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『アーク層の追放者 ―カイ・ラグナロック英雄戦記―』  作者: kaiくん
第3章:観測殻の崩落

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第60話 影の手と光の救い

双龍斬の余韻がまだ空間に残っている。

 斬り裂かれた霧が揺れ、巣の外郭は崩れ落ち、反転域全体が大きく呼吸を乱していた。


 だが――終わりではなかった。

 むしろ、ここからが“本当の核”だった。



 巣の中心。

 傷ついた影の狩人の気配が残る黒い球体が、ぷつりと波紋を走らせた。


 次の瞬間。


 球体の表面が、ゆっくりと、しかし致命的な音を立てて割れはじめる。


 黒い霧が縫い目のように裂け、

 空気が凍るような冷気が吹き出す。


 そこに露わになったのは――


 “影”でもない。

 “闇”ですらない。


 形という概念そのものを持たない、異質な空白。


「……あれが……核の“本性”……?」


 レオンが震える声を漏らした。


 黒い裂け目が静かに広がる。

 霧を焼く火傷のように、壁も地面も輪郭を失っていく。


 そこから伸びたのは――


 手。


 しかし、人のものではない。

 影の狩人の腕に似ているが、その濃度も存在感も、比べ物にならない。


 “形を奪うためだけに生まれた手”。


「きみ……きみのかたち……ほしい……」


 喉奥で響くような囁きが裂け目の奥から響く。


 


◆① ミリアが影に呑まれる寸前


 ミリアの黒痕は心臓へ到達し、さらに奥へと進もうとしていた。


 黒い紋様が脈を打つたび、

 ミリアの呼吸が浅く、弱く、薄くなっていく。


「ミリア! ミリア、聞こえるか!!」


 レオンが叫ぶが、ミリアの瞳は焦点を失っている。


 胸の黒痕は、核の鼓動と完全に同じリズムを刻んでいた。


――このままでは、ミリアの“形”も飲まれる。


(そんなこと……絶対にさせない……!)


 


◆② カイの影が引き剥がされる


 影の手がカイへ伸びる。

 触れた瞬間――


 カイの影が浮いた。


 足元から剥がれ、

 紙のように薄く、細く、裂け目に向かって引き剥がされていく。


「くっ……!」


 腕が震え、双龍斬の反動で力が入らない。

 影の裂け目の引力は、すでに抵抗できる範囲を越えていた。


(まずい……! このままでは俺の影ごと“形”が奪われる!)


 


◆③ 光片が飛ぶ ――ミリア救出


 そのときだ。


 カイの胸の光片が、

 何かの意思に突き動かされるように、蒼光を放って飛び出した。


「光片……!?」


 光片は一直線にミリアへ走り、

 黒痕へ衝突した。


 蒼光が弾ける。


 黒い紋様が逆流し、

 青い光の線に変わっていく。


「……っは……!」


 ミリアが息を取り戻した。


「ミリア!!」

 レオンの声が震えた。


 


◆④ 光片、影の手を撃ち落とす


 光片は反転し、

 次の瞬間にはカイへ伸びていた影の手へ突撃する。


 蒼光が影を貫き、

 影の手は焼け焦げるようにねじれ、霧散した。


 核が震える。


「ガ……ァ……ッ……!」


 悲鳴でも声でもない。

 影そのものが苦しんでいるのが分かる。


(効いてる……! 光片の力が核に届いてる!!)


 


◆⑤ だが——核はしぶとい


「きみ……

 きみのかたち……

 まだ……ほしい……」


 核の裂け目は再び開き、

 さらに濃い影を吐き出してくる。


 カイの影はまだ完全には戻っていない。

 脚元の影は、いまも細い糸のように上へ引かれている。


(まずい……双龍斬のあとで体力が持たねぇ……!)


 息をするたび、視界が揺れる。


 このまま影の手を斬っても、取られても、同じだ。

 斬撃では――届かない。


 


◆⑥ カイの“原点”が目覚める


(なら……叩くしかない……)


 剣を握る手に、懐かしい“熱”が宿った。


 昔の、まだ弱かった頃。

 剣も魔術もまともに扱えず、

 それでも必死で前へ進もうとしていた頃。


 “拳で殴るように剣を振る技”。

 脚が折れようが、腕が震えようが、

 意地だけで前へ出るために生まれた技。


――《撃》。


 刃に宿すのは技巧ではない。

 ただの衝動。

 前に進みたいという、原点の意思。


(双龍斬で足りなかったなら……原点で叩き返す!!)


 


◆⑦ 核の引力と激突


 影の裂け目と白い残響が同時に揺れる。

 影の引力がカイを飲もうとし、

 逆方向から白い声がカイを呼んでいる。


 二つの外側が、

 まるでカイ一人を引き裂こうとしているかのようだった。


 身体が軋み、肺が悲鳴を上げる。


(くそ……! どっちにも行かない!!)


 


◆⑧ 《撃》発動


「――撃ッッ!!」


 カイは残る力のすべてを込めて剣を振り抜いた。


 刃から蒼白の衝撃が弾ける。

 斬り裂くのではない。

 ただ前へ押し出す、魂を叩きつける一撃。


 それは一直線に核へ突き刺さり――


「アアアアアアアアアアッ!!!」


 核の外殻が砕ける。


 影の裂け目がひしゃげ、

 反転域全体が震え、

 黒い霧が波のように押し返されていった。


 核は後方へ吹き飛び、

 裂け目はギチギチと音を立てて閉じていく。


 


◆⑨ 反転域、崩壊


 影の気配が急激に薄れ、

 建物の壁は輪郭を取り戻し、

 空気のざわめきも消えた。


「……収束した……!」


 レオンの声は、震えていた。


 ミリアは胸の前で光片を抱くようにして、かすかに微笑む。


 カイは剣を下げ、息を整えながら光片に触れた。


「……よくやってくれた。ありがとう。」


 光片は、心臓のように一度だけ“とくん”と脈打つ。


 


◆――3章、決着


 核は退き、

 ミリアは救われ、

 レオンは生き残り、

 反転域は消えた。


 ただ一つだけ残った謎。


 なぜカイだけが、

 《影の外側》と《白い残響》――

 双方に触れられるのか。


 その答えは、まだ彼自身も知らない。


 だが確かに――

 何かが覚醒しはじめていた。

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