなさんとは話せるようにはなりましたね」




おそるおそるサヤさんの方を見ると、何も言いはしなかったがニコッと笑った。




「いやーっ!良かった良かった!私ずっと心配してたんですからね。サツキくんのこと」



「ん?なんでです?」



「いやだってサツキくん中途半端な時期にうちの学校に転入してきたし、孤立しちゃわないかなーって思ってたんですよ」



「………」

苦笑いしかできなかった。




「いやあの気にかけてくれたことはありがたいですけど、それはちょっと…」



「友達とか出来ましたか?」



「僕の話聞いてます?」




いまいち会話が成り立たないなぁ…。




「まだみなさんとは話せるようになっただけですから友達というのはちょっと…」

まだですかねぇ。と、言おうとしたら、見るとサヤさんは顔を少し膨らませて怒っている様子だった。




「………え?」



「そうですか。“まだ”ですか」

そう言って僕の少し先を歩き出す。

突然の反応に若干戸惑い、慌ててその後ろを追う。




「あ、あの…」



「何ですか?」

厳しい視線が投げつけられた。




「い、いやあの僕何かサヤさんに失礼なことでもしたのかなって思いまして…」



恐る恐る様子を見ながら聞くと、先ほどとは比べものにならないくらいに深い、深い溜息がサヤさんの口から漏れた。




「サツキくん…、私のことは友達とは思ってくれてなかったんですね」



「え"っ!?」

驚愕の言葉に思わず変な声を出してしまった。




「一ヶ月間、ず〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと色々してあげたのに私のことスタッフか何か扱いですか。酷いですね。私は最初からサツキくんのこと友達だと思ってたのにな〜!」




サヤさんはわざと周囲に聞こえるように大きな声で喋り出した。




「い、いやサヤさんあのですね…」



「それに私サツキくんが勉強で困らないように教えてあげたこともありますし、学校の中も案内までしたっていうのにな〜。そうか〜。サツキくんにはあれはしてもらって当たり前だってことだと思ってたんだ〜!」



「い、いやそれは感謝してますけど」



「それにその他にも」



「サヤさん!!」




埒があかなかったので、僕は前からサヤさんの両肩を掴む形で無理矢理嫌味の洪水をせき止めることにした。




突然のことに驚いたようでサヤさんの目は丸く、表情はキョトンとしていた。




「サヤさん、お話があります」



「う、うん…」




徐々にサヤさんの顔が赤く紅潮していく。

周囲の視線もなぜか全員こちらに集中していた。




「サヤさん…」



「は、はい…」




ジッとサヤさんの目を見つめる。




「今日の放課後、ケーキ屋に行きましょう」



「……………へ?」



「この前美味しそうなケーキ屋を見つけたんですよ。そこのチョコケーキが美味しそうでしてね〜。よかったら行きませんか?」




ニコッと笑顔で言ったコンマ一秒後、サヤさんの平手打ちを食らった。




「え?な、なんで?!」




バシンッと甲高い音を響かせ、勢い飛ばされ、慌てて態勢を直すも、見るとサヤさんは顔を真っ赤にさせ、肩で息をしていた。




女の子なら甘いものが好きだと言うのがセオリー通りだと思っていたのに、まさかサヤさんは甘いものがニガテなタイプだったのか!?




と、瞬時に原因を究明し、謝罪モードに入ろうとした際。




ピッと指をこちらに向けられていた。

サヤさんの人差し指が。




「絶対…」



「え?」



「絶対サツキくんのオゴリですからねぇ!!バカァッ!!!」




そう言ってそのまま校舎に走りこんで行った。




「え?!ちょっ、サヤさん!?」




僕は慌てて後を追った。




周囲からは「そりゃそうなるわー…」という呆れ顔がチラホラと見れた。


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