老人
私は孤独な夢を見た。
牢獄のような部屋で、真っ暗な静寂。
腹部に激痛が走る。
見えない手が内臓を歪めているような苦しみ。
このまま死ぬんじゃないか。
目を開けた時、どれほど時間が経ったのか分からない。
私は真っ白なベッドに横たわっていた。
ここがどこなのか、なぜここにいるのか、誰が運んだのかも分からない。
周囲を見渡しても白い壁しかなく、私は患者服のようなローブを着ていた。
めくると、何も身に着けていない裸の自分。
そして腹部には穴が空いており、黒い粘液が流れ続けていた。
指に付けて舐めてみる。
「甘い……」
知らない味だった。
私はベッドから降り、再び周囲を見渡す。
その時、壁の一面に光が差し込み、扉が開き、老人が入ってきた。
あれは扉だったのか。壁と同じ白で、全然分からなかった。
「目が覚めたか。」
老人は白い包帯の束を持って歩み寄ってきた。
「うん」
彼も私と同じ服装をしていて、ここに長くいるように見えた。
「これを巻きなさい。黒いモノは良くない」
黒い……
私は老人の言う通りに腹部へ包帯を巻いた。
その後、老人は食堂へ連れていくと言って部屋を出た。
外は相変わらず真っ白な廊下。すれ違う人々も同じ白づくめ。
まるでこの世界には白以外が存在を許されないようだった。
「着いたぞ。好きな物を取って食べなさい。ただし、誰とも話すな。」
「はい」
拒む理由はない。腹も空いていた。
食堂には奇妙な機械があり、好きな食べ物を入力するとお金も払わずに横の窓に出てくるらしい。
私は親子丼を入力し、窓口で待った。
すると隣の男が話しかけてきた。
「君、新入り?」
老人の言葉を思い出し、私は料理を受け取るとすぐにその場を離れた。
適当な席に座ったが、その男が向かいに座った。老人の姿はもう無い。
「ここだけの秘密、教えようか?」
老人もいないし、私は無知ゆえの好奇心で返事をした。
「いいよ」
「やっと話してくれるんだ。まず、この建物は精神病院で、十八階建てだ。階が高いほど状態が重い……」
「じゃあ、ここは何階?」
「四階だよ。それから、さっきの老人。あいつの言うことは聞かない方がいい。十五階から落ちてきた奴だから。理由は知らないけど」
「階は変えられるんだ」
「そう。特定の理由があればね。上ほど重症、下ほど『正常に近い』。だから下に行くには、まともな人間のように振る舞えばいい」
私は考えた。
他の階に行ってみたい。
上か、下か。
今は四階。
上へ行けば、もっと“面白いもの”があるだろう。
答えは、明白だった。
「ここにいるのが一番だ」
背後から老人の声。
向かいの男は怪しく笑った。
次の瞬間、大きな音が轟いた。
「う……う……」
振り返ると、老人の左胸に小さな穴が開き、黒い液体が溢れていた。
老人は崩れ落ちる。
男がどこからか取り出した銃で老人を撃ったのだ。
「選べ。“あれ”が来る」
理解が追いつかないまま、目の前に背の高い“白衣の者”が現れた。
「……大人だ」
彼は私と同じ白い服だが、肌も髪も白く、瞳だけが純黒だった。
「誰がやった?」
白衣の者が問うと、男は二歩前へ出て跪き、ちらりと私を見て神秘的に笑った。
「大人、こ……」
「私がやりました。」
私は男の意図を悟った。
私は、上に行く。
「六階」
大人が告げる。
男は素早く銃を私に投げた。
「あと三発」
次の瞬間、景色が変わり、私はまた白い部屋にいた。
短編小説を読んでいただきありがとうございます。
この作品は短編小説です。
路面電車で通学中の空き時間に書きました。
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