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『アーク層の追放者 ―カイ・ラグナロック英雄戦記―』  作者: kaiくん
第4章 侵食域ノ聖遺構(レリック)

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第67話 観測殻に似た内部構造

 遺構の内部は、外から想像していたよりも静かだった。

 大地を押し上げるほどの力で現れた建造物だというのに、足を踏み入れた瞬間──音という音が“遠ざかった”。


 消えた、というより。

 距離が伸びたような感覚。


 カイは一歩、また一歩と慎重に進む。

 足元は石の床のはずなのに、冷たさがない。

 むしろ、わずかに体温を返してくるような、不思議なぬくもりがあった。


「……中、思ったより狭くないね」

 ミリアが小さく言う。


「ええ。ただし……単純な空間ではありません」

 レオンは周囲を見回しながら答えた。

 壁や天井の“形”だけを見ているのではない。

 形の裏にある規則を読み取ろうとしている視線だった。


 内部は円筒に近く、通路はなめらかな曲線を描いている。

 角がほとんどない。

 削ったというより、最初から“そう在る”ような形。


 カイは胸の奥がざわつくのを感じていた。


(……見覚えがある)


 理由は分からない。

 だが、この感覚は初めてではない。

 夢の続きを踏んだような、既視感の気配。


「ねぇ……ここ」

 ミリアが壁を指した。

「レオンが使ってる“観測殻”と、ちょっと似てない?」


 レオンは足を止め、静かに頷く。


「はい。私も同じことを感じています」

 声は低い。

「構造の考え方が……非常によく似ている」


「じゃあ、やっぱり……」

 ミリアが言いかけて口をつぐむ。


「ええ。ただし、決定的な違いがあります」


 レオンは壁の表面に手をかざした。

 触れていない。

 だが、その距離で十分だと言わんばかりに、指先が微かに震える。


「情報の“詰まり方”が……異常です」


「詰まり方?」

 カイが首をかしげる。


「私の観測殻は、“必要な分だけ”情報を流します」

 レオンは淡々と続けた。

「ですがここは違う。

 ……世界そのものを押し込めようとしたような密度だ」


 ミリアが肩をすくめる。背中に冷たいものが走った顔だ。


「それって……多すぎるってこと?」


「ええ。多すぎて、普通なら受け取れない」

 レオンは言い切った。

「触れただけで、意識が壊れてもおかしくない量です」


 カイは無意識に、壁へ近づいていた。


「カイ?」

 ミリアが声をかける。


「……大丈夫」

 自分でも、言葉が曖昧だと感じる。

「なんか……呼ばれてる気がする」


 それは、前に感じた“女性の呼び声”と同じ質だった。

 やさしい。

 けれど、曖昧さがない。


 カイは、そっと壁に手を触れた。


 その瞬間──


 視界が、白く弾けた。


 眩しい光ではない。

 内側から立ち上がる光が、眼球の裏を走る。


 壁の内側から細い線が無数に伸び、絡み合い、編まれ、形を成す。

 文字。

 だが、見慣れた文字ではない。


 線と線が重なり、ほどけ、結び直される。

 “読む”というより、意味が先に流れ込む。


 ──《接続条件:確認》

 ──《観測点:応答》

 ──《権限照合……不完全》

 ──《許可範囲:暫定》


「っ……!」


 声を上げる暇もなかった。


 光は霧のように消え、通路の静けさが戻る。

 カイは反射的に手を引っ込め、息を荒くした。


「カイ!? どうしたの!」

 ミリアが駆け寄る。


 レオンの声は低く、鋭い。


「……今、何が見えました?」


「……見えた」

 カイは喉の乾きを飲み込みながら言う。

「一瞬だけ……光る文字みたいなのが」


 ミリアとレオンが同時に息をのむ。


「文字……?」

 ミリアは信じられないという顔をした。

「ここ、情報が多すぎて……普通は“見えない”はずだよ?」


 レオンはカイを真っ直ぐ見つめる。


「……あなたは、それを“読んだ”のですね」


「読んだってほどじゃない」

 カイは首を振る。

「意味が……勝手に分かっただけだ」


 短い沈黙。


 そしてレオンが、はっきりと言った。


「それは……“普通の観測者候補”にはできません」


 カイの胸が強く脈打つ。

 光片の鼓動と、奇妙に重なる。


「どういう意味だ?」


「観測殻に似た構造は、選ばれた者にしか反応しません」

 レオンは言葉を選びながら続ける。

「しかもここは、私の知るものより……さらに“上”の考え方で作られている」


 ミリアがごくりと唾を飲む。


「じゃあ……この遺構って……」


「ええ。単なる古代遺跡ではありません」

 レオンは静かに言い切った。

「“上層”と、そのさらに奥──

 未知の技術が、混ざっています」


 カイは完全には理解できなかった。

 だが、一つだけ分かる。


 この場所は、誰でも入れる場所ではない。

 そして自分は──


 **“入れてしまった側”**だ。


「ねぇ、カイ……」

 ミリアの声が少し震える。

「さっき見えた文字……怖くなかった?」


 カイは少し考え、正直に答えた。


「……怖かった」

 一拍置く。

「でも、それ以上に……懐かしかった」


 レオンの表情が、わずかに揺れた。


「やはり……」

 彼は小さく息を吐く。

「あなたは、この遺構にとって“異物”ではない」


 通路の奥で、淡い光がまたたいた。

 壁の内側を、何かがゆっくり動いている気配。


 光片が、低く、深く脈打つ。


 ──次へ。


 言葉ではない。

 だが、確かな指示。


「……進めってことだな」

 カイが言う。


 ミリアは覚悟を決めたように頷いた。


「うん。もう後戻りできない感じだし」


 レオンは一歩前に出て、静かに言った。


「この遺構は、あなたを“試して”います」

 そして、続ける声が少しだけ硬くなる。

「同時に……あなたを“迎え入れよう”としている」


 三人は歩き出した。

 観測殻に似て、しかしまったく別の思想で作られた内部へ。


 世界の下に隠されていた、

 **“上層と未知が交わる場所”**の、さらに奥へ。


 カイの胸の奥で、光片と同じリズムの鼓動が静かに続いていた。


 それはもう偶然ではない。


 この場所は、彼を待っていた。


 そして──

 「暫定」の文字が、次に何を要求するかだけが、まだ分からなかった。

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