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『アーク層の追放者 ―カイ・ラグナロック英雄戦記―』  作者: kaiくん
第4章 侵食域ノ聖遺構(レリック)

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第76話 決壊する聖遺構

 最初に壊れたのは、音だった。


 封印区画を満たしていた静寂が、わずかに軋む。

 耳に届く音ではない。

 空間そのものが均衡を失ったときに発する、兆候。


 Jの抑制は、確かに亜種核を封じ込めている。


 だが――

 それは無理に押し留めた安定だった。


 床に、淡い亀裂が走る。

 継ぎ目のないはずの石が、存在を主張するように割れていく。


「……まずい」


 レオンが低く呟いた。


 彼の周囲で、結界がまだ微細に揺れている。

 封印は閉じきっていない。

 Jの干渉で一度“押し返された”反動が、内部に残留していた。


「……構造が、耐えきれてない」


 ミリアの声が通信越しに響く。


『抑制フィールドと封印反応が……干渉してる!

 遺構そのものが、二つの基準に引き裂かれてる!』


 Jの調整は、世界全体を基準にしている。

 一方、レオンの封印は――個としての存在を縛る力だ。


 本来、この二つが同時に最大出力で存在することはない。


 だが今は、両方が限界で張り付いている。


 亜種核は抑制されたまま、微動だにしない。

 その代わり、器である遺構が悲鳴を上げ始めた。


 壁の曲線が歪む。

 天井が、呼吸のように上下する。


 空間が、“均一であること”を維持できなくなっていく。


「……J!」


 カイが叫ぶ。


 返答はない。


 当然だ。

 Jはすでに、“これ以上触れない”選択をしている。


 ここから先は――

 世界が耐えるか、壊れるか。


 レオンが歯を食いしばった。


「……くそ……!」


 結界が再び強く脈打つ。

 封印が、遺構の崩壊に反応している。


 レオン自身が、錨になっていた。


(……このままじゃ……)


 その瞬間だった。


 カイの胸の奥で、光片が激しく震えた。


 ドクン――!


「……っ!」


 視界が白く弾ける。


 今までとは違う。

 警告でも、混線でもない。


 明確な“方向”を伴った反応。


 身体が引かれる。


 前へ。

 奥へ。


 聖遺構の中心――

 いや、そのさらに内側へ。


「……何だ、これ……!」


 足が床を離れた。


 否。

 離れたのではない。


 床が、カイを拒んだ。


 空間が、彼を“異物”として扱い始めている。


『カイ!?』


 ミリアの声が遠ざかる。


『波形が……!?

 あなたの観測軸が、遺構から切り離されてる!』


 レオンが振り向く。


「カイ!」


 だが、その瞬間――

 光が溢れた。


 白に近い輝きが、カイの身体を包み込む。

 攻撃ではない。転移でもない。


 誘導だ。


「待て!」


 レオンが叫ぶ。


「そこから先は――!」


 言葉は届かなかった。


 光が、カイを呑み込む。


 身体の輪郭が崩れ、感覚が薄れていく。


(……光片……?)


 問いかける。


 だが返事は、言葉では返ってこない。


 代わりに――

 意志そのものが流れ込んできた。


 ――ここに、いてはいけない。

 ――ここでは、壊れる。

 ――奥へ。


 命令ではない。

 選択肢でもない。


 最初から定められていた進路。


 光片は、ただの道具ではなかった。


 観測を補助する存在でも、

 力を与える装置でもない。


 それ自体が――

 **世界の破綻を回避するための“意思体”**だった。


 レオンの視界から、カイの姿が消える。


 残ったのは、

 光の残滓と、崩れ続ける遺構。


「……くそ……!」


 レオンは拳を叩きつける。


 だが、追えない。


 封印が限界だ。

 彼が動けば、遺構は完全に決壊する。


『……切り離された……

 完全に、単独フェーズに……』


 ミリアの声が震える。


 ここから先は、カイ一人の領域。


 観測も、干渉も、

 外部からは届かない。


 光片が選んだのは、

 守られる場所ではない。


 一人で進むための深層。


 天井が、ついに崩れ落ちる。

 破片が光を反射しながら落下する。


 それでも亜種核は抑制されたままだ。

 Jの調整は、最低限の役割を果たしている。


 ただし――

 代償として、主人公は切り離された。


『……選ばれた、のね……』


 ミリアが唇を噛みしめる。


 レオンは答えない。


 彼は理解していた。


 光片が動いたということは、

 もう「一緒に戦う段階」ではない。


 これは――

 内部へ降りる者の試練。


 崩壊する聖遺構の中で、

 カイはただ一人、

 光に引かれて消えていった。


 それは救出ではない。

 避難でもない。


 世界が壊れる前に、

 核心を切り離すための判断。


 光片は、意思を持って動いた。


 そして主人公は――

 ついに、誰にも守られない場所へ踏み込む。


 聖遺構は、決壊した。


 だが同時に、

 物語は新しい位相へ移行する。


 カイ単独フェーズ、開始。


 それは孤独ではない。


 光片が選び、

 世界が逃がし、

 観測が要求した――


 必然の分岐だった。

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