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春風の華  作者: 真条凛
日常の中の歪み
3/17

再会と言う名の腐れ縁

サイトで更新していましたが、こちらに載せるのに少し間が‥‥


6/2

ぶらぶらと、お弁当を手に歩く。

野外には生徒は全く居なかった。

室内外ではあまり放送が聞こえない。だからいつもは外で食事をしている生徒も、今日は室内でいるようだ。


取り敢えず、陽子と私だけが知っている場所に向かう。

教室から少し離れているのが玉に瑕だが、誰も来ることはなく、心休まる憩いの場の一つである。


陽子と二人で設置した木のベンチに腰掛け、お弁当を広げる。

此処なら全く放送の音も届かない。


安心して食事をしていると思わぬ声がした。


「また会ったね。」


背後から聞こえたその声。


(うそん)


たらりと冷や汗が流れる。


渋々振り向けば、そこに居たのは案の定。昨日会った美少年。


「なんで、ここに居るの。」


思わず舌打ちをしてしまいそうになる。そんな私の気持ちを誰か理解して下さい。


「なんでか?って。ここの生徒だからに決まっているじゃないか。」


いや、私の知りうる限り、こんな目立つ生徒はいない、と思う。


だが、教室に顔を見せずとも保健室通いの生徒は何人もいる。理由は様々だ。

クラスに馴染めなかったり、精神的に受け付けなくなった人。そしてイジメ。


「まさか、本当にこの学校の生徒なの?」


そうは思いたくはないが口にする。


願わくば、コイツを不審者として学校に突き出せる確率が1%でもある事を祈って。


しかし、そんな儚くも無情な願いは粉々に打ち砕かれた。


「そのまさかだよ。」


嗚呼、コイツが保健室に通っているような柄には、どうしても見えなかった。


敢えて言うなれば、サボって保健室に通っている姿しか想像できない。



(い、嫌だ。)


今すぐ背を向け、コイツとおさらばしたい。

だが、行動する前に私の手はヤツに取られていた。


(い、いつの間に‥‥)


「この手は、なんなんでショウカ。」


「いや、確保のために、ね。」


ね、じゃないだろう。

一見、爽やか少年に見えなくはないが、私の目には悪魔に映る。

きっと背後で見える尖った尻尾は幻覚ではないはず。


「確保ってなんの冗談デスカ。」


思わず片言になってしまったではないか。


いや、洒落にならないよ。確保とか。


「こうでもしないと君、逃げちゃうから。」


逃げますよ。そりゃあ逃げますとも。

私はあんな、非現実的な現象とは関わりたくない。し、非現実的な相手を倒した人とも係わり合いになりたくない。


そして、そんな颯爽と笑わないで。

いい人に、錯覚して見えちゃうから。


「あ〜、うん。君の思っている事は大体分かるけど。取り敢えず僕の話しも聞いて欲しいんだ。」


あ、まともな人に見える。


うん。取り敢えず女の人には困っていないだろう。


「余所を当たって下さい。」


だが、新手のナンパにしか私には見えなかった。


彼の掴んでいた手からスルリと抜け出し。お弁当箱を引っ付かんで、私は脱兎の如く逃げ出した。


(私は一般市民でいたいのよ〜)


あんなのと関わった次の日には、色んな意味で不幸な毎日になると、私は断言できる。


願わくば、もう、これ以上係わり合いになりませんように。






息を切らして、教室に入って来た私を怪訝気に見る生徒。

そんな目線に構わず、私は陽子の元へ一直線に向かった。


「何事かと思ったじゃん。どうしたの?桜が余裕なさ気なのは珍しいよ。」


「‥‥私も何時だってだって余裕がある訳じゃないわよ。」


息を整えながら口を開けば、意外げに陽子が様子を伺ってくる。


「実際何があったの?今の時間、外に出ていた人はゼロに近いと思うんだけど。」


「ゼロなんかじゃなかったわよ。普通にいたわ。あ〜ぁ。出歩くんじゃなかった。」


やり直せるならやり直したい。

出来れば、昨日の帰路から。


「誰に会ったの?桜の苦手な橋本先生?」


確かに橋本先生は苦手だ。

尋ねられる個人の質問に、のらりくらり交わしていても、食い下がって質問される。

あれは最早、苦手の域を通り越して嫌いだと断言できる。


「橋本先生は苦手、じゃなくてだいっきらいよ。」


そう吐き捨てれば、陽子は苦笑を返すのみ。


もう少し違う反応が欲しかった。


いや、そこで下手に慰められたら心がくじけそうだ。


「で、話しを戻すけど。外で誰と会ったの?」


「陽子。ホント良い性格してるよね‥‥。」


さっきの今で、この質問する?


