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春風の華  作者: 真条凛
日常の中の歪み
6/17

秘め事と思い

6/13(月)

更新しました。


月鈴

しかしそんな平穏な時間は、噂のその人に破られた。






「今日は、バイト入ってない日でしょ?」


「そうよ。店長が月に数箇所、休みの日意外に入れてくれる休日だからね。」


「だったら最近出来たケーキ屋さん行かない?スッゴい可愛いお店なのよ。メルヘンとまた違った造りをしててね、桜の好きそうな感じ。もちろん味の保証はするわよ。なんてったって私が保証するわ。」


「ケーキ屋さん?新しく出来たの!陽子の御眼鏡に適ったなら、足を運ぶ価値大ね。」


なら早速いきましょう、と二人ではしゃいでいた。


なので昨日の如く、騒がしく廊下でたむろっている女子生徒達に気がつかなかった。


「それは是非とも僕も行きたいですね。」


「「え?」」


ばっと振り向けば、そこにはあの顔が。


今日教えてもらったばかりの名前。

春崎葵。


「お二人ともお揃いで。仲がいいよね。」


「‥‥なんで春崎君がここに居るのよ。」


彼の後方を見遣れば、そこには女子の固まりが‥‥。


「私も同感。葵クンのせいで、桜は大変だったのよ。少しは自分の発言に責任を持って発言をしてちょうだい。」


うっ、女子からの視線がイタい。

クラスメートは皆いい子だから、見られる程度だっけど、一歩教室を出れば違った。


良く見れば、今集まっているのは上級生と下級生だ。

同級生は一人もいない。


「少しは信用して貰えてるのかしら?」


「ん?何が?」


目線を春崎葵の後ろに向ける。


それを見て、陽子はなるほどと納得したようだ。


「きっと桜を野次るのはあの人達くらいよ。桜の事を知らないからあんな事が出来るんだわ。」


不満げに、自分に言い聞かせる様に言う彼女は御立腹であるようだ。


「そんな事はないと思うけど、もしそうなら嬉しいわね。」


「もう!桜はそこんとこ無頓着すぎ。少しは気にしなさいよ。」


「うん。まあ、気にしても仕方ないと思うんだもの。」


「だから無頓着すぎるって言ってるの!」


「僕の話し、聞いてた?」


しばらく放置状態となっていた彼。

私的にはこのまま話しかけて来ないでほしかった。

是非とも。


だが物事はそう上手く行く訳もなく。

案の定話し掛けられる。


「聞いていたわよ。けど、あいにく私はあなたとは―――」


「―――代金は全て僕もちと言うことでどう?」






――――――――――――






私は後悔していた。

もちろんケーキも、注文した紅茶も美味しい。


だが、何故こんな事になっているのか‥


(私には理解できない)


この人の何処が良いのか。


そしてまだ不満な事はある。


「どうして陽子が途中から来られなくなるのよ。」


(絶対おかしい)


まるで陽子が途中から来れなくなる事を知っていたかのようだ。


「それを僕に聞かれても、お答え出来ませんよ。‥きっと家の用事か何かでしょう。」


そう言われては反論も出来やしない。


黙りこくって黙々とケーキを口に含み、紅茶を口にする。

端から見ると、とてつもなく不機嫌そうに見えることだろう。


当たり前だ。

実際、不機嫌なのだから。


普通なら相手側は取り繕うか、弁解をするところと言った所か。

普通なら。


「話があります。」


そう切り出した相手。

勿論予想はしてたし、身構えていた。


それでも身体は反応してしまうもので。

身体が揺れてしまったかもしれない。


そう、私は怖い。



一度は躊躇いを見せた彼の顔。


だが再び口を開く。


「貴女は【ピース】を持っています。隠しているかもしれませんが、僕くらいになると近づくと感じとれるんです。」


それを聞いた途端。

私は席を立った。


しかし手を取られ、店から出る事は叶わなかった。


手首を痛いほど捕まれる。


変わりに座っていた椅子が、音を立てて倒れる。


「逃げないでください。」


「‥‥なんで。」


絞り出すように、震える喉から声をだす。


「なんで私にかまうの。あなたには関係のない事でしょ。」


こんな事を言うつもりではなかった。

なのに。


「‥関係ある。これはあなたのためだ。自分の状況を知らないと後々後悔するよ。」


関係ある。

その一言が私に真摯に突き刺さる。


「‥‥どうしてそう言い切れるの。」


「自分がそうだったからね。」



ああ、この人は孤独だ。

そして寂しい。


心の何処かでそう感じた。


それがなお親近感を持たせる。

持たないと決めていた感情なのに。


立ったまま顔を俯ける。

覚悟は出来ていたのに。

彼に会った時から。


そのはずだった。


(なのに今更躊躇うだなんて‥)



