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『アーク層の追放者 ―カイ・ラグナロック英雄戦記―』  作者: kaiくん
第4章 侵食域ノ聖遺構(レリック)

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第79話 残響を抱いて戻る

最初に戻ってきたのは、音だった。


 遠くで、何かが崩れる低い轟音。

 石が転がり、金属が擦れ、風が抜けていく。


 次に、重さ。


 身体が地面に横たわっている感覚が、遅れて追いつく。


「……っ……」


 カイは、浅く息を吸った。


 肺が一瞬、空気を拒むように痛み、

 それでも数秒後には、現実の呼吸へと戻っていく。


 目を開くと、空があった。


 白ではない。

 未定義でもない。


 崩れた聖遺構の外。

 粉塵に霞んだ、確かな空。


「……カイ!」


 聞き慣れた声が駆け寄ってくる。


 次の瞬間、視界に影が落ちた。


 レオンだ。


 片膝をつき、険しい表情でこちらを覗き込んでいる。


「……無事か?」


 短い問い。

 だが、その裏にある不安の大きさを、カイは理解できた。


「……生きてる」


 かろうじて、それだけ答える。


 レオンの肩から、わずかに力が抜けた。


「……そうか」


 それ以上は言わない。

 だが、安心と安堵が混じった沈黙が、確かにそこにあった。


「動かないで!」


 少し遅れて、ミリアが駆け寄ってくる。


 端末を抱えたまま膝をつき、

 カイの顔を覗き込む。


「……視点固定、反応あり……

 意識、完全に戻ってる……」


 独り言のように呟きながら、

 ふと、ミリアの指が止まった。


「……おかしい……」


 その一言に、レオンが顔を上げる。


「何だ?」


「波形……

 戻ってきてはいるんだけど……」


 ミリアは端末を操作し、

 画面を二人に向けた。


 そこには、三つの波形が並んでいる。


 一つは、カイ。

 一つは、レオン。

 そして――もう一つ。


「……J?」


 カイが呟く。


「うん」


 ミリアは頷いた。


「あなたが切り離された瞬間から、

 自動記録してた比較ログ」


 画面を拡大する。


 三つの波形は、形も振幅も違う。

 だが――ある一点で、明確に重なっていた。


「……ここ」


 ミリアが指差す。


「この歪み。

 三人とも、同じ反応を出してる」


 一拍おいて、静かに言葉を続ける。


「同じ上層由来の干渉に、触れてる」


 レオンが、眉をひそめる。


「……上層?」


「ええ」


 ミリアの声は落ち着いている。

 感情がないからではない。


 理解に近づいた者の、慎重さだった。


「観測特異点の反応とも違う。

 亜種核の干渉とも、構造が違う」


 解析結果が、画面に重なる。


「位相の向きが……

 この世界じゃ説明できない」


 カイは、無意識に胸に手を当てた。


 光片は静かだ。

 だが、確かに“何か”が残っている。


「……同じ、ってことは……」


 言いかけて、言葉を選ぶ。


 ミリアが、それを引き取った。


「同じ“役割”じゃない」


 はっきり否定する。


「でも……

 同じ構造の、別ポジション」


 その言葉が、場に静かに沈む。


 レオンが、低く息を吐いた。


「……だからか」


「何が?」


「Jが、ああいう形でしか出てこなかった理由だ」


 レオンは、空を見上げる。


「同じ構造に触れているなら……

 深く踏み込めば、

 俺たちも、ああなる」


 “ああなる”の意味を、誰も口にしなかった。


 だが、全員が理解している。


 観測者。

 調整者。

 観測特異点。


 立ち位置は違う。

 役割も違う。


 それでも――

 根は、同じ層に触れている。


 ミリアは、少しだけ視線を落とした。


「……正直に言うね」


 二人を見る。


「このログ……

 私が見なかったら、

 誰も気づけなかったと思う」


 自慢ではない。

 事実の確認だ。


「Jは知ってる。

 レオンは……感覚的に分かってる」


 そして、カイを見る。


「でも、あなたは……

 触れて、持ち帰ってきた」


 その言葉に、

 カイの脳裏に、あの視線がよぎる。


 微笑みも、言葉もなかった少女。

 ただ、見つめられた感覚だけ。


「……俺は……」


 言いかけて、首を振る。


「……まだ、説明できない」


 ミリアは、すぐに頷いた。


「うん。

 それでいい」


 端末を閉じる。


「説明できるようになったら……

 多分、もう戻れない」


 その一言が、重かった。


 レオンが、静かに立ち上がる。


「……ここは危険だ。

 遺構は完全には死んでいない」


 崩れた聖遺構の奥。

 まだ微かな歪みが残っている。


「離れるぞ」


 レオンが手を差し出す。


 カイは、その手を取った。


 立ち上がる瞬間、

 足元がわずかに揺れる。


 だが今度は――

 世界が、彼を拒まなかった。


「……残響、ね」


 歩き出す直前、ミリアが呟く。


「残響?」


「うん」


 彼女は、ほんの少しだけ笑う。


「触れたものは消えたけど、

 影響だけが残ってる」


 それは呪いでも、祝福でもない。


 ただの、不可逆な変化。


 カイは、空を見上げた。


 同じ空のはずなのに、

 どこか奥行きが増した気がする。


 ――見てしまった。

 ――触れてしまった。

 ――そして、戻ってきてしまった。


 もう、元の場所には戻れない。


 だが、それを理解できる者が、

 この場にはもう一人いる。


 ミリアだ。


 剣も、力も持たない。

 だが――真相に、最も近い存在。


 三人は、崩れた聖遺構を背に、

 静かに歩き出す。


 誰も口にはしない。


 だが、確かに共有している。


 主人公、レオン、J。


 三人は、同じ大きな構造の中にいる。


 ただし――

 立っている場所が、違うだけだ。


 そして、物語は次の段階へ進む。


 残響を抱いたまま。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


今回は「戻ってきた回」ですが、

何も元に戻っていない、そんな話でした。


もしこの“残響”が気になった方は、

ブックマークやいいねで残してもらえると励みになります。


次回から、また世界が動き出します。

引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。

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