第5話 森の警鐘と、正体を隠す刃
朝。
静かな街に、突き刺すような警鐘が鳴り響いた。
――カン、カン、カン!
「警鐘? この時間に……魔獣発生!?」
ミリアが窓を開ける。
昼前に鳴る警鐘――それは滅多にない“異常事態”だ。
「今日は新人討伐班の巡回日だったな」
背中に剣を背負いながらカイが言う。
「新人が巻き込まれたら大変だよ。急ぐよ!」
ミリアの指先が赤く灯る。
火の魔力が尾を引いて揺らめき、彼女の焦りを物語っていた。
◆森の入り口
森へ駆けつけた二人の目に飛び込んだのは、地面に倒れた新人隊員たちの姿だった。
「新人たち……!」
「大丈夫か!」
青い制服の三人は息も荒く、動けない様子。
その周囲には、黒い影のような魔獣が三体――
狼型魔獣。
赤黒い毛並み、骨を砕く顎、獲物しか映さない冷たい眼。
新人たちはすでに限界だった。
「くそ……魔力が切れた……!」
「ミリアさん、助け……!」
「《フレアスピア》!」
ミリアの炎が一直線に走り、前方のグルドを貫く。
燃える匂いと同時に、新人たちの安堵の息が漏れた。
「残り二体……!」
ミリアが前に出た瞬間、残りの二体が唸りながら襲いかかってくる。
「カイ、後ろ!」
「分かった」
カイが踏み出した瞬間――
魔獣たちの動きが止まった。
(……またか。なぜ“俺を見る”と怯む?)
魔法も使えないはずのただの人間。
だが魔獣の目に宿るのは、明らかな“恐怖”。
◆二体同時の襲撃
二体のグルドが同時に跳んだ。
牙が迫る。
爪が閃く。
「ミリア、下がれ」
カイは剣を横薙ぎに振る――ただの斬撃のつもりだった。
だが、
――バシュッ!
剣の軌跡から“見えない斬撃”が走り、二体まとめて吹き飛ばした。
「なっ……!」
「今の、魔法じゃ……ない?」
新人たちが呆然と呟く。
ミリアでさえ目を見開いた。
「カイの……衝撃波、こんな距離まで……」
「……ただの延長線だよ。斬った勢いの」
平静を装うカイ。
だが胸の奥では、別の感覚が走っていた。
(……“何か”が起動した?)
痛みのない脈動――
しかし確かに、奥底で何かが目覚めようとしていた。
◆最後の一体
最後のグルドは怯え、森の奥へ逃げようとする。
「逃がさない!」
ミリアの赤い魔法陣が広がり、炎が輪を描いた。
「《フレアリング》!」
炎の輪が逃げ道を塞ぎ、白熱した爆発が獣を飲み込む。
森に静寂が戻った。
やがて魔術師団が駆けつけ、状況を確認する。
「全員軽傷……助かったな」
ミリアは安堵の息をつく。
しかし、魔術師団の視線はカイに向けられた。
「……噂は本当か」
「魔力反応ゼロで“衝撃波”……?」
カイの剣を見つめる目には、警戒があった。
「後日、《追加検査》が通達されるはずだ。覚悟しておけ」
「また追加試験か……」
ミリアが肩を落とす。
「まあ仕方ないだろ。魔法について何も分かってないし」
「そういう問題じゃ……」
隊員が小さく呟く。
「最近の魔獣活性化……“魔力の歪み”が原因かもしれない」
その言葉を聞いた瞬間――
カイの胸が激しく痛んだ。
(……魔力の、歪み……?
どうして……こんなに反応する?)
記憶がないはずの奥底で、何かが警鐘を鳴らしている。
◆揺れる影
「――帰ろう、ミリア。新人たちを先に運ばないと」
「うん!」
ミリアが笑い、カイも微笑み返す。
だが――
カイの背後で“それ”が起きた。
朝日を浴びるカイの影が、
不自然に揺れた。
風でもない。
光でもない。
世界の理から外れた“ノイズ”の揺らぎ。
誰も気づかない。
誰も見ていない。
討伐任務は終わったように見えた。
だが――
説明できない違和感だけが、森に取り残されていた。




