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『アーク層の追放者 ―カイ・ラグナロック英雄戦記―』  作者: kaiくん
第4章 侵食域ノ聖遺構(レリック)

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第80話 開けてはいけない層

違和感は、はっきりとした異常ではなかった。


 だが――

 確実に、そこにあった。


 崩壊した聖遺構から離れ、仮設の退避区画へ移動した後も、

 カイは胸の奥に視線を落とす癖が抜けずにいた。


 光片。


 いつもなら、淡く冷たい光を放つそれが――

 わずかに、色を変えている。


 白ではない。

 青でもない。


 分類できない、ごく微妙な色合い。


 強いて言うなら、

 温度を感じさせる光だった。


(……あたたかい……?)


 錯覚ではない。


 触れているわけでも、反応を起こしているわけでもないのに、

 光片の存在そのものが、胸の内側を静かに満たしている。


 それは力ではなかった。

 情報でもない。


 気配だ。


 名前をつけるなら――

 空白帯で感じた、あの感覚に酷く似ている。


 カイは、無意識に息を整えた。


 あの視線。

 言葉を持たない肯定。


 微笑みも、拒絶もなかった存在。


 だが、

 確かに、そこにあった。


「……変わったな」


 低い声が、背後から響いた。


 振り向くと、Jが立っていた。


 いつの間に来たのかは、わからない。

 気配も、前兆もない。


 ただ、

 そこにいる。


 レオンとミリアは、少し離れた位置にいる。

 二人とも、何も言わない。


 Jの視線は、まっすぐにカイを見ていた。


 光片ではない。

 カイ本人を。


 そこに、評価の色はなかった。


 観測者としての冷たさも、

 調整者としての距離感も――

 今は、ない。


「……光片が」


 カイは、言葉を探しながら言った。


「前と、違う気がする」


 Jは、すぐには答えなかった。


 ほんの数秒。

 だが、その沈黙は、必要なものだった。


「違う」


 Jは、静かに肯定した。


「君の認識は、正しい」


 それだけで、十分すぎる答えだった。


 問いが喉まで込み上げる。


 何に触れたのか。

 空白帯とは何だったのか。

 あの視線の主は――。


 だが、Jはそれを察したように、先に言葉を置く。


「君は、まだ知らなくていい」


 声は柔らかい。

 だが、揺るがない。


「何に触れたのかも、

 この世界の“どの層”が、開きかけているのかも」


 Jは、一歩だけ近づいた。


 圧はない。

 だが、その距離は、明確な“境界”を示していた。


「――あれは、まだ

 『開けてはいけない層』だ」


 否定ではない。

 警告でもない。


 宣告に近い言葉だった。


 胸の奥で、光片が微かに脈打つ。


 反論するでもなく、

 抗うでもなく。


 ただ、理解しているような反応。


(……開けてはいけない、か……)


 それでも――

 胸の奥には、あの残響が残っている。


 ――……きて……

 ――……まだ、早い……


 相反する声。

 相反する距離。


 だが、どちらも拒絶ではなかった。


「……じゃあ」


 カイは、静かに聞いた。


「いつなら、いい?」


 Jは、すぐに答えない。


 視線を、ほんの一瞬だけ逸らす。


 それが、何よりの答えだった。


「……その問いを、

 君が“自分から”しなくなったときだ」


 カイは、息を飲む。


 意味は、すぐには理解できない。

 だが――

 条件であることだけは、はっきりと伝わった。


「……つまり」


 腕を組んだまま、レオンが呟く。


「今はまだ、踏み込むなってことだな」


「そうだ」


 Jは、否定しない。


「踏み込めば、戻れない」


 ミリアが、静かに言葉を挟む。


「……でも、もう

 “触れてしまった”んですよね」


 Jは、ミリアを見る。


 その視線には、わずかな評価があった。


「触れた」


 否定しない。


「だが、開いてはいない」


 それが、違いだ。


 光片が、再び淡く光る。


 その色は、元には戻らない。

 だが、暴走もしない。


 まるで――

 誰かの存在を、静かに内包しているかのように。


 カイは、胸に手を当てた。


 あの視線を。

 あの沈黙を。

 あの肯定を。


 今は、言葉にしなくていい。


 ただ、抱えていけばいい。


 Jは、踵を返す。


「今回は、ここまでだ」


 まるで、物語の区切りを告げるように。


「次に進めば、

 君たちは“戻る理由”を失う」


 それが脅しでないことは、分かる。


 Jは、事実しか言わない。


「準備が整うまで、

 光片を“道具”として扱うな」


 それだけを残し、

 Jは静かに去っていった。


 残された三人。


 崩れた聖遺構の向こうで、

 夕暮れが始まっている。


 カイは、空を見上げた。


 同じ世界。

 同じ空。


 だが、

 層が、違って見える。


 光片の奥で、

 かすかな残響が、まだ消えていない。


 呼ばれているわけではない。

 拒まれているわけでもない。


 ただ、

 待たれている。


 開けてはいけない層は、

 確かに、そこにある。


 そして主人公は、

 それを知ってしまったまま――次へ進む。


 光は、もう元の色には戻らない。


 だが、

 それでいい。


 まだ、

 開くべきではないのだから。

 

 第4章、終幕。

 

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