断片|弓子へ
【読まれなかった手紙】
弓子へ
父親としては何も出来なかったが、
どうしても伝えておきたいことがある。
心ならずも、お前を村から追い出すことになった。
父として、これほど痛むことはない。
だが、あの家にお前を置いておくことは出来なんだ。
清一の妻が、お前の腹の子のことを知った。
あの女は、掟を盾にしてでも、お前を――
にくゑ様を鎮める名目で、
この村は“清め”と称して血を流すだろう。
わしはそれを許せなんだ。
お前と清一のことは、それを秘していたわしの責任でもある。
お前は罪人ではない。
愛しただけだ。
「清音の予備」としてお前は生まれ、
ただの器として扱われてきた。
わしもそれを受け入れてしまった。
村長としては正しく、人としては間違っておった。
だから、最後くらいは父として、お前を守りたい。
村を出て、外の風を吸え。
どうか戻ってきてはならぬ。
この村は、愛を憎む。
愛する者ほど、神の餌になる。
せめてもの償いに、生活の足しを送るよう手配した。
名義は役場を通してある。受け取れ。
それが父としての、最後の務めだ。
「弓子」という名を覚えているか。
しなやかに張り、折れずに戻る弓のように、
生きよという願いを込めて付けた。
祈りを天へ放つための弓。
決して誰かを射るためではない。
ひと目、孫の顔を見たかった。
それだけが心残りだ。
だが、お前の生きる先に笑顔があるなら、
わしはそれを遠くから祈る。
どうか健やかであれ。
虚木義隆




