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『アーク層の追放者 ―カイ・ラグナロック英雄戦記―』  作者: kaiくん
第5章 止まった世界の外側へ

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第86話 介入者不要

カイは、もう迷っていなかった。


胸の奥にくすぶり続けていた感情的な違和感は、

いつの間にか、揺るぎない確信へと姿を変えている。


この世界は――

正規ルートしか、想定していない。


起きる事件。

起きる事故。

起きる争い。


それらは偶然ではない。

ましてや、人の自由意思が積み重なった結果でもない。


最初から、

「起きること」として組み込まれている。


だから必ず、発生する。

だから必ず、処理される。


カイは通りの中央で立ち止まり、

ゆっくりと呼吸を整えた。


(……なら)


(試していいか?)


これは反抗ではない。

破壊でもない。


検証だ。


世界がどう動くのかを、

怒りでも希望でもなく、

ただ行動によって確かめるための試み。


カイはこれまでの自分を思い返す。


事件が起きれば、介入した。

争いがあれば、止めた。

事故があれば、迷わず助けた。


それが正しいと信じていたし、

疑う理由もなかった。


だが、結果はいつも同じだった。


事態は収束する。

被害は最小限に抑えられる。


それで終わりだ。


履歴は残らない。

意味も、痕跡も、評価もない。


まるで最初から、

**「そうなる予定だった」**かのように。


そして今、

一つの仮説が、はっきりと輪郭を持ち始めている。


――介入者は、誰でもいいのではないか。


重要なのは、

「誰が解決したか」ではない。


「解決された状態になったか」

ただ、それだけだ。


その仮説を確かめるため、

カイはあえて歩みを止めた。


通りの先から、声が上がっている。


怒鳴り声。

混乱。

人だかり。


見なくても分かる。

予定されたイベントだ。


小競り合いか。

盗難か。

あるいは事故。


これまでなら、迷わず向かっていた。

体が勝手に動いていた。


だが、今日は違う。


カイは立ち止まったまま、動かない。


(……放置する)


意図的に。

確信を持って。


胸の奥に、かすかな躊躇が生まれる。

だが、それを静かに押し沈めた。


これは冷酷さじゃない。

世界を理解するための選択だ。


時間が流れる。


騒ぎは大きくならない。

悲鳴も上がらない。

血の匂いもしない。


代わりに、別の声が聞こえてくる。


「おい、やめろ!」


誰かが割って入った。


屈強な男だ。

見覚えはない。

通りすがりの住民だろう。


さらに数人が加勢する。

争いはほどなく収束した。


数分後。


通りは、何事もなかったかのように

元の賑わいを取り戻している。


被害は最小限。

大怪我人はいない。


(……変わらない)


カイは、観測ログを開く。


――イベント発生:確認

――解決処理:完了

――介入者:不問


介入者:不問。


その文字列を見た瞬間、

仮説は完全に確信へと変わった。


(……やっぱりな)


世界は、結果しか見ていない。


誰が動いたか。

なぜ動いたか。

どんな感情だったか。


そんなものは、

処理対象ですらない。


必要なのは、

「イベントが発生し、解決された」という事実だけ。


カイは次の場所へ向かう。


別の通り。

別の時間帯。


倒れた荷車。

散乱する荷物。

通行を塞ぐ、よくある事故。


カイは、やはり動かない。


周囲の人間が立ち止まり、

困った顔をする。


数秒後、

誰かが声を上げた。


「手伝おう!」


人が集まり、

荷車は起こされ、

道は再び開通する。


結果は、同じだ。


カイがいた場合と、

いなかった場合で。


何も変わらない。


被害も。

所要時間も。

周囲の反応も。


(……つまり)


歩きながら、結論が整理されていく。


この世界において、

個人の行動は重要ではない。


重要なのは、

想定された結果に到達すること。


そこへ至る経路は、

いくらでも代替可能だ。


誰かがやる。

誰かが止める。

誰かが助ける。


「必ず、誰かが」


それが、この世界の設計思想だ。


カイは、低く息を吐いた。


「……優しいな」


誰かが失敗しても、

誰かが怯えても、

世界は破綻しない。


だが同時に――

誰かが選ばれることもない。


英雄も。

責任も。

意味も。


すべて、平均化されて消えていく。


カイは、静かに確信する。


自分はもう、

「介入者」ではない。


事件を解決する役割は、

世界がいくらでも代替する。


だから――

自分がやるべきことは、別にある。


(……探索だ)


この世界が

想定していない行動を探すこと。


正規ルートの外。

イベント処理の外。

結果が保証されない領域。


そこだけが、

世界の仕様に触れられる。


カイは空を見上げた。


雲は、相変わらず動かない。


だが今は、

その静止が、以前ほど不気味ではなかった。


「……いいだろ」


小さく、しかしはっきりと呟く。


「試してやる」


イベントを解決するためじゃない。

守るためでも、救うためでもない。


世界を理解するために。


カイは歩き出す。


もう、

世界が用意した役割に戻るつもりはなかった。

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