やっぱり自分は甘いのだと。思い知らされる。



「取り敢えず、場所を移りましょう。」


ここでは話せないから。そういって笑った彼は哀しそうな笑みに、ほんの少しの優しさが滲んでいた。











「‥‥もう逃げないわよ。」


「うん。」


「私の荷物、そんなに重い物も入っていないし。」


「うん。」


しかしそれでも彼は返事をただよこすだけ。


少しは察して欲しいものだ。


「だから手を離してって言ってるの。それからカバンを返して。」


「嫌だ。」


しかも軽いノリで断られた。


繋がれた手、正しくは掴まれた手首を離そうとするも功を成さない。


カバンせめてカバンだけでも取り返そうとするが、片手を掴まれたまま反対側にあるそれを手にしようとするには不可能だった。


もうすぐ着きますから、と言って一向に離す気配は見せない。


ふと思った。

彼の口調が定まっていないように感じるのは、私への接し方を考え倦ねているからなのかもしれない。


と言うことは、彼は素を出していないのかもしれない。

他人行儀で、だけどどこかお節介で。


(いっそのこと、私の事などほって置いてくれてかまわないのに。)


けれどそれを望まない自分がいる。

どこかで何かを求めている。



陽子に興味を持った時と同じだ。

私を知ることのない人達の中で、私は誰にも自ら接する事はなかった。

そんな時に出会ったのが陽子だった。

彼女もまた私と一緒だったから。



「ここです。」


(あ、また敬語に戻ってる。)


手を取られたまま、私は建物に入ってゆく。


ビジネスマンなどが住んで居そうな高級マンション。

内装、外装共に有名で、かなりの高額な値段だと聞いている。

ここらではそう有名なマンションだ。


「ぁ、ねぇ。」


こういう雰囲気の嫌いな私は、思わず彼に声をかける。


「何処に行くの?」


「僕の部屋だけど?」


振り返った彼に口早に尋ねると、意図も簡単に返答が返ってきた。


しかし、聞こえたその言葉にぎょっとする。


「う、うそでしょ!?」


エレベーターの着いた音がして、私ははっとする。


しかし返答はなく、代わりにエレベーターへと引き込まれた。


「へっ?わっ!!」


挟撃に目を閉じる。


顔にほんのり温もりを感じ、慌てて面をあげれば柔らかい髪が当たる。


自分の状況に理解できぬ間に、彼はエレベーターのボタンを押してドアを閉めてしまう。


チラリと見えたが、押した階のボタンはふたけただ。

それもかなり大きい数。


もしかしてボンボンだったのかと、妙に納得しながらもそんな事を考える余裕の出来てきた自分の頭にびっくりだ。


「‥‥もし、その力に自覚があって隠れていたなら。貴女はこれから‥‥。」


あまりに小さく。

悲愴感を漂わせるその言葉に私は眉を潜める。


頭の上から降ってくる声。


言葉の意味を理解すると共に、私は勢いよく顔を上げる。


「どういうこと。」


面と向かって顔を見て言う。


伏せ気味になっていた彼の瞼が驚きに見開かれる。


「その言葉の意味のままに。」


しかしそんな事を言われても困る。


眉を顰めた私に、ひとまず私から離れた彼が頬に手を当てる。


ビクリ


震えた私にはお構い無しに、今度は腰に腕を回され、引き寄せられる。


こんな事をされる理由が分からない。


「放し、て。」


先程までは背中を向けて引き寄せられていたが、今度向かい合わせに抱き寄せられた。

それも、密着しているため息苦しいし、彼の顔を見る事も叶わない。


「これからいろいろな事が起こります。それでも自分の道を間違わないで。」


それだけ言うと、彼は私から手を離す。


私は尋ね返そうとするが、それを許さない雰囲気にのまれて結局言い出せなかった。



エレベーターが指定の階にたどり着いたのは、それから程なくしてからだ。


黙々と前を行く彼。

私は仕方なしに少し離れた後方を行く。


何故だかぴりぴりしているような気がする。

確証はないが。


敢えて言うならば仕種だろうか。


そんな彼の態度に、私の不安は募るばかり。



そして着いたのは突き当たりの部屋。


ドアを開けて促される。


足を踏み入れた私。



その時気づくべきだった。

彼の様子がおかしかった理由に。


私が振り返った時。

それは調度扉が閉められるのとほぼ同時だった。




―――バタン




慌ててドアに駆け寄りノブを回すが、動かない。


「ちょっと!どういうつもり!?」


しかし返答は返って来ることはなかった。



6月13日の更新でした。


とりあえず一段落。

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