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『アーク層の追放者 ―カイ・ラグナロック英雄戦記―』  作者: kaiくん
第3章:観測殻の崩落

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第59話 双龍斬

カイの影は腰の高さまで剥がれ、黒い糸となって宙へ引きずり上げられていた。

 足元にあるはずの影が“地面から離れて揺れる”という異常。

 胸の光片が逆方向へ必死に脈打つが――それでも止まらない。


 巣の中心に浮かぶ“黒い核”は、静かに震えていた。

 その振動は音ではなく、空気の概念を歪ませるような波。

 そして、核の表面がゆっくりと割れた。



 黒い霧が裂け、深淵が露出した。


 ただの闇ではない。

 光も影も届かず、法則が記録されない“外側の穴”。


「……外側と……繋がって……いる……?」


 レオンが震える声で呟く。

 観測殻なしの脳が理解しようとして悲鳴をあげていた。


 黒い裂け目から伸びてきたのは、

 細い影の束が絡まり、一つの“手の形”を成したもの。


 しかしそれは、人間の手ではなかった。

 骨格も肉も持たず、ただ「手」という構造だけを模倣した異質な存在。


 影の手はゆっくりと開き、

 まるで“熟れた果実を取る”ように、カイへと伸びる。


「来る……ッ!」


 カイは剣を構え直すが、

 影の引力に身体の抵抗が追いつかない。

 影を掴まれれば、存在ごと引き抜かれる――そんな確信が背筋を冷やす。



 そのとき。

 胸の光片が悲鳴のように脈動した。


 直後、影の裂け目とは逆方向に――

 世界が“白へ裂けた”。


 黒とは対極でも色でもない。

 空間そのものが紙のように破れ、内側が白へ染まって開く。


「……白い夢……!」


 その奥から、声がした。


「カイ……」

「こっち……」

「もどって……」


 少女の声。

 泣きそうで、震えていて、どこか懐かしい。


 胸の奥がぎゅっと締め付けられる。

 呼吸が苦しくなるほどに。


(会いたい……

 あの声に……)


 だが――



 黒い裂け目から伸びた影の手が、

 カイの“浮いた影”へ触れようとしていた。


「やめろッ!!」


 剣で払おうとするが、影が剥がれすぎて力が入らない。


 影の手は、幼い声とも老人の声とも言えない歪な囁きを放つ。


「すき……

 ほしい……

 きみのかたち……」


 手が影に触れた瞬間――


「ッ……!!」


 カイの胸に激痛が走る。

 身体から“大事な何かが引き抜かれる感覚”。


 視界が白く跳ね、膝が沈む。



 その瞬間、光片が爆ぜるように輝いた。


 カイの奥底で、何かが“目覚めた”。

 それは力ではない。

 怒りでも恐怖でもない。


 もっと深いところにあった――

「譲れないもの」。


――俺の形は、俺のものだ。


 その意思が、剣へと流れ込む。


 腕の内側から蒼白い光が走り、

 剣を握る手が熱を帯びた。



 白い裂け目の奥から、少女の声が重なる。


「カイ……

 その力……

 あなたは覚えてる……

 まだ全部じゃないけど……

 撃ち返して……!」


 少女の声は優しいのに、

 言葉には確かな“力”が宿っていた。


 その囁きに呼応するように、

 カイの剣は蒼白く光る。



 レオンはその光を見て、息を呑んだ。


「あれは……なんだ……?

 深層にも反転にも属さない……

 世界のどの層にも……記録がない……!」


 理解不能。

 しかし、否応なく“強い”と理解できる光だった。



 カイは身体を引き裂くような痛みに耐えながら剣を構える。


 本来、この構えは取れないはずだ。

 記憶のどこかに微かに残っている“必殺技の姿”。

 今のカイには再現できるはずがない。


 しかしその形は――

 白い裂け目の奥から伸びた“光の手”によって支えられた。


 少女がそっと、欠けた部分を補った。


 それは技の完全な再現ではない。

 だけど、形だけなら作れる。


(……思い出せ……

 身体が……覚えてる……!)



「――双龍斬ッ!!」


 その叫びとともに、剣を振り抜く。


 蒼白い光が尾を引き、

 一筋の龍の形を成して核へ突き抜けた。


 本来の双龍斬のように完璧ではない。

 揺れ、不安定で、尾が崩れ、音が歪んでいる。


 だが確かに――

 “必殺技の残響”だった。



 龍の光が核へ触れた。


 核が悲鳴を上げるように震え、

 影の裂け目が縮み、

 カイの影を掴む手が強制的に弾き飛ばされた。


「……っ、はぁ……!」


 カイの影が身体に戻る。

 さっきまで空へ引かれていた影が、しっかりと足元へ吸い付く。


 未完成の双龍斬は――

 それでも“核の装甲”を砕く威力があった。



 レオンは倒れ込みながら呟く。


「……カイ……

 何を使った……

 あんな干渉……世界に存在しない……

 お前の中の……何だ……?」


 理解不能。

 ただ、恐ろしくも美しい光の奔流が、

 反転域の中心を叩き折ったのだけは確かだった。



 白い裂け目の奥から、少女の声がかすかに響く。


「カイ……

 まだ終わらない……

 でも……大丈夫……

 あなたは……もう奪われない……」


 風に溶けるように消える声。

 白い裂け目は静かに閉じた。



 カイはふらつきながら立ち上がる。

 呼吸は荒い。

 身体は震える。

 それでも――目は核を捉えていた。


(……終わらせる……

 ミリアも、レオンも……

 そして俺自身も……守るために)


 砕かれた核は黒い霧を漏らし、

 反転域全体が怒涛のように揺れ動いた。


 だがもう、影はカイから“形”を奪えない。


 未完成の《双龍斬》が――

 確かに戦場の流れを変えた。

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