プロローグ
小さいころは、異世界に勇者として召喚されて世界を救う、なんてストーリーに憧れていた。
そういった本を読んだ後は、自分も召喚されないかなあとか、目が覚めたら異世界だといいなあとか思いつつ、ドキドキしながら眠って、いつもと変わらぬ朝に涙したものだ。
そういったものを夢を見つつ、いつしか卒業し、現実を受け入れ、俺―万理も、大きくなり、高校生になった。
だが、まさかそれが現実になる日が来るとは思わなかった。
昼休み。
俺は用を足そうと思ってトイレに行った。
ドアを開けた。
便器は無かった。
その代わり、見渡す限り明るい緑の大草原が広がっていた。
人間、驚きすぎると思考停止するらしい。
そういえばトイレ工事中だったっけ、解放感たっぷりに用を足せるような大草原になったんだなあ、何てリッチな工事だ。
俺は、徐にズボンのファスナーに手をかけて―
「いやいやいや」
我に帰った。
いや。それはないだろう。ドアを開けたら大草原ってどんなトイレだよ。
きっと俺は開ける扉を間違えたに違いない。
ここはトイレじゃないのだ。
よし。落ち着け。
俺は戻るべく振り返る。
「・・・え」
そこには確か、いくつか洗面台が並んでいた小さな部屋の筈だった。
それは消えて。
大草原だった。
「…はい?」
どういうことですか。