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春風の華  作者: 真条凛
歪みの後の邂逅
16/17

確かに在った存在

7/30

の更新


区切れが悪くて申し訳ないです。


「どうもこうもなぁ。オレ達ちゃー金になる事ならなんだってするさー。」



「この街の奴らはみんなそうさ。」



何となく。

何となくこの街が盗賊被害に見舞われても尚、周りが援助をようしない理由が分かったような気がする。


盗賊は一グループだけではなかったと言う事だ。住民の中にもおり、援助を要する機関自体が腐敗しているのだと思う。


けれど確かに助けを乞おうとした住民も居たはずだ。

この街の人が全員そうで有るはずはないのだから。



「その他の人はどうしたの。違う人も居たはずよ。」



「おお?興味があんのかぁー?」



なんとか時間さえ稼げればナイルさんが戻って来る。それまでは何としても時間を稼がなくてはならない。


この街の人はどうやら全員が敵な訳ではないのだろうけど、味方でもなく、助けは期待できない。


先ほどから数人近くを通った人が居たが、全てが目すら合わさず先へと急いだ。


きっとこのような事は日常茶飯事なのだろう。それ程までに手慣れた動作だった。



「ええ。是非とも興味があるわ。」



今はなるべく言葉を繋ぐ事が最優先だ。



「なら教えてやるよ。なあー。」



「おー。オレ達に付いて来たらの話しだがな。ヒッヒッヒッ。」



しまったと思った時には時既に遅く、ブンと何かを振り下ろされる音と共に私の意識は飛んだのだった。







‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐







「ねえナイル。サクラちゃんは?」



現場に漸く駆け付ける事が出来たあたしとロイは、焼け焦げた民家の木材を調べている彼へと近付いた。


辺りには多少の野次馬と、近辺の家々の住民が集まってこちらを見ている。


しかし被害に遭った民家の住民は現れない。



「彼女なら中央広場で待機していてもらっています。あの人混みの中宿に帰すのもどうかと思ったので。」



「中央広場?だったら俺達がそこ通って来たぞ。」



なあ?と同意を得るように振られた言葉に神妙に頷けば、ナイルは弾かれたように振り向いた。



「サクラちゃんが自ら離れたとは考え難いわ。あの子は人に心配かけるような事は極力避けるような子よ。ましてや出会って数日しか経っていない私達にはね。」



「それに俺達が通った時は少々人は減っていたぞ。そんな中嬢ちゃんが居れば十分目立つかんな。分からないと言う方がおかしいさ。」



「……まさか、誘拐されてたり…しないわよね……。」



「「…………」」



恐る恐る口にしたそれは、如何にも現実味があって口にしなければ良かったと後悔する。

口にしてしまえば本当ぬそのように思えてしかたがないのだ。


否定も何とも無しの二人を見れば、どちらも難しい顔をして黙り混んでいる。



冗談で言っただけ、だなんて口に出来ればどんなに良いだろう。口にした言葉は二度と戻っては来ない。分かってはいるけど、どうしても悔やんでしかたがない。



「少し行って来ます。」



「おいちょっと待てよ。今お前が抜けてどうする。現場は?」



「だが―――」



「―――あんたは此処にいなさい。私が行くわ。」



普段の丁寧語が抜け、慣れた者にしか晒さない口調になっているナイル。彼は自身の変化に気付いてはいないのだろう。気付いていたらそんな口調には成ってはいないはずだ。

勿論それにロイも気付いているはず。



「俺も行くからな。だから心配すんなって。…今此処をお前が抜けたらどうなる。俺が残っても役職上俺の手には有り余る仕事だ。だからお前が残れ。」



伊達に宰相と近衛騎士団長勤めてないんだろう、と彼が言えば。漸くナイルはハッとして動きを再開する。



「当たり前だ。」



自信ありげに言ったその言葉。今度は無意識下ではなく、きちんと気付いて使い分けている。



「そうじゃなくちゃ困るわ。」



いつも通りの会話に安心させられるのはあたしだけではないはず。隣のヤツも気付いただろう。



そしてあたし達はすべき事を成すために動き出した。



(心は一つに)

(成すべき事はただ一つ)


(((彼女を助け出すんだ)))







‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐







ゆさゆさ、ゆさ


―――だれかに肩を揺さ振られている



―――ダレ?



