違う世界
6/29(水)
の更新
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普通、自分の隣に見知らぬ少女が寝ていると私はどういう反応をすればいいのだろう。
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私は困っていた。
それは自分の隣で寝ている少女を目にしたから‥‥
そして、それ以外にも戸惑う事は沢山ある。
また自分は見知らぬ場所に居るのだ。
この前は森で目が覚め、今度は何かテントのようなものの中で目が覚めた。
そして明か自分とは服装の違う、寝ている少女。
それに髪だって灰色。
(私初めて見たかも。灰色の髪。)
日本で灰色の髪、と言ったら。私の中には「白髪になりかけの頭」と、変換される。
いわゆる偏見、なのかもしれない。
しかし彼女の髪は違うのだ。
この私でさえ迷う事なく「灰色」だと断言できるくらいにそんな色合い。
ほぉ、と見とれていると彼女が身じろぎをした。
私はドキッとする。
後ろめたい事などないはずなのに、慌てて視線を外し、別方向を向く。
調度その時、少女が唸った。
外していた目線をそちらに向けると、上に被せられていた毛布が鼻と口に当たっており、息苦しいのだろう。
手を伸ばし、そっとそれをはらってやると、再び安らかな寝息が聞こえ出した。
それに安心してほっと息を付けば、何をそんなに緊張していたのか分からない自分。
それが可笑しくて、思わず笑う。
「目が覚めたようですね。」
だが、突然聞こえた声に固まる。
目の前の少女は依然と眠ったまま。
そして声は背後から聞こえた。
恐る恐る振り向けば、入口に見知らぬ男性が二人。
「コイツはまだ起きそうにないから、そのままでいいぞ。」
先程とは違う方声の人が話しかけて来た。その人の身なりは軽装で、動きやすさを重視したようなものだったが、どこか品のある装いをしている。
そして緑色の短髪。
「そう‥‥ですか。」
目の前で寝ている彼女の髪もそうだが、これまた珍しい色彩だ。
そして割と髪の毛を刈り込んでおり、身軽服装は、見ているこちらまで寒くなりそうなほどの薄着だ。
もう一人はこちらに歩んでくる銀髪長髪の男性。
近づいて来ている事に、思わず身を強張らせた。
それを目敏く目に留めたのか、彼はそこで止まる。
「質問を幾つかして宜しいでしょうか。」
彼のその言葉に深く頷けば、軽く目を見張られた。
何故。
彼等が問うてきたのは何処から来たのか。また、出身は何処か。
そして何故あの森に倒れていたのか。
話しによればここらは辺境地なようで、その森となれば管理は厳しい。そして私のような女性はまず見掛ける事はないようだ。
なんでも、ここまでの道のりは険しいらしい。
そんな所に女、子供を連れて来るのは、よっぽどの物好きなのだと話してくれた。
そして長髪の人はナイルさん。
短髪はロイさん。
それぞれ自己紹介をしてくれた。
そして眠っている女性はリアリさん、と言うらしい。
そこでようやく納得。先程ナイルさんが、女、子供を連れて来るのは物好きだと教えてくれた際のロイさんへの冷たい視線はそれか、と理解する。
どうやらロイさんは、リアリさんにお熱なようだ。
「けど彼女、疲れてるんじゃないですか?こんなに深い眠りだとそうとうですよ?」
彼女がいつ頃から寝ているのか聞いて、私は驚愕したものだ。
(なんて言ったって、私よりも寝ているそうなので。)
そして大分周りの事が分かってきた私は、自分の分かる範囲の事を話す事にした。
「まず始めに、先程の話しを聞いても、私の住んでいた土地の話しではないと理解しました。‥‥ナイルさん。この世界に日本と言う国は有りますか?私はそこから来ました。信じられないとは思いますが、どうやら私は高い所から落ちてこちらに着たようです。そして、気がつけはあの森に居たんです。」
「にほん?ですか。それに気が付いたらこちらに‥‥‥‥。」
ナイルさんはロイさんの上司でもあり、一国の近衛騎士団長と宰相を兼ねていると言っていた。
この国を知るには、この人以上持って来いな人はいないだろう。
しばらく悩む様子を見せたが、彼はきっぱりとこう言った。
「ありません。」と。
本当は薄々感づいていてはいた。
ここは私の知る世界ではない、と。
あの質問は最終確認、の様なもの。
いわば、見切りを付けるためにしたようなものだ。
覚悟はしていたものの、実際心中そう穏やかでは居られなくて、私は「そうですか‥‥。」と言ったっきり口をつぐんでしまった。
「しばらく一人で居てもいいですか?」と言えば彼等は頷いてくれる。
それを確認した上で、私はテントを出た。
林のような茂みに来てから、どのくらい経ったのだろうか。
私はテントを後にした後、近くにあった林に足を踏み入れたのだった。
森ほど深くはなく、容易に日の光りが辺り、暗い気分の私まで照らしてしまう。
嫌いではない太陽も、今日は憎らしく見えてしまう。
だって泣いてる私を照らすから。
初めて、なにかの物語に出て来た人の気持ちが分かったような気がする。
太陽が嫌いだったその人も、理由は違えど、感じる事は一緒だったのかもしれない。
だってあんなに明るくて、眩しくて、温かかったら、自分は惨めだ。
これはきっと私のエゴ。
太陽がなければ、私達は生きていけないと言うのに。なのに私は憎らしい、と言う。
寄り添って、助けて貰っているのはこっちなのに矛盾している。
どこまでも私は―――
―――自分勝手なんだと。
それから私は考えた。
私はこれからどうしたら良いのかを。
勿論この世界で身寄りはないし、身分を証明できるような物もない。
まあ、身寄りがないのはどちらの世界で居たって変わりはしないが。
―――陽子に会いたい。
ぽっかりと空いた心にぽつりと浮かんだのは、別れも何も告げることなく別れてしまった親友のことだった。
彼女は今、どうしているのだろう。
私の心配をしているのだろうか。それとも、あの世界は私を無かったこととして扱っているのだろうか。
答えを知る術はないが、もし気に病ませているなら、私は大丈夫だと伝えたい。
次に浮かんだのはバイト先の瑠美さん。
バイト先でもなかなか人と関わろうとしなかった私に、積極的に関わり色々な事を教えてくれた人。何もしなくても美人で迫力があるのに、意外と無頓着な性格でサバサバしている。時々、姉がいればあんな感じなのかと思ったものだ。
そして、ふと脳裏を横切った顔。
それは私をマンションに閉じ込めた春崎 葵。
何のためにあそこに連れていかれて、閉じ込められたのかは今となっては知る術を私は知らない。
けどどうしても憎めなかった。
最後に見た彼の顔が、表情が脳裏から離れなかったから‥‥。
泣きそうでいて、何かをたえるような。私から見れば苦痛でしかない表情。
どうしてこんなにも気になるのだろう。
走馬灯のように頭に駆け巡る、いろんな人の事。
縁起でもない、と軽く苦笑するも。心から本当に笑える事はなかった。
6月29日の更新でした。