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『アーク層の追放者 ―カイ・ラグナロック英雄戦記―』  作者: kaiくん
第3章:観測殻の崩落

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第45話 観測殻の剥離

 街は今朝もおかしかった。


 影は本来の向きとは別方向へ伸び、

 生活魔法はついたり消えたり、

 時計塔の秒針は前進と後退を繰り返す。


――まるで、世界そのものが呼吸を忘れはじめているようだった。


 そんな歪んだ朝を背に、レオンは森を歩く。


 街から少し離れた高台。

 観測者だけが知る“揺らぎ点”――

 世界の構造がもっとも薄くなる場所だ。


(……ここなら、観測殻を外せる)


 レオンの顔には迷いがなかった。

 決意だけがある。


 観測殻を外す。それは観測者にとって禁忌に等しい。


 世界の深層情報が一気に流れ込み、

 視覚も聴覚も思考すらも、世界の揺らぎに呑まれかねない。


 だが――今はそれしか道がなかった。


(観測殻越しじゃ、見えない。

 この侵食は、もっと深くで起きている……)


 レオンは手首の通信輪を触るが、光らない。


 本部との通信が完全に途絶えていた。


(……やっぱり、封鎖されたな)


 世界も、レオンも。

 観測局は“この世界では対処不能”と判断したのだ。


(なら、俺がやるしかない)


 覚悟を決め、レオンは小さく息を吐く。


「……観測殻、剥離開始」


◆観測殻の剥離


 空気が低く震えた。


 透明な光の膜がレオンの皮膚から浮き上がり、

 薄皮を剥ぐようにゆっくりと剥離していく。


 ぱきり、ぱきぱき……


 音もなく、殻が情報片に解体されていく。


“存在波形”“世界との同調”“観測局との接続”――

それらすべてが剥がれ落ちていく。


 最後の膜が離れた瞬間、レオンの視界は一変した。


「……ッぐ……!」


 空は白く反転し、地面は揺れ、

 木々の葉の形が瞬きのたび違う。


これが“本来の世界”――観測殻が隠していた姿。


(……情報流入が速すぎる……!)


 片膝をつきながら、レオンは歯を食いしばる。


◆影の正体


 そのときだった。


 木々の奥、影の薄い場所で“何か”が揺れた。


 黒くない。色ですらない。

 映像が壊れたときのノイズの残像のような存在。


(殻があったら……絶対に見えなかった)


 それは世界に“本来存在しないはずの揺らぎ”だった。


 影はレオンの視線に応じて、形を変える。

 まるで――こちらを覗き返してくるように。


「……外側……?」


 口から漏れ出た言葉に、レオン自身が震える。


(世界の内側の存在じゃない……

 観測局の階層でもない……

 もっと外から……?)


 影は脈動しながら、世界の膜を押している。


外側から、内側へ――侵食してくるように。


(観測殻じゃ見えなかった理由……これか……!

 本部は……こんな干渉に勝てない)


 だから、封鎖した。


 世界も、観測者も、まとめて切り捨てた。


◆侵食の中心


 影は一瞬、密度を増した。


「……ッ!」


 触れたら終わりだと本能が叫ぶ。

 レオンは反射的に後退し、存在が揺らぐのを必死に抑える。


 次の瞬間、影は霧のようにふっと散った。


 まるで“観測したから、もう用済みだ”と言わんばかりに。


 残されたのは――静かな揺らぎだけ。


「……これはもう、観測局じゃ説明できない」


 レオンは胸に手を当てた。


 外側。

 深層でも、上層でもない。


 それよりもっと遠い、“外”からの侵食。


 そして、気づく。


(揺らぎが集中している場所がある……

 一番強く乱れているのは――)


「……カイだ」


 レオンは確信し、息を呑む。


(侵食はカイを通して入り込もうとしている……?

 それとも……カイだけが“外側”に触れられるのか……?)


 どちらにせよ――放っておけない。


 観測殻を外した代償は重い。

 身体も精神もボロボロだ。


 それでも、レオンは立ち上がる。


「……行くしかない。

 世界を守れるのは、もう俺だけだ」

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