ただ笑っていたかった
7/18(月)
の更新
「ろ、ロ、ロイさん!!突然なんなんですか。放して下さい。」
リアリさんを抱き込むのは分かる。
だが、私まで巻き込まれる理由が分からない。
勿論リアリさんも焦っていた。
私を真ん中に挟んで、向かい合って抱擁しているのだから。いつもの余裕は何処へやら、狼狽している様も珍しい。
「ナイルには上手く言っといてやったぞ。そしてこの町は今日で立つからな。」
「はあ、そうですか………、え?今日で立つんですか!?」
本当に突然で驚く。
何でも今頃言うんですか、と抗議を上げるが。悪いが、俺が決めるんじゃないんでな。と言われ、反論できない。
「なら、私はここまでですね。今までお世話になりました。」
「「えっ!?」」
深々と頭をさげて感謝の旨を伝える。
当然、何処かの町に着くまでだと言う約束だった。
心細いがこれ以上お世話になる訳にはいかない。
「どのくらい掛かるかは分かりませんが、お世話になった分は働いてお返しします。」
私的には、連絡先を教えて貰って、働いたお金でお世話になった分を払おうと考えていた。
しかし、彼等の反応は予想に反していた。
「ちょっと待って!なんでそうなるの。」
「そうだぞ。訳を話せ、嬢ちゃん。」
「なんでって、町に着いたじゃないですか。」
(それより、嬢ちゃんってナニよ)
少々ムッとするが、これでお別れだ。
この際言い合いをしたくない、と言うのが本音だった。
「確かに嬢ちゃんはそうは言ったがな、俺らはそのことを了解した覚えはないぞ。」
「なあ、ナイル?」と、いつの間に現れたのか、私の背後立っていたナイルさんに振るロイさん。
(背後に立たないて下さいよ……。)
やはり人間の本能的には、後ろに立たれると精神的に何かくる。
「話しは聞かせて貰いました。」
ニッコリと笑ってそうナイルさんは、清々しいまでに良い笑顔っぷりだ。だが、その後ろに黒いものを感じたのは気の所為だと思いたい。
「ナ、ナイルさん。いつからそこに?」
「ついさっき来たばかりですよ。」
(絶対の人始めかっから居ただろう。)
ロイさんを睨む。
(知ってて言ったわね。)
「ある程度はこうなる事を予想していたんだよ。」
嬢ちゃん、そこんとこキッチリしてそうだもんな。そう言われ、私はぐうの音も出ない。
「ですが、普通なら私達を頼ってこのまま付いて来ると踏んでいたんですが。」
ハズレだったようです。何故か嬉しげにそう語るナイルさんに私は付いて行けない。
「だったら何で私を引き止めるんです。私は、これ以上お世話になる訳にはいきません。」
「……ねえ、サクラ。この世界を知らぬまま、自分だけで生きるつもり?当然成り立ちも、文化も違ってくるのよ。それにこの町だって、全ての場所の治安が良い訳ではないわ。知らない貴女が足を踏み入れば、ただでは済まされないのよ。」
それを良く分かっている?そう言うリアリさんは、さっきまで泣いていたようにはこれっぽっちも見えない。
そして、又しても私は言い返せなかった。
彼等の言い分は正しい。
正しいからこそ言い返せない。
もう三人とも敵に見える。
この場で私を助けてくれる味方はいない。
完敗だ。
しかしそう分かっていながらも、私は最後のひと足掻きをする。
「ナイルさん達は仕事でここまで来たはずです。なのに私なんかに構ってどうするんです。」
我ながら酷い言葉だと思う。
仕事の彼等に無理を言ってここまで連れて来てもらったのは私なのに。
それを分かっていながら口にする私は最低だ。
「仕事がなんだと言うんです。別に私達は仕事“命”だという訳ではありませんし。」
「でも私のせいで時間を喰ったりもしたはずです。」
「あ〜、そんなの怒るような上司もいないしな。」
どういう事が分かりかねる。
(ロイさんの上司はナイルさんじゃないの?)
