表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『アーク層の追放者 ―カイ・ラグナロック英雄戦記―』  作者: kaiくん
第1章:歪む世界と特異点の少年(カイ)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/100

第8話 “観測”の眼と、森のほころび

 森で“黒い穴”を見つけた翌朝。

 街は、不自然なざわめきに包まれていた。


 本来なら、澄んだ空気と市場の活気が混ざる時間帯だ。

 だが今日は、まるで街そのものがざわついているようだった。


(……魔力の流れが荒い?)


 カイ自身にも、薄い刺々しさのようなものが感じ取れた。


◆市場の不穏な噂


「……森の奥の魔力反応が乱れてるって?」


 情報を集めていたミリアが戻ってきて眉をひそめた。

 火属性の魔術師である彼女は、魔力のわずかな変化にも敏感だ。


「魔獣の巣が移動したって噂もあるけど……」

「実際はどうなんだ?」

「それは確かめるしかないね。カイ、一緒に来てほしい」


 昨日の追加検査以来、ミリアはカイをひとりにしたがらない。

 その瞳は、不安と決意の両方を宿していた。


「行くよ。どうせ暇だし」


 カイは笑って見せる。

 しかし胸の奥では、昨日見た“魔術陣の歪み”がまだ疼いていた。


(俺だけ……魔法が歪んで見える)


 疑問は、もはや予感ではなく“確信”へ近づいていた。


◆森の入口――魔術師団の調査


 森へ向かうと、すでに魔術師団が調査を開始していた。

 測定器具を持った魔術官たちが、淡々と結果を読み上げる。


「魔力反応、異常なし」

「歪みも検出されず」

「魔獣の兆候もなし」

「昨日の報告は誤認の可能性が高いな」


 その落ち着いた声は、“異常など存在しない”と言わんばかりだ。


(そんなはず……ない)


 昨日、確かに見た“黒い穴”。

 あの異質さを、見間違えるはずがない。


「これ、昨日の場所だよね」


 ミリアとともに森の奥へ踏み込む。


 足元には、魔術師団が設置した観測用の魔法陣が淡く光っている。


(……歪んでいる)


 カイの視界では、その魔法陣が“ひび割れた格子”のように揺れていた。

 そして――。


(……ある)


 昨日と同じ“黒い穴”がそこにあった。


 空間が破れ、その向こうに“無”が広がっているような闇。

 光が飲まれ、輪郭が揺れ、世界がめくれた跡のような異常。


「っ……!」


 胸の奥が圧迫され、息が止まりかけた。


 魔力の干渉ではない。

 もっと原始的な――存在そのものが押しつぶされるような圧力。


「カイ!? 大丈夫!?」


「……少し苦しいだけだ」


 カイが答えた瞬間だった。


◆“観測”される感覚


 ――視線。


(また……来た)


 背筋が凍る。

 どこからかわからない“外側”からの視線。


 森の奥でも空でもない。

 方向すら特定できない。


 だが、確かに“覗かれている”。


(これは……魔術でも魔獣でもない)


 脈が跳ね、体の中心を冷たい手が掴むような感覚が走る。


 黒い穴が脈動し、波紋が世界へ広がった。


「カイ! 離れて!!」


 ミリアが強く腕を引く。


 その瞬間――視線は霧のように消えた。


 まるで「今日はここまで」と言うかのように。


「……助かった。危なかった、かも」


「カイ……何が起きてるの?」


 ミリアは震える声で、しかし強くカイの手を握っていた。


 その温かさだけが、カイを“現実”に引き戻していた。


◆魔術師団の結論は「異常なし」


 少し離れた場所では、魔術師団が撤収を始めていた。


「異常反応なし。調査終了」

「魔獣の巣も移動せず」

「結論――誤報」


 あまりにも簡単な結論。

 カイは思わず眉をひそめた。


(……やっぱり俺にしか見えない)


 ミリアが魔術官に問いかける。


「本当に異常はなかったんですか?」

「はい。測定は正常です。歪みなど存在しません」

「――誤報でしょう」


 切り捨てるような声音。


「誤報なんかじゃない」


 カイは小さく呟いた。


 魔術官は冷ややかな目で言う。


「……魔法が作用しないあなたの言葉を、どこまで信じるべきか――我々が判断します」


(……俺は、この世界の“外側”の存在だとでも?)


 胸の奥がちくりと痛んだ。


「帰ろ、カイ」

「……ああ」


 ミリアと森を離れる。

 しかしカイは最後にもう一度振り返った。


 黒い歪みは――まだ、そこにあった。


(あれは……世界の構造じゃない)


 確信だけが、静かに胸の中で根を張っていく。


◆夜――訓練場


 街外れの訓練場。

 夜の風が木々を揺らし、剣を握るカイの頬を撫でる。


(何があっても……守れるように)


 剣を振るたび、かすかな衝撃波が闇を裂く。

 魔法ではない。ただの斬撃。


 だが、その斬撃は空間を震わせるほど鋭かった。


(俺は……何者なんだ)


 胸の奥で、封印が軋む。

 何かが目を覚まそうとしている。


 そのとき――。


 遠い空に、黒と白の波紋が一瞬だけ揺らめいた。


 カイには、それが“はっきり”見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