渋々思い腰をあげ、先程合った事を語りだす。


昨日の非現実的な事は勿論除外。

だが、今日初めて会ったと言うには語弊があるため。彼を見かけた事がある、とだけ言った。


「名前は何て言うの?」


「さあ?知らない。そんなの興味ないもの。」


興味を持った時点で、私の平凡ライフが終わりを告げるだろう。確実に。


私の返答に陽子は飽きれるが。

私には知ったこっちゃない。

なにせ、私の人生が掛かっているんだから。


「じゃあ、容姿は?」


これなら答えられるでしょう、と持ってこられたこの質問。


きっと陽子は新聞部の情報を駆使して、彼を突き止める気だ。


「容姿‥ねえ。」


「え、なに?芳しくないの?」


新聞部の影響なのだろうか。

陽子の言葉が、が記事を書く時の口調になっている。


いまどきの高校生が、芳しいとか言う言葉、普段は使わない。


「芳しくない、ねぇ。そんな事はないけど。むしろ麗しい、みたいな?」


あの容姿を芳しくない、と断言できる人が居るものなら。是非ともお目にかかりたいものだ。


「桜が容姿を褒めるなんて。滅多にないのに。珍しいわね、今日は。」


「否定のしようがなければ、私だって肯定くらいするわよ。」


「そんなもんなの?」


「そんなものよ。」


結局陽子は、引き際はしっかり区別している。

ふれて欲しくない事には疑問を持っているだろうが、一切触れる事はなかった。






ホームルームが終わり、バイトに行くべく支度をしていると。

何やら廊下が騒がしくなった事に気付いた。


「なんなの?」


私の脇で待っていてくれた陽子に尋ねてみる。

が、先程から側に居た陽子が知るわけない。


「きっと女子生徒に人気のある男子が、廊下にでも居るんでしょ。」


「なんで廊下に溜まるかなー。帰る邪魔じゃない。」


荷物を詰め終わったスクールバックを手に。

教室の外へと向かう。


人だかりのできている方へは、さして興味を見せず反対側にある階段へと歩む。


頭の中では今日の晩御飯のメニューを考えながら、陽子と他愛もない事を話す。


そこに割り込む声があった。


「やっと見つけた。」


ばっと振り向けば、あるはずもない顔が会った。


「あら、美男子クンじゃない。」


焦った私よりも先に話し掛けたのは陽子だった。


「なんでしょうか?その呼び名。」


「私が命名してあげたのよ。有り難く思いなさい。」


手元で開いていたケイタイをパタンと閉じ、腰に手を当ててそう言って退ける陽子を心底凄いと思う。


「いえ。ぜんぜん有り難くも何ともありませんから。」


まあ、命名される側からすればそうだろう。



その時カバンに入っていた携帯電話が鳴った。


急いで取り出すと、メールの相手は陽子だった。



まだ二人で何やら言い合っているが、いつの間に送ったんだろう、と思う。


そう言えば。


有り難く思いなさい、と言って退けた辺りで携帯を閉じてたな、と思い返しつつ。メールの内容を読む。



宛先は陽子。


彼女曰く、



『コイツの相手は私が引き受けてあげるから、今の内に逃げて。

バイトに遅れるでしょう?』



というものだった。



ちらりと陽子を盗み見れば、携帯を手にした方を後ろにし。


相手には分からないように私に手を振っていた。



ありがとう、と心の中で思いながら、有り難くこの機会を活用させてもらう。



そうと決まれば、機微を返して階段を駆け降りる。



その時、名前は知らないが、陽子曰く美男子の声がしたが。


シャットアウトして振り向かなかった。




6月2日の投稿でした

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