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悪殺し -悪に殺される話-  作者: 皆口 光成
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悪ー弐拾弐ー


「さて、それじゃあそろそろ出ましょうか」




グラスに残った氷がほとんど溶けたのを機に、サヤさんは言った。




「え〜?私的にはもう少しケーキ食べたいよ〜」

と、カナデさんが子どものように駄々をこね始めた。




「ダメよ。これ以上は。サツキくんのお財布事情も少しは分かってあげなさいよ」

と、正論を言うがそれは本人の前では言わないほうがいいと思う。




「ぶ〜。分かったよ〜♪」




渋々とカナデさんが了承し、ようやく会計を済ませられると思った。のたが。




『プルルルルルッ』




ふとそんな電子音、というか携帯が鳴る音がした。

もしや自分のかと思い確認したが、そうではなくどうやらサヤさんの携帯が鳴ったようだ。




「あれ?なんだろ…?ゴメンね、少しだけ待ってて!」


「えぇ、構いませんよ」


「うんうん♪待ってる待ってるー♪」




そのままサヤさんはどこからかの電話に出るため、一旦席を離れた。




「ウフフフフー♪」




突然カナデさんが不気味に笑い出す。




「?…どうかしましたか?」


「いやなんかこうしてサッキーと私だけになると二人でデートしてるみたいだなーって思ってねー♪」


「……………」




縁起でもないことを言われた。




「どうしよー、これで偶然にも私達が二人のところを学園の誰かに目撃されちゃったら明日から噂の種になっちゃうよー♪」




アッハハー♪と一人楽しそうに笑う。

もし見られても学校での評判から察するに“付き合ってる”ではなく“たかられている”と思われると思うのだが。




ここは言わないでおくが吉であろう。多分聞かないだろうし。




「そうだ、今のうちに聞いておきたいことがあるんですけど」


「え?何?告白?困っちゃうなー♪」


「……………」




いつまでその妄想続くんだろう、この人。




「まぁ、私的にもサッキー、サヤ、私の三角関係はなかなか面白そうではあるけどねー♪」


「そ、そうですか…」




もはや苦笑いしかできない。




「友愛を取るか、恋愛を取るか…。はたまたは別の愛を取るのか…。この三人の物語は“真実の愛とは何か”を追い求める泥沼の愛物語になるわ〜♪」




しかもなんか凄いしっかりとした物語性があるみたいだ。この人、A組に属するだけあってそういうことに関しては優れているのかもしれない。

いらない素質だが。




「いや、まぁ、とりあえず聞いてもらえますか?」


「うん!いいよー♪」




なんだかものすごい期待に孕んだ目をしているが、的外れもいいところだし、正直付き合ってられない。




「さっきの“黒いシニガミ”についてもう少し詳しく聞きたいんですけど」


「え〜?そっち〜?」




よほど残念だったのか少し落ち込む様子を見せる。いや、どれだけ期待してたの?




「うん、で?何を聞きたいのー?」


「まぁ、出来れば知ってることを全部教えて欲しいんですけど」




ムスッと頬杖をつき、カナデさんは前屈みな体勢になった。




「えー、でも私が知ってることはさっき言ったことが全部だよー?」


「確か、“骸骨の体を黒い衣を身につけている”“夜に悪人の魂を抜いて回っている”“神出鬼没で気づいた頃には魂を抜かれるほどに素早い”“赤い瞳孔を持つ”でしたよね?」




一つ一つ思い出しながらに言っていく。




「ん、大体そんな感じだよー♪」


「他には無いんですか?」


「無いよー♪」


「ケーキ奢りますよ?」


「んぐぐ…。でも本当に無いよぉ…」




どうやら本当にこれ以上の情報は持っていないようだ。試しにケーキで釣ってみたが結果はこの様子である。




「サッキー、なんでそんなに知りたがるのさー?さっきはこういう系の話は嫌いって言ってなかったっけー?」


「え?…いや、まぁ」




曖昧な返事で誤魔化すも、不審な目線は継続中だった。




「いやぁ、この街に住み始めてまだそんなに経っていませんから少しでもこの街のことを知っておこうと思いましてね」


「…ふーん」




若干まだ不審がられているが一応は納得したようで、カナデさんは空になったグラスの中の氷をストローで弄び始めた。




黒いシニガミ。




僕はこの手の話が別に好きという訳ではない。嫌いではないが。




ただ、自分がその都市伝説のような力を持っているが故に気になるところもある。

実を言うと僕はこの街以外、全国中の噂や都市伝説といった情報を調べている。

その理由は単純で“自分と同じ力を持った人に会いたいから”である。

もちろんただ会いたい訳ではない。聞きたいことがあるのだ。




目的はそこにあるのだが、しかし、どれだけ調べても未だかつて同じ力を持った者に僕はまだ会っていない。




正確には三人(・・)会っているが、少し事情が違う。




その辺りの話はまた今度機会があれば話そう。




かくして全国中の噂や都市伝説を知っている僕なのだが、この街での噂になっている“黒いシニガミ”については知らなかった。




これは最初最近出来たばかりの都市伝説だろうと思っていたのだが、ある部分(・・・・)が気になった。




それは黒いシニガミの特徴の一つ、“赤い瞳孔を持つ”。




それはまるで──。




「あ、そういえばさー♪」

と、カナデさんが今思い出したような顔つきでこちらに話しかけた。




「もしかして何か思い出したんですか?」


「いやそうじゃないんだけどー♪」




なんだ…。違う事なのか。




ガックリと肩を落とし、外の景色に勤しもうとした。




「いや、確かに黒いシニガミとは関係がないと言えば無いんだけどー♪」




構わず続けるので一応聞く。




「少し気づいたことはあるよー♪」


「気づいたこと…?」




店の外からカナデさんの方に視線を移す。




「何にですか?」


「いや、なんだか黒いシニガミってサ」




直後。




ドガーン!!と何かが爆発するような音が店の奥から響いてきた。




「な、何!?」




店内の客も突然の出来事に慌て、動揺が走っているのが分かる。




「今の厨房から聞こえてこなかった…?」


「何?爆発?」


「事故なの?」




それぞれの推測はお互いの不安を駆り立てる材料になり、場はすぐにパニックとなった。




「サ、サッキー今のって…!?」




さすがのカナデさんも動揺しているようだ。




「分かりません。とりあえずは様子を…」




そこで僕は気づく。




サヤさんがまだ戻ってきていないことを。




もしも、もしもそれがこの事故の起因であるならば(・・・・・・・・)




事態は思った以上にマズイかもしれない。




途端僕は走った。




「サッキー!?」




僕の突然の奇行に驚いたカナデさんは僕を呼ぶ。




「カナデさん!危ないですからそこでジッとしててください!!」




そう言い残し、僕は向かった。


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