口にできない歯痒さ
8/12
の更新です。
「サクラ!!」
「えっ!?」
背後から襲ってきた突然の衝撃。ふわりと良い匂いがする。
嗅いだことのあるそれに一気に安堵感が押し寄せて来た。
「……リアリさん。」
探してくれていたのだろう。何時も綺麗にセットされている髪は纏まりがなく、私を呼ぶ声にも余裕はなかった。いつもはちゃん付けなのにそれが無いのに彼女は気付く余裕もなさそうだ。
「やっと見つけた。探したのよ……私達が一人にしたのが悪かったんだけど心配したのよ。」
「リアリさん……。」
ぎゅうぎゅうと抱きしめて離さないリアリさんの腕。
ああ、私は彼女に心配をかけさせてしまった。
私の最も嫌いなこと。それは心配を掛けること。
「ごめんなさい。」
本当は心配なんて掛けさせたくなかった。でも謝ることしか出来なくて、歯痒い。
「謝らないで。謝るのは私達の方なんだから。三人も一緒に旅していながらこのざまよ。」
身体をいったん離しキュッと手を握る。
「帰りましょ。」
握られた手は温かく、私の冷えきった身体を少しでも温めてくれているようで。だけどそれより「帰ろう」と言ってくれた言葉が何よりも心に染み込んだ。
きっと私は無意識に自分の居場所を探していたんだと思う。帰る場所。認められる場所。休息なる場所。安心できる場所。
前の世界では当たり前に存在していた場所。
だけど何もかもが違う見知らぬ土地では自分を知っている人がいなくて、自分が知っている人もいなくて。甘えも、縋ることも何もかも許されないと思っていた。
たった一言。それだけが欲しかったのだ。
私が求めていたもの。
「リアリさん、……ぁりがとぉっ。」
キュッと体温を求めて彼女に縋り付く。
涙を見られたくなくて、だけど縋りたくて。
そんな私の内心を知ってか知らずか、リアリさんは優しく手で抱き留めてくれる。
改めてそれをどれだけ求めていたのか思い知った。
「いいえ。……どう致しまして、と言った方がいいかしら?」
「はい。」
「なら、もう敬語はナシね。」
「えっ!?」
「だって堅苦しかったんだもの。それから私のことはリアリって呼んでね。約束。」
驚いて涙が引っ込んでしまった。
なんでこのタイミングで言うんだ。
けどちゃっかりナイルさんロイさんを脅す時の片鱗まで見せて。これは拒否権なしだ。
「了解?」
「り、りょうかいデス。」
早速冷や汗をかいてしまった。
さっきまでの再開ムードは何処へやら。
私はしっかりペースを乱されていた。
本当に似ている。香坂瑠美さんに。独特な雰囲気とか、この強引だけど嫌いになれない所とか。得に似ているのは相手の本当にされて嫌な事は弁えており、それをしないと言う所。
だからなのかもしれない。嫌いになれないのは。
「それじゃあ拾うもの拾って早く帰りましょ。」
拾うもの?なんだろうか。物凄く気になる。
取り敢えず私は、リアリさんに付いて行けば何とかなるだろうと付いて行った。
私達が立ち寄ったそこ。
そこは敵のアジトだったのだろうか。様々な物が散乱していた。
「やっぱり、ね。」
はあ、とため息混じりに頭を抱えるリアリさんには何か思うところがあるのだろう。
「サクラちゃん。急がないとこの建物崩壊しかねないわ。」
「はいぃ?崩壊!?まだこんなにも真新しいじゃないですか。」
そうなのだこの建物はそこらで見かけてきた民家よりしっかりした造りで、尚且つ真新しいのだ。こんな建物が崩壊だと言うリアリさんの言葉を疑ってしまうのも無理ないだろう。
「そうじゃないの。問題なのは建物ではなく中に居る人よ。」
あの馬鹿が、と悪態を付く様から何となく分かってしまった。分かりたくもなかったが……。
「ロイさん達、無事でしょうか……?」
「あれは100回、いや2000回地獄に突き落とされようとも生きて帰ってくる質よ。残念ながらね。」
(え、なにに残念がるの?リアリさん)
「でも仕方ないわ。崩壊する前には頑張って止めましょうね。」
同意を求めると言うことは、どうやら私も止めに入らなければならないらしい。
なんだか自信がない。
リアリさんなら二人を止められなくもなさそうだが、私にどうしろと言うのだろう。
まあ、その時はその時だ。
成るように成れ、と腹を括れば幾分気は楽になった。
「ナイルさん達はいつから此処に?」
「そうねー。かれこれ10分前くらいかしら。」
(10分!?短かっ!!)
