断片|最初の出会い
【焼け跡の民家より発見された日記より】
バス降りた瞬間、空気が違った。
東京の重いやつじゃなくて、軽くて甘い匂い。
でも、どこか腐葉土みたいな湿った匂いも混じってて、不思議な感じ。
村の人はみんな優しい。
玄関にお米とか野菜とか置いてってくれる。
でもみんな同じ笑顔で「よろしくね」って言う。
練習したみたいに、全員同じ。
村長の家に挨拶に行った日。
清音に会った。
村長の娘だって。
すごく綺麗だった。
陶器みたいに白い肌、まっすぐな黒髪、深い瞳。
でも一番印象的だったのは静けさ。
清音の周りだけ、音が止まってる感じ。
私が使うことなる家に案内してくれた時、聞き間違いじゃなければ清音はこういった。
「好いたらしい子やね」
透明な声だった。水の底から響いてくるような。
手を差し出されて、握手した。
氷みたいに冷たかった。
でも嫌じゃなかった。夏の夕立みたいに、心地いい冷たさ。
次の日の帰り道、清音が途中まで送ってくれた。
川の音が聞こえるのに、水面は全然揺れてなかった。
「この村、好き?」って清音が聞いた。
「まだ分からない。でも静かでいいと思う」
清音が微笑んだ。その瞬間、心臓がばくばくした。
お母さんが死んでも動かなかった心が、清音の微笑み一つで激しく波打った。
こんなふうに心が動くって、初めて知った。
「あなたも、きっと気に入ると思う。この村は、来るべき人を選ぶから」
来るべき人を選ぶ。
なんだか意味深だったけど、清音がそう言うなら、そうなのかもしれない。
次の日、学校で清音と同じクラスになった。
隣の席だった。
「ノート、貸してくれる?」って言ったら、
清音がゆっくり顔を上げて、時が止まった感じがした。
「……いいわ」
ノート受け取るとき、また指が触れた。
やっぱり冷たくて、やっぱり心地よかった。
【メモ帳の隅に走り書き】
清音って、なんで他の子と違うんだろう
でも聞けない
この気持ち、壊したくない




