断片|井戸端で
清音と一緒に帰ってる途中、道を外れた。
「そっちはダメ!」
清音がそう言って、私を引き留める。
かまわず進んでいくと、古い井戸があった。
石組みが崩れかけてて、金属の蓋で塞がれてる。
「危険・立入禁止」の札が風に揺れてた。
「昔の井戸?」
「……そう。でももう使ってない」
清音の声が急に小さくなった。
近づくと、蓋の隙間から水の音が聞こえた。
ごぼ、ごぼ……小さく泡が弾けるような音。
でも水は動いてないはず。
井戸の周りだけ、空気が冷たい。
夏なのに、手の甲が震えるほど。
「何が入ってるの?」
「見ちゃだめ」
清音の声に、初めて感情が混じった。
恐怖? それとも悲しみ?
でも気づいたら、蓋の縁に手をかけてた。
「やめて」
清音が私の手首を掴む。
氷みたいに冷たい指。
「見たら、あなたも●●になる」
「●●って?」
「……」
その時、井戸の中から音がした。
水が動く音じゃない。
何かが、浮かび上がってくる音。
蓋の隙間から、細い指が一本出てきた。
人間の指じゃない。
関節が多すぎて、爪の代わりに小さな口がついてる。
私は清音の手を振りほどいて、後ずさった。
「あれは何?」
「変わりきれなかった●●ち」清音が小さくつぶやいた。
「なれなかった●●が、みんなあそこに」
指がゆっくりと引っ込んでいく。
水面が静かになる。
「村の人は、みんな知ってるの?」
「知らないふりをしてる。なかったことにされるの」
清音の声が震えてる。
「私も、もし……」
「嫌だ」
思わず言った。
「清音をあんなところに入れたくない」
清音が驚いたような顔をした。
そして、初めて本当の笑顔を見せた。
「ありがとう。でも、これが定めだから」
帰り道、清音はずっと黙ってた。
でも時々、私の手をぎゅっと握った。
【メモ帳の隅に走り書き】
何かの墓場だったんだ
清音を救う方法、絶対にある