驚きの速さだ。
私はもう何も言う気にはなれなかった。
取り敢えずリアリさんに付いて行けば易々と建物内に入る事ができ、辺りを見渡す。
「あっ!!」
そこで気付いた。この場所は私が連れて来られた部屋と造りが似通っている。ということは、この建物は私がさっきまで居た場所と言ったところか。
「どうしたの?」
「いやあの、この造り見たことあるな、と思った所で。」
「そう?良くある造りよ?」
この街の三割方がこの造りだと教えてもらう。それでも何か感のようなものが働いて、此処が間違いなくあそこなのだと訴えて来る。
リアリさんはそんな私を横目に見ると。
「全員そろったら説明よろしくね。」
と言った。
「説明……ですか。」
「何をしていてどうなって、今までどんな状況だったのか諸々よ。」
「あ、う〜。そうですね。」
今思えば、きちんといきさつも経由も話していない。
でもどうやってあの状況を説明しろと言うのだろう。特に気が付いてフォー君に助け出された辺り諸々。
自分でも不可解な事が多すぎる。なのにそれを言葉で説明しろと言うのますます困難なことだ。
「上手く説明できなかったらごめんなさい。」
ちらりとこちらを見たリアリさんは軽く首を捻る。そして言った。
「まあ、気が動転してもおかしくないわ。だから分かる範囲でいいの。」
「は、はあ。」
どうやら彼女は説明できない理由をそのように思っているようだった。確かに始めこそ動転していたが、話せない理由はそれとまた別。それを上手くリアリさんに伝えることができなくて、取り敢えず返事を返すだけだった。
そして頭の中では整理をしようと悶々と考えていれば、唐突に裾をクイッと引っ張られた。
「あの?」
「しぃっ!!」
慌ててそう言われれば、私は思わず口を押さえる。どうやら目的地に到着したようだ。
リアリさんは耳を壁に押し当て、ドアの隙間から中を覗いている。
なんだか様になっている、と緊張感の抜けた私は失礼ながらもそんな事を思った。壁に耳を押し当てなくても音は拾えたがそれでは十分とは言えず、切れ切れに言葉が聞こえるのみ。
(あ……今の、ロイさんの声だ)
そして今さらながらこの部屋の中に彼等が居るのだと確信する。元よりリアリさんは気付いていたようだが、生憎私にはそのような察知能力は皆無に等しい。
愛の力はスゴイなぁ、などと見当違いな事を思うも、それを正せる者はここにはいないのだった。
バキィ
しかし突然鳴った何かが折れる音で私は思考を戻さる終えなかった。そして私達は部屋に駆け込んだ。
乗り込んだそこは確かに私が捕まっていた場所で、だけど見る影も無くボロボロに破壊されかけていた。そこに乱闘があった様を表すように埃は舞い散り、古くても精一杯整えられていた置物等は破壊。極めつけには床に穴まで空いていた。
「うわ、―――ゴホォ…ゴフッ!!」
例の如く埃を大量に吸い込んでしまった私は大きな咳をしてしまった。
そのせいで私達が部屋に入ったという事は、良くも悪くも知れ渡ってしまう事になる。
「「嬢ちゃん/サクラさん!?」」
「―――と、私もいるわよ。」
「何故ここに。外で待機と言ったでしょう!」
「しかも嬢ちゃんまで一緒とは驚きだよ。」
「あの……?い、いろいろあって……。」
見事なリアクションを見せてくれた二人。しかし私は質問に答える事ができなくて、結局説明はできない。
「おいおい、オレ達を忘れちゃあいねぇーか。」
いかにも再会した瞬間綺麗サッパリと盗賊の存在を忘れていた私達。リアクションからありありと伺えるその事実に、声を掛けてきたリーダーらしき男の眉間の青筋がピクリと動いている。
嗚呼、怒らしてしまったな、などとよそ事のように受け止める私。
きっとそれが怖くないのは側に3人が居るから。力強い存在感。だだそれだけで安心してしまうからだと思う。
「それにしてもよぉ―――」
また別の男が口を開く。盗賊は皆髪が同色の灰色。ただ灰色と言ってもリアリさんのようには綺麗な色をしてはおらず、その上全員兄弟かと思うほど顔が似通っているのだ。
結局何が言いたいのかと言うと、見分けがつきにくいのだ。
確かにリーダーらしき人物は他の人よりがっしりとしており、腕の古傷が目立つ。だけどそれだけなのだ。
しかしその彼の口をついて出た言葉に雷をうたれる。
―――いったいどうやって抜け出したんだ、と。
その後に確かに彼はこう言った。
部屋の鍵は掛かったまま、窓も開いていないしここはそもそも2階なのだと。入口の見張りも異常は無かったのだと。
こうなれば明らかおかしいのは薄明だ。
「―――……っ!!」
しかし言える訳無い。
言葉を詰まらせ言いどよんでしまった私。
目を泳がせこそしなかったが、相手の顔を真正面から目にすることができない。
「あんたたち、逃げられたことを体よくサクラちゃんのせいにしようっていったってそうはいかないわよ。それはたんにあんたたちの不手際なんだから、人に押し付けないで。」
「な、なんだとぉ。このあま!!」
鼻息荒々しくも言ってのけるリアリさんは、私が言いづらいことを知っているから。その気遣いが嬉しくも、話せない自分にとっては辛かった。
更新遅くなりまして申し訳ないです。なかなか色んな事が手付かずで……。
取り敢えず8月12日の更新でした。