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『アーク層の追放者 ―カイ・ラグナロック英雄戦記―』  作者: kaiくん
第5章 止まった世界の外側へ

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第97話 止まった世界の真実

世界は、止まっていた。


音は途中で切断され、

風は形を保ったまま宙に縫い留められ、

光さえも、行き先を失って空間に滞留している。


だがカイは、もはやこの光景に驚かなかった。

ここが偶然ではないことを、

そして――自分が“狙われた結果”としてここにいることを、

すでに悟っていたからだ。


「……ここに閉じ込めたのは、誰だ」


その問いに、ティアは即答しなかった。

否定も、肯定もせず、

ほんの一拍、沈黙を置いてから口を開く。


「“誰か”と呼べる存在ではないわ」


彼女の声は静かで、感情の起伏をほとんど含んでいない。


「少なくとも、

名前や人格を持つ“敵”ではない」


カイは眉をひそめる。


「じゃあ、何なんだ」


「思想。

あるいは――世界が自分自身を守るために生み出した、排除機構」


■ なぜカイは狙われたのか


「あなたは、この世界にとって危険だった」


ティアは淡々と告げる。


「強いからではない。

破壊的だからでもない」


彼女は言葉を選びながら続けた。


「あなたは、“先が決まらない存在”だった」


世界は、基本的に予測によって進む。

因果が積み重なり、選択が統計化され、

未来は“だいたいの形”を保ったまま流れていく。


だがカイは違った。


「あなたは、

自分でも理由を説明できない選択をする」


「……よく言われる」


「それが問題だったの」


ティアは一歩、距離を保ったまま視線を落とす。


「あなたの行動は、

世界の計算から常に外れる。

どの未来にも完全には属さない」


それは希望でもあり、

同時に――世界にとっては致命的な不安定要素だった。


「だから、“何者か”は判断した」


殺すべきだ、と。


だが――


「完全な抹殺は、できなかった」


■ なぜ殺せず、封じたのか


「あなたは、世界の進行そのものにも深く関与している」


ティアの言葉は、冷静だった。


「あなたが消えれば、

世界は別の形で破綻する」


存在としては危険。

だが、欠ければ成立しない。


その矛盾が導いた結論は、ひとつしかなかった。


「だから――隔離された」


カイは、周囲の止まった空間を見渡す。


「ここが、その結果か」


「ええ」


時間が止まっているのではない。

更新が拒否されているのだ。


「ここでは、因果は前に進まない。

選択も、失敗も、結果にならない」


だから死なない。

だが、生きてもいない。


「これは処刑場ではない。

でも、救済でもない」


ティアは静かに断言する。


「抹殺を目的とした、未完成の処理空間」


■ 止まった世界の正体


「この空間は、あなたを消すために作られた」


「消す……?」


「正確には、“意味を失わせる”ため」


行動しても、世界は応答しない。

選んでも、未来は変わらない。


「存在しているのに、

存在が世界に影響を与えない状態」


それは、ゆっくりとした消去だった。


「……ずいぶん、回りくどいな」


「完全に消せなかったからよ」


ティアの声が、わずかに低くなる。


「あなたは、世界の奥深くに絡みすぎていた」


■ 下層世界への影響


「この隔離は、完全じゃなかった」


ティアはそう続ける。


「あなたを閉じ込めるために、

世界全体の“進行許容量”が削られた」


その影響は、下層世界にも滲み出ていた。


意味が前に進まない感覚。

決断が鈍る空気。

努力が結果に結びつきにくい現実。


「世界は、無意識に“選ばせない方向”へ傾いていた」


安全ではある。

だが、生きている実感が薄れていく。


「停滞は、暴力よりも静かに人を削る」


カイは、無言でそれを受け取った。


■ カイが抜けた後に起きること


「あなたがここを離れれば、

世界は不安定になる」


ティアは隠さない。


「失敗は増える。

予測は外れる。

取り返しのつかない選択も、確実に増す」


「それでも?」


「それでも」


彼女は、はっきりと頷いた。


「選択が、戻る」


成功も、失敗も、

世界が“結果として受け取る”ようになる。


「世界はもう、

誰かを止めることで安定する構造ではなくなる」


■ ティアの断言


「覚えておいて」


彼女の声が、初めて強さを帯びる。


「誰かを消さないと成り立たない世界は、

最初から壊れている」


その言葉は、

“何者か”への批判であり、

同時に世界そのものへの宣告だった。


■ ラスト:世界の揺らぎ


その瞬間、

止まっていた空間が、わずかに震えた。


光が、進むか留まるかを迷い、

時間が、再び流れる可能性を探り始める。


「……始まったな」


カイが呟く。


「ええ」


ティアは静かに答えた。


「世界が、

“止める”以外の選択を考え始めた」


まだ完全には動かない。

だが、もう戻れない。


世界は初めて、

進むか、止まるかを自分で決めようとしている。


カイは、一歩踏み出す準備をする。


その背中を、

世界そのものが――見ていた。

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