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悪殺し -悪に殺される話-  作者: 皆口 光成
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悪ー拾八ー


黒いシニガミ。




骸骨の体に黒い衣を身に付け、夜な夜な悪人共の魂を抜いて回っているという。




神出鬼没でどこにでも現れ、気づいた頃にはすでに魂は取られているほどに動きは速い。




赤い瞳孔を持ち、その目で見られた者は二度と黒いシニガミから逃れることもなく、どこまでも追いかけられ最後には──。




「キャアッ!!」




サヤさんの甲高い悲鳴により、カナデさんの黒いシニガミによる舌論は一度中断した。




「ちょっとサヤ〜、まだ終わってないでしょー」




話の腰を折られ、若干不機嫌なカナデさんは唇の先を尖らせている。




「だ、だってカナデが突然怖い話をしだすから…」




そう言うサヤさんの目には涙が浮かんでいる。




「アッハハー♪そういやサヤは怪談とか怖い話はダメだったねー♪ごめんごめん、もうやめるからー♪」




カナデさんはサヤさんに抱き着き、まるで怖い夢を見た子どもを慰めるようにサヤさんの頭を撫でていた。




「話は途中だったけど、そういう都市伝説があるんだよー、この街には、ね」


「へぇっ…」


「アレ?反応薄いねー。もしかして知ってたのー?」


「いえ、今初めて聞きましたよ。そうですか。この街にはそんな噂が…」




そう言うとカナデさんはこちらをジト目で見つめてきた。




「反応薄いなー。もしかして怖い話とか平気だったりするー?」


「いえいえ、それほどでも。ホラー系はニガテ中のニガテですよ」




ニコッと対応したが、まだ疑われているようでジト目をやめてくれない。




「ま、いいかー♪」




カナデさんは再びサヤさんを抱きしめる。




「もしもサッキーもサヤと同じで怖い話がニガテだったらこんな風に抱き着いてあげたのになー♪」


「それだけはご遠慮願います」




もはやこの人の中の友達観念が分からなくなってきた。




しかし、黒いシニガミ、か。そんなのがこの街にいたとは。




この街に住み始めて早くも一ヶ月は経ったが、そんな情報は一度たりとも僕の方には流れてこなかった。




もしやその黒いシニガミ…僕と…。




「カナデさん。その黒いシニガミの特徴ってなんでしたっけ?」




もう一度確認のために僕は黒いシニガミの情報を聞いておくことにした。




「え?だからー、“骸骨の体に黒い衣を身に付け、夜な夜な──”」


「カナデもうやめて!」




カナデさんの腕の中で泣いていたサヤさんが突然喚き、またも話は途中で中断した。




「あー、ごめんごめん。おーよしよし怖くないよー♪」


「んん、もう…」




泣くサヤさんの頭を撫でて慰める様は、もはや母親とその子どもだ。




「すみませんサヤさん。僕がまた聞きたいとか言い出したばかりに」


「んーん…。いーよ…」




そう言うサヤさんの目は赤くなっており、本当に幼い子どものように見えてしまう。




「しかし黒いシニガミの特徴…か」




“骸骨の体に黒い衣を…”というあたりから多分色々と情報が伝言ゲームのように錯綜としていると思われるな。

これはやはりただの都市伝説、の可能性が高いな…。




「どうかしたのサッキー?」




突如僕が考え込むような姿勢をとり妙に思ったのかカナデさんは話しかけてきた。




「いえ、ただ黒いシニガミの特徴についてどこかで聞いたことあるなー…って思ったんですけど、思い出せなくて」


「ふーん…」


「思い出さなくていいよぉ…」




ようやく落ち着いたのかサヤさんはカナデさんから離れていた。しかしいまだにその目には涙が溜まっている。




「いえいえ、申し訳ありません。もう言いませんから。なんならお詫びにまた一つケーキを奢」


「本当に!?」

と、飛びついたのはカナデさんだった。




「ヤッター!!ケーキ♪ケーキ♪」




そのままダッシュでカウンターへと向かっていった。




「…あっ!ひ、一つだけですからねー!!」




しまった…。つい余計なことを口に出してしまったか。




そんなことを思っていると前にいるサヤさんはクスッと笑った。




「?どうかしましたか?」


「いや、お人好しもほどほどにしておかないとなーって思って」


「………確かに、そうですね」




本当はサヤさんだけに奢るつもりだったが、あんな風に目を子どものように輝かせた彼女をガッカリさせるのも気が引けるので、ここは腹を括るしかないようだ。




「それでは私もケーキの注文してきますね」


「えぇ、どうぞ。いってらっしゃい」




カナデさんの後を追うように駆けていくサヤさんを見送る。




まぁ、余計な出費をしてしまったのは痛いが。

女性の涙を止められたなら安いほうだろう。




そう思って納得することにした。


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