断片|最後の夜
今夜、梓に本当の姿を見せた。
もう、隠しておけないと思った。 背中にも、腕にも、頬の裏にも――目が増えていく。
鏡を見れば、そこにいるのは人ではなく、にくゑの端に連なるもの。
それでも、梓は逃げなかった。
「これが、今の私の姿」と言うと、梓はまっすぐ見つめてきた。 全身の目を、一つずつ確かめるように。
そして小さく首を振った。
「怖くない。あなたは清音だから」
その言葉が、胸の奥で溶けた。
涙が出そうになって、笑ってしまった。
――ああ、この人を愛している。
巫女でも、器でもない、ただの清音として。
明日はお祭りだ。 梓に聞いた。
「どうしたいの?」
迷わず返ってきた言葉――
「清音を自由にしたい」。
そのまっすぐさに、少しだけ救われた。
でも、私はもう自由だと答えた。
巫女として生まれ、掟の中で生きてきた。
けれど今は、自分の意志で選べる。
梓を愛すると決めた。それが私の自由。
彼女の手を取ると、あたたかかった。 目だらけの手でも、ちゃんと握り返してくれた。
この触れあいを、世界がどう拒んでも、私は手放せない。
「最後にお願いがあるの」
「明日の祭りで、私と一緒にいて。最後まで」
梓は微笑んで頷いた。
その笑顔が、あまりに穏やかで――
私は、もう逃げられないと思った。
抱き合った。
まるで、今しかその機会がないと知っているみたいに。
梓の心臓の鼓動が、私の中に流れ込んでくる。
にくゑの音と混ざり合って、世界が静かになった。
どうか、明日が終わっても、あの手のぬくもりだけは残りますように。




