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『アーク層の追放者 ―カイ・ラグナロック英雄戦記―』  作者: kaiくん
第3章:観測殻の崩落

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第42話 揺らぐ日常

 ――街が狂い始めた日


 あの日、広場に白い粉が降り積もってから――

 街は“さらに狂い始めた”。


 最初は本当に些細な違和感だった。


 影の向きが、ほんの一歩だけ、ずれている。


 朝日を浴びて伸びるはずの影が、

 建物によっては東に伸びたり、西に揺れたりしていた。


 だが、人は日常の狂いに鈍感だ。

「気のせい」にすれば、恐怖はとりあえず消えるからだ。


 問題は――

 その異常が止まらず、連鎖し始めたことだった。


◆水の影が“逆を指した朝”


「おい、見ろよ……! 水の影だけ逆向きだ!」


 パン屋の主人の悲鳴のような声に、周囲がざわつく。


 井戸から汲んだ水桶。

 その水面が作る影だけが、光源の反対方向を指していた。


 東から差す光に対して、影は西へ。

 揺れれば揺れるほど――光の法則に反した軌道で歪む。


「気味が悪ぃ……」


「魔法のいたずらじゃねぇのか?」


「いや、水魔法の俺が見ても……これは魔法じゃ説明できねえ……」


 街に、不安の色が静かに広がっていく。


 しかし、この程度の怪異で済むならまだよかった。

 異常は、その日のうちに明確な“狂い”へと変わっていく。


◆魔法が“逆流する”昼下がり


「え……? ちょっと待って、これ……」


 薬草通り――弟子が生活魔法を起動した瞬間だった。


 本来なら空中に散る火花が、

 ぱちん、と音を立てて――指先へ逆流した。


「ぎゃっ!? あ、熱っ……!」


 やけど。

 だが誰も、その痛みに驚いているわけではない。


 目撃者たちの視線はただ一つ――


“魔力が世界に拒絶された”瞬間を見てしまった恐怖。


「魔法が……効かねぇ?」


「いや、効くには効いた……けど逆だ。流れが……逆方向なんだ」


「そんなの、あり得るかよ……」


 人の声が震え始めた、そのときだった。


◆時計が“巻き戻る”午後


「おい、時計! 今戻らなかったか!? 秒針!」


 ざわり、と通り全体の空気が揺れる。


 塔の大時計。

 秒針が――数秒だけ、確かに巻き戻った。


 しかも。


「ひっひっひっひっ……」


 どこかで遊んでいた子どもの笑い声が、

 壊れた楽器みたいに同じ部分だけループしている。


 音だけが、時間から外れていた。


「……これ、ほんとに何なんだよ……」


「街が……狂い始めてる?」


「災厄の前触れじゃねぇよな……?」


 恐怖はもう、隠しきれなかった。


 そして――

 ついに住民は“ひとつの存在”へ疑いを向け始める。


◆噂の中心にいる少年


「……あの魔法が効かない子と関係あるんじゃねえかって話だ」


「カイって子だろ? 黒髪の」


「最近の異常、あいつの近くで多くねぇか?」


「魔法が効かないって時点で異常だしよ……」


 不安は、もっともらしい形に姿を変え、

 名前を得た瞬間、疑念は恐怖より速く拡散した。


◆夕暮れ――自分を責める少年


 夕暮れ。

 街外れの坂道で、カイは膝を抱えて座っていた。


(……俺のせいなのか?)


 影の狂い。

 魔法の逆流。

 時計の巻き戻り。


 どれも、カイが近くにいた場所で起きていた。


(俺が……この街をおかしくしてる?)


 胸が、押しつぶされそうだった。


「カイ!」


 駆けてくる足音。

 ミリアの瞳は、心配に揺れていた。


「探したんだよ……。カイが落ち込んでるって聞いて」


「落ち込んでない」


「落ち込んでる!」


 即答。

 否定する余地もない。


 ミリアは隣にそっと座り、言った。


「カイのせいじゃないよ」


 その言葉は優しいはずなのに、痛いほど刺さる。


「ほんとに、そう思ってるのか?」


「思ってる!」


「でも、みんな……俺のこと……」


「みんながどう言おうと関係ない!」


 ミリアは珍しく声を荒げた。


「今日の異常は、どれも“世界のほうが狂ってる”感じだよ。

 カイが原因なんかじゃない。むしろ……影響を受けやすいだけ」


 その推測は、レオンの言っていた

 “世界の深層構造のズレ”と奇妙に噛み合っていた。


 だが、カイの胸の黒い塊は消えない。


「俺がいると……みんなが怖がるんだ」


「おかしくなんてない!」


 ミリアは真っ直ぐに言った。


「私は、カイを疑わない」


 その真摯な言葉を、カイは受け止めきれなかった。


◆逆再生される鐘


 そのとき――。


 ゴォォン……


 街の大時計が、時刻とは違うタイミングで鳴った。


 しかも。


 鐘の音が……逆再生されている。


 響きが時間を巻き戻しながら消えていく、不気味な音。


「また……異常?」


「うん……今度は、さっきより大きい」


 ミリアの声が震える。


 カイは立ち上がり、空を見た。


 夕焼けは薄く、どこか“色を失いかけていた”。


(レオン……早く戻ってくれ……)


 祈るような心の声。

 だが、世界の崩壊は――


 まるでそれに応えるように、静かに増幅していった。

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