第1話 すべてのはじまり
生きていると色々な事がある。
課題を持ってくるのを忘れた、母上が作ってくれた弁当が何故か日の丸弁当だったなんて小さなことから、全校集会で礼をした途端校長のヅラが滑り落ちて場が凍りつく、試験で回答を一問ずつズレた位置に書いてしまいましたなんて大きな出来事まで。
しかし、異世界に召喚されることなんてめったにないだろう。
ある日、万理が学校のトイレの個室から出ると、何故か大草原に出た。
彼は慌てて中へと戻ろうとした。
が、振り返ったその時には、何故かトイレの空間は消失し、ドアの向こうにも、同じような平原が見えていた。
このどこで○ドアは一方通行の不良品だったのか。
製造元を突き止めてクレームを入れなくてはならない。
何度か万理は残されたドアを開閉してみたが、学校のトイレに戻ることは出来なかった。
彼は帰還することを諦めた。
「誰かいませんかー!」
とりあえず誰かに助けてもらうべく、万理は叫んでみた。
すると、祈りが天に通じたのだろうか。
何と、何かの集団が現れた。
しかし、全員何故か毛皮の鎧を纏った、柄の悪い、むさいオッサン5人組だった。
嫌な予感がする中、案の定、おっさんたちは万理を取り囲んだ。
「○△□×、凸凹〒&☆◆!」
何を言っているかは分からないが、大方、「金目の物を置いていけ」的な事を言っているのだろう。恐らくこのむさくるしい集団は盗賊である。
助けを呼んだのであって、身ぐるみはぐような相手を呼んだつもりはない。
一体何なんだ、この状況。
万理は神様を恨んだ。
「○○○?」
オッサンの内の1人、パッと見一番豪華な装備(といってもやっぱり毛皮だけど)を纏った首領のようなやつが、鞘から反りの入った剣を抜いてちらつかせてくる。
多勢に無勢。絶対絶命のピンチ。
もう脱いで何も持っていないことを示すしかないのだろうか、と万理が覚悟を決めかけたその時。
地面から唐突に水柱が吹き出し、お頭を吹き飛ばした。
「!?」
予想外の出来事にたじろぐ盗賊たち。
その間を縫うように、銀色の影が奔った。
「!?」
そこからの展開はあっという間だった。
あれよあれよという間に、最初の攻撃で動揺しまくったオッサン達は突然の襲撃者に手も足も出せず、キレイに片づけられた。
傷一つ負うことなく、彼らを美しく片づけたプロの掃除人は、恐ろしい事に、同年代としか思えない少女だった。