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春風の華  作者: 真条凛
日常の中の歪み
2/17

きっと

前の投稿から少し立ちましたが、第2部です


6/2 月鈴

翌朝、いつもより少し遅めに学校に着いた私は、周りの空気の違いを敏感に感じ取った。


「何かあった?」


学年一、ゴシップねたが大好きな陽子に尋ねる。


「あっ!おはよう、桜。」


うん。

今日も元気一杯だ。


「おはよう、陽子。」


「まだ桜は例の噂、知らない?」


けっこう有名になってるよ、と私に駆け寄りながら言ってくる。


「例の噂?知らないけど。何かあったの?」


噂は知らないが、悪い事ではなさそうだ。


「それがね、転校生が来るって専らな噂よ。」


「へぇ〜。この時期に転校生だなんて珍しいもんね。」


「それがね、珍しいだけじゃないの。なんとその転校生、美形らしいって。」


「ふぅん?そうなの。」


「桜ってばつれないわ。」


「だってあんまり興味をそそられないからね。」


話ながらも手は一度も止める事はなく。鞄から取り出した教科書やら、文房具やらを机に仕舞ってしまう。


「聞いときながら、それはないよ。」


全く食いついて来る様子がないのが気に食わなかったのだろう。陽子は少し拗ねぎみだ。


「でね、その転校生。男の子なんだよ。」


それを聞いて、ふと頭を横切った考え。


(まさか、ね)


否定はしてみるが、何処か信じていない自分がいた。






予鈴が鳴り、ザワザワしていた空気が次第に治まってくる。


転校生が来るからと言って、このクラスに来るとは限らない。

きっと皆そう思ったのだろう。


一限目が始まる頃には何時もの、風景が広がっていた。

その事に私は安心する。


窓側の席から良く見える青い空。

まるで昨日の土砂降りの雨が嘘のようだ。


何時もと何ら変わりのない日を私は望む。

変化なんて要らないし、起きてほしくない。



そう思っていたのに‥‥‥。






私の日常は移り行く。






結局、転校生が入ったのは二つ隣のクラス。

言葉にしてみると以外と近そうに聞こえるが。

実際、間に階段やら他目的ルームなどが有り、結構距離はある。


だが皆はそんな事をものともせず、短い休み時間に噂の転校生を一目見るべく押しかけて行った。

勿論ゴシップねたが大好きな陽子も、例外なく休み時間の間に見に行ったようだ。


息を切らせながら帰って来た陽子は、興奮気味に喋る。


どうやら同年代の生徒だけではなく、上の学年やら下の学年やらも来ていたようで、ごった返していたようだ。


「そこまでして拝みに行った、転校生の見目はどうだった?」


「うん。美男子!」


「‥‥それだけ?」


もっと他にもあるだろうと、尋ねるが、その一言だ。


「にしても、たった一日でそこまで広まるだなんてね。」


「あ‥‥、うん。」


何だか歯切れの悪い陽子。

今の会話で、そんな要素は一つも無かったように思うが。


「何?その微妙な応答は。」


「‥‥‥。」


なかなか口を割ろうとしない陽子に痺れを切らし、私は再度尋ねる。


「私には言えない事?言える事?せめてそれだけは答えて。」


「‥‥言えなくはないんだけど。」


「けど?」


「怒らない‥?」


つまりは私が怒るような事をした、と。


「断言は出来ないけどね。」


さあ、話して、と詰め寄れば。

陽子は引き気味に目を逸らす。


「今日の朝、早めに着いたから職員室に鍵を取りに行ったんだけど。」


「?」


「職員室にあるソファーであるモノを見つけて、思わず写メって送信しちゃったんだ。」


「‥‥もしかしなくても、あるモノって転校生の事?」


「もしかしなくても転校生。」


「あなた、いまさっき初めて見たんじゃないの?」


「目を開けているころは初めて見たんだけどね。」


要するに、相手が眠っている間にヤツを写メったと。

だからさっき見てきた時の反応が、美男子。の一言に成るわけだ。


「ついでに尋ねるけど、一斉送信したんでしょ。陽子のことだから。で誰に送ったの?」


「‥‥新聞部と情報部と放送部。」


嗚呼、これでは目も当てられない。


「新聞部は陽子の所属する部活だから、納得したくなくても納得するけど。情報部と放送部はやり過ぎじゃない?」


「うっ‥‥。そう言われると胸が痛いです。」


「ましてや、ここの情報部は情報獲得と共に、メルマガを取っている生徒全員に情報が行き渡るのよ。」


情報部は何か一つでも情報が入ると行動しだす。しかもその行動が迅速且つ正確。


「放送部はまだ行動していないけどね。目に見える範囲では。」


きっと水面下では凄い事になっているだろう。

その転校生には心底同情する。


「きっとお昼には、全校生の耳に楽しい話題が入ることね。」


「何気に、桜の方がえげつないとあたしは思うよ。」


「あら。それは心外よ。あくまで、私は昼の放送が気になるだけだから。」


どうせ聞きはしないけどね、と言えは。

陽子はまたか、と呟く。


彼女は、私がその手の事が嫌いなのを良く分かってる。



きっと、情報部から回ってきたメールの情報のおかげだろう。

クラスメートが幾人もお昼休みを今か今かと待ち構えている。


ただし。大半の男子は面白くなさ気な顔。


当たり前と言えば当たり前だろう。


そして注目の昼休み。

女子達は先程の休み時間から、放送の流れるスピーカーの音量を大にしており、準備万端だ。

ただし、授業終了のチャイムが最大で教室内で鳴り響いたが‥。


『皆さんお待ちかね。放送部の「昼時パーソナルTime」。

今日のお相手は、皆さん知っての通り、今日2年生に転校してきた春崎(ハルザキ) (アオイ)君です。』


授業終了のチャイムが鳴り終わるのを待たず、放送部の「昼時パーソナルTime」が始まった。


元気いっぱいに言葉を紡ぐ、放送部部長の菅沢さんはきっと満面の笑みで喋っているに違いない。

そして敢えて、何故授業のチャイムが完全に鳴り終わる前に、放送出来たのかは突っ込まないでおこう。


取り敢えず、見も知らない春崎 葵氏には心底同情する。


『しかし今日のお相手、葵君はインタビューを拒否されまして。今日はテープレコーダーでのインタビューとなりました。』


少し残念気な女子達。


しかし、転校生の声を聞けることには変わりはないので文句は出なかった。

きっと休み時間でお目にかかなかった子も居るのだろう。

それに、彼女達の様子から、見れたとしても、必ずしも相手がしゃべっているとは限らなかったようだ。


「ねえ、陽子。私、外に行って食べて来る。」


「あっ。やっぱりそうなる?」


黙って頷けば、陽子は笑って手を振ってくれた。


少しざわついている教室を、お弁当を手にし、抜け出す。

生憎、陽子以外は私が教室を出た事に気が付いていないだろう。



6月2日の投稿でした

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