第3話 とりあえず、出発
「ここはどこですか」
少女は何を言っているのかよくわからんといった風情でこちらを見ている。
いやあ、残念ながら本当に場所からして何かわかりません。
「…あんた、頭大丈夫?極度の方向音痴?まあいいや、どこから来たの?」
「…そこから」
そういってバンリはトイレのドアを指した。
平きっぱの扉の向こうは壮大な大草原が広がっている。
あの狭いトイレの個室は存在しない。
「用を足してからドアを開けたら気が付いたらここにいた」
わかってもらえるかはわからないが、万里は簡潔にことを説明した。
頭おかしいんじゃないの?といわれることを彼は覚悟したが―
「…なるほど。おそらくは次元歪曲に巻き込まれたってとこかな。
最近この辺の精霊荒れてるし」
ふむふむ、と逆に納得したように彼女はうなずいた。
次元歪曲?精霊?万里にはよくわからない。
「で、あんたがいた場所は?」
「日本」
「ニホン?」
「…ジャパンでわかる?」
「わかんない。…まあいいや、ずいぶん遠いとこからきたってことだけはわかった」
少女はふう、とため息をひとつついた。
「まあ、近くの街までは連れてってあげるよ。
そうすれば、あんたの知り合いも見つかるだろうし」
(見つかんないと思う)
「その代わり、こいつら運ぶの手伝って」
彼女は、こいつら―伸びている盗賊を指さした。
どうやってオッサンを5人も運ぶんだろう。
という疑問は、万里の疑問は、すぐに解決した。
「…馬、じゃなくてユニコーン?」
少し離れたところに、スコールは2頭の角の生えた馬―ユニコーンを待機させていた。
イメージにあるような細く優美なスタイルではなく、2頭ともがっしりとした体つきをしている。
一等は銀色の、そしてもう一頭は漆黒の毛並みをしている。
「銀色の方がセン。黒がコウ。双子のユニコーンだ」
「へ、へえー」
スコールの指示のもと、バンリは一通り盗賊たちの懐からめぼしいものを漁った。
のち、スコールと共に、盗賊たちぎちぎちに縛り上げ、ユニコーンの背へとくくりつけた。
ユニコーンといえば、処女の女性以外は受け付けず、暴れだすという逸話がある。
バンリもそれを危惧していたが、特に彼らが襲ってくることはなかった。
(男だけどよかったのかな。それとも異世界人はノーカン?)
などと考え込みつつ、バンリはスコールとともに出発した。