重たい意識。

なかなか浮上する事のできないそれに私は歯痒い。



ゆさゆさ、ゆさゆさ



再び揺らぐ私の身体。

今度こそ目を開けようと、お腹と瞳に力を入れる。



ゆぅっくりと開く瞼。

そこに映ったのは見たことのない子だった。



「―――だ、れ?」



喉が掠れ、上手く喋れなかった。でもどうやら言いたい事は伝わったようで返事が返って来る。



「フォーシダ。」



ただ簡潔に名だけを述べる彼、フォーシダは身形(みなり)からして5、6才に見える。驚くほど幼い。



「ふぉーしだ?」



確認のため口に載せてもあまりしっくり来ない。やはり発音だろうか。

首を傾げて悩む。


だから気付かなかった。

彼がそのあまり表情の無い顔で驚いていた事に。



「ふぉーしだ、ふォーしだ、フぉーシダ?」



「………フォーシダ。」



「フぉーシダ?」



「もうフォーでいい。」



なんだか不毛なやり取りに終止符を打ったのはフォーシダだった。



「フォー、でいいの?名前、ちゃんと呼んでくれないと嫌じゃない?」



「いい。」



一瞬ピクリと表情が動いたような気がしたが、ハッキリとその変化に気付く事はできなかった。


もしかして怒らしてしまったのだろうか、と心配してみたが。どうやらそうでもないようだ。

カンなのだが………。



「それより、いそぐ。」



「え?」



フォーシダに言われて辺りを見渡せば、そこは見知らぬ場所。

そして一度は忘れて頭の痛みに再度気付けばそれは鈍く存在を主張してくる。



「ああ、私はあいつらに捕まったんだ。」



「だから、いそぐ。」



片言、ではないけれど言葉数少なに今の状況を語ってくれる。

彼はどうやら私を助けに来てくれたのだとか。

この際‘こんなに小さな子が?’と言う疑問はスルーしようと思う。見る限り悪い子ではないようだし、むしろしっかりしていると思う。


この世界に来てから初めて自分以外の黒髪を目にした。柔らかそうなフォーシダの髪の毛は毛先に癖があるのか可愛く髪の毛が跳ねている。



思わず感極まったようにグリグリと頭を撫で回してしまう。



「フォーも黒髪なんだね。―――柔らかい……。」



その行動に絶句している辺り驚いたのだろう。



「………いそがないと、。」



「あぁ、うん。ごめんね。」



(だって気持ち良かったんだもの)



我に返った私は立ち上がり、手首がヒリヒリと痛む事に気付く。



「あれ?私こんな所怪我したかな?」



私の知りえる限り身に覚えがない。少し赤くなっているそれをさすっているとフォーシダが振り返った。



「イタい?」



「うーん。少しヒリヒリするかな。」



「………これ…。」



そう言って手渡されたのは軽く濡れた布。ハンカチの様な物だ。

これで冷やせと言うことだろうか?



お礼を言って受け取ろうとすれば、彼は自ら私の手首に巻き付けてくれる。

巻き付けてくれた手は右手。

フォーシダは巻き付けた後私の左手首を気にしたように見る。


痛むのは右だけではなく、両手首だ。恐らくそれを気にしてくれているのだろう。



「いいの。ありがとね。」



そんな心配がくすぐったくて、私は笑ってお礼を言う。

家族も居なく、親戚の居ない私にはあまり小さい子に触れ合う機会が無かったのでどれも新鮮で。小さい子はみんなこんな感じなのかと驚く。



クイクイッと袖を引っ張られ私は今の状況を思い出す。


服は多少乱れてはいたが特に問題はなさそうだ。適当に服装を整えると確認はそれだけにフォーシダに付いて行く。

薄暗い部屋だったが不思議と辺りを見渡せれる。大体の大まかな物は目でハッキリと捉える事が出来た。

積み上げられた木箱に脚の折れた椅子。テーブルクロスのような布が窓に吊されている。ホコリを被っているが、カーテンの代わりのつもりだろうか。端はほつれ、所々開いている小さな穴が窓からの光によりやけに目立つ。

何処もかしこもホコリを被っている事から長らく使われていない部屋なのは十分分かった。その割には大分部屋には余裕があり広い。


取り敢えずフォーシダに付いて歩けば、何処に在ったのかドアにたどり着く。



「ここからにげれる。」



クイッと顎で私を先に促す彼は何だか真剣だ。元より真面目な感じではあったがそれとは少し違う事は分かる。


ドアノブを「回していいの?」と聞けば、鍵は付いていないと言う。

左腕で思い切ってノブを回す。幾分古い音がして、軋む音はしたが無事に開いた。

一歩外に出れば、暗い所から居た反動で辺りが良く見えない。

目を細めてそれを凌いでいると声がした。



「きをつけて、‘さくら’。」



「えっ!?」



それは確かにフォーシダの声で。振り返った時にはそこに在ったはずの物が無かった。

それは確かにそこにあったはずで、私はそこから外に出たのだから。



「フォ、ーシダ?」



辺りを見渡せばフォーシダの姿も何処にも無く、私は唖然とする。唖然とするあまり名前をしっかり発音出来た事にも気付かなかった。



私は、確かにそこに在った存在が余韻すら残さず消えてしまった事に衝撃を覚える。

そして気付く。私はいつ名前を名乗ったのだろうと。

そして去り際に彼が残した言葉。それは単に、別れ際にこれから気をつけてと言っているものではなく、もっと他に意味が有るように思えてならなかった。



より一層謎が深まる。

ただ私が知っているのは名前と姿だけ。

そのことに異様なまでの疾走感を感じたのは何故か。



答えは見つかる訳もなく、私にはこれをどうする事も出来なかった。




子供に対して何か間違った常識を知ってしまった主人公……



7月30日の更新でした。

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