頭にクエスチョンマークを浮かべる私に彼は答えてくれた。
「確かに俺の上司はナイルだが、この三人の全体的な上司とも言える仕える人が居るんだがな、その人は今いないんだ。」
「ロイの言葉ではは語弊がありますが、大方合ってます。私達の主は今年で4年間、不在をきたしているんですよ。」
「4年間も……。」
それは纏めてくれる人がいないどころか、統率が取れないのではないだろうか。
ナイルさんは騎士団長兼宰相を職としている訳だし、その主と敬う人は相当身分が高いと見る。
しかしナイルさんの事だ。大変ながらも上手くこなしているように思う。
「本当に、あのボンクラは何処で何をしていることやら……。私を過労死させる気ですか。」
前言撤回。
そうでもなかったようだ。
しかしあのナイルさんにそこまで言わすとは、一体どんな人なのだろう。
気になるのも事実だ。
「おいおい、話しが逸れてんぞ。ナイル、お前帰って来て欲しいなら素直にそう言え。」
どうやらナイルさんは彼に早く帰って来て欲しいご様子。分かり辛い愛情表現だと思う……。
(大切に思われてるんだ。)
「おっと、失礼しました。貴女は私達が何処に勤めているか知ってますよね。」
「確か、……国の中央に勤めていますよぬ?」
純日本な私には“お城”なんて言葉を言った日には羞恥で死ねる、とまでは行かずとも、羞恥で一杯だろう。
“お城”を発想すれば浮かんで来るのはメルヘンチックな建物ばかり。
海外旅行も行った事は無かったので、実際に目にした事もない訳で。想像しろ、と言う方が無理なものだ。
「国の中央?まあ、そうですね。正しくは王宮に勤めている訳ですが、そこまで貴女を連れて行こうと思います。」
“オウキュウ”……“応急”では無くて、当然“王宮”……なんだよね。
(やっぱり次元が違う)
この人達イヤだ。
絶対日本に居たら他人のふりしそうだわ、私。
遠い目をしているとナイルさんに釘を刺された。
「まさか行かない、などと言ったりしませんよね。そんな事して此処に残れば社会の闇に飲み込まれますよ。」
……うん。あれだ。会話の主旨は深く聞かない方が身のためだと思う。
(だって笑顔を貼付けて言って来るんだもん)
しかも0円スマイルどころか、借金を貯蓄された気分だ。
正直に言えば心臓に悪いと言う事だ。
(私、心不全にならないか心配……)
で、返事は?と無言の圧力を掛けつつも尋ねてくる彼はとてもイイ性格をしていると思う。
返事なんて問うまでもなくきっと分かっているに違いない。
「……行きますよ。行かないと怖そうですし。」
私がその言葉を紡ぎ出したとたんホッと安堵の息を吐き出すリアリさんに、ロイさん。
リアリさんは、きっと私の身を按じての事だろう。
しかしロイさんはナゼに?
私は、会ってしばらくしか経っていない彼に心配されるほど、彼に関わってはいない。
人を見る目が肥えてはいないから、私は慎重に時間をかける。
それは彼等に失礼だとは知りながら、それは譲れないのだ。
(だってこれは身を守る術だから……)
こうでもしないと私は生きていけない。
大袈裟かもしれないが、これが私の殻となり身を守る。
そして私はまだ下の名前しか名乗っていないことに気がついた。自ら名乗るのはこれが初めてだ。
「じゃあ改めまして、安杜木 桜です。あ、サクラ アズキ。こっちの方が分かりやすいですかね。」
私は、誰もが信用できないとは思っていない。
少なくともこの人達は、私に初めてこちらで手を指し伸ばしてくれた人達だから。
だから信じたい。
握手のために指し出した手が温かい。
優しく握り返してくれる三人の手が心地好くて、私は初めて安心して笑う事ができた。
(信じたい。)
(この人達を……)
(優しいこの人達だからこそ、私は信じるんだ)
それは、こちらに来てからの初めての憩いのひと時。
―――ただ、自然と笑みが広がった
ようやく物語の起動、的な?
なかなか上手く思うような描写が出来てないのが申し訳ないです。
まあ、一応ナイルは苦労症だと一言言っときましょう。
7月18日(月)の更新でした。