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雨宿りは二人の世界

掲載日:2025/12/29

 突然の夕立ち──


 傘を持ってなかった私は、駅前の小さな軒下に逃げ込んだ。

 同時に並んだひとがいた。

 背の高い、さんまの塩焼きの匂いのするひとだった。


「いきなり降り出しましたね」

 匂いに似合わない、爽やかな笑顔が、高いところから私を向いた。

「仕事帰りですか?」


「はい。雨が降るとは聞いてなかったもので……」

 気安くそう答えながら、彼のスーツがびしょ濡れなのに気がついた。

「あの……。よかったら──」


 私がバッグの中から未使用のスポーツタオルを取り出すと、彼が笑顔に驚きの色を混ぜる。


「準備がいいなぁ……。でも、自分のために使ってください。貴女もびしょ濡れですよ」


「あっ、本当だ」


「と、いうより、僕よりも貴女のほうがびしょ濡れだ」


 顔を見合わせて、笑った。




 雨はなかなか止まなかった。


 ふつうならこんな時、知らない者同士、しかも異性同士、会話もなくじっと立っているだけだと思うのに、不思議と話が弾んだ。


「えー!? あそこのお店のプリンが美味しいの知ってるんですかー!?」

「うん、僕もよくあそこで買ってますよ。甘いもの好きなんで」


「じつはあのお店、チョコケーキも素晴らしいんですよ」

「本当? 今度買ってみよう!」


「お昼──、さんまの塩焼き食べました?」

「あっ、わかります? 服に匂いが染みついちゃったかな」


「ふふ……。いい匂いです」

「ははは……。嫌われても仕方ないよね?」


「嫌いじゃないです。あたし……、むしろ、好きです」

「美味しいよねー」


 しばらく無言が続くと、雨の音が大きくなったように感じた。

 小さな軒の下、世界がそこだけになったみたいに静かだった。

 やがて、ぽつりと彼が言った。


「僕──、雨の音って好きなんですよ」


 私はすぐに賛同した。


「わかります。なんか落ち着くっていうか……」


「ずっとこのまま降ってくれててもいいかなって……、思えるくらい」


 私は心からうなずいた。


「止まないといいですよね、雨。ずっとこのまま──」


 知らないはずの彼を、とても近くに感じた。


 すると突然、雨が小降りになった。


 スイッチでも切り替えたように、すぐに雨は止み、雲の隙間から神様みたいな光が射しはじめた。


「あっ。それじゃ、急ぐんで、これで」


「あっ……!」


 小走りに駆け出した彼の背中を、私は見送った。


 また──、会えますか?

 その言葉を言う暇もなかった。


 でも、すぐにまた会えるような予感がして、私は心の中で願った。



『また雨が──早く降りますように』





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― 新着の感想 ―
これだけいい空気を作っておいて「それじゃ、急ぐんで、これで」って……………。 良い感じだと思っていたのは『私』だけだったのぉっ!? 雨の日に佇む、ちょっと病んでる『私』にならないでね?
やん❤︎(*^ω^*)なんかむずがゆいですねー♡ こういう アンバイの時、自分だったら1番投稿に勇気いるかもしれません。
 惚れっぽい……。  相手はよほどのイケメンだったようですね。
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