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『アーク層の追放者 ―カイ・ラグナロック英雄戦記―』  作者: kaiくん
第3章:観測殻の崩落

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第41話 残された白い粉末

  処理班との激闘が終わった広場は、異様な静寂に沈んでいた。

 ほんの数分前までは、地を割る衝撃と魔力の乱流で息をするのも難しいほどだったのに――

 いまは、まるで時間ごと凍りついたような静けさが支配している。


 だが、その静寂よりも異様だったのは地面一面に降り積もる白い粉だ。


 雪でも灰でもない。

 踏むと沈むのに、散らず、広がらず、固体のように“重い”。

 光に当たる角度で、金属を削るような鈍い反射を見せる。

 何より、この世界の物質には感じない“異質さ”があった。


「……おかしい」


 沈黙を破ったのはレオンだった。

 彼は白い粉を指先でつまみ、軽く擦り合わせる。


 ぎり、と。

 金属片同士が微かに噛み合うような音。


「処理班は倒せば消散する。形を残すことはない……はずなんだ」


「じゃあこれは、処理班とは違う……?」


 問いかけに、レオンは短くうなずく。

 だがその表情は、いつもの冷静さとは別物だった。


 ――想定外の“さらに外側”を見てしまった者の顔。


「これは“観測殻”の残骸だ」


「観測……殻?」


「観測殻。ある場所に人間が“存在しても矛盾が起きないようにするための外層”だ。

 世界の深層に馴染ませるための、特殊な殻だと言えば伝わるか」


 説明は曖昧だ。

 曖昧にしている――その意図すら伝わるほどに。


 観測殻とは何か。

 なぜレオンが知っているのか。

 どこで作られ、何を前提とした技術なのか。


 すべて霧の奥に隠されたまま、ただ“極めて重要”だという気配だけが濃い。


「観測殻は本来、崩壊しない。……いや、崩壊しても物質は残らない。深層に溶けて消える」


「なのに、粉になって残ってる……?」


「そうだ。だからありえない」


 レオンは膝をつき、触れぬように粉を観察する。

 白い粉は広場全体に、薄く、だが確実に散っていた。


「観測殻が“この世界に適合しなくなってきている”。

 その証拠だろう」


「適合しない……?」


「世界の法則と、観測殻の前提が噛み合わなくなっている。

 ほんのわずかなズレの蓄積が、この崩壊を引き起こしたんだ」


 主人公は息をのむ。

 世界の法則に合わない――?


 レオン自身、どこか“外側”の人間のような気配をまとっている。

 もし彼の技術が世界の方から拒絶されているのだとしたら、

話は桁違いに重い。


「……この世界に、何かが起きている」


 レオンが粉を手放した瞬間、風もないのに粉がふらりと浮いた。

 雪のように舞うでもなく、灰のように散るでもない。

 何かに引っ張られるような、異質な軌道を描いて地面に落ちる。


 ――世界のルールに従っていない。


 それ自体が恐ろしい証拠だった。


「処理班が攻撃してきたのも、これと無関係じゃない」


「処理班って、本来こういう戦闘を仕掛けるものなのか?」


「ありえない」


 レオンは断言する。

 その声音は、主人公が知るレオンの中で最も強い。


「処理班は“世界の整合性を保つためだけ”に存在している。

 行動パターンは厳密で、暴走など構造的に不可能だ」


「でも襲ってきた……」


「だから異常だ。観測殻の崩壊と同じくらい……いや、それ以上に“根本を揺るがす異常”だ」


「誰かに操られた?」


「その可能性は高い。あの動きは不自然だった。

 処理班本来のアルゴリズムではない“意志”を感じた」


 レオンは白い粉の散る広場を見渡す。


「観測殻の崩壊。処理班の暴走。

 この二つが同時に起きるのは偶然ではない」


 そして――静かに告げた。


「この世界に“外部から干渉が入った”」


「外部……?」


「ああ。この世界のものではない意志だ」


 主人公の背筋に冷たいものが走る。


 レオンは白い粉を拳に握りしめ、静かに言った。


「名前をつける。

 ――仮に“侵食者”と呼ぼう」


「侵食者……」


「世界の構造を食い破る何か。観測殻を壊し、処理班を操り……深層に触れている存在だ」


 そのとき、風が吹いた。

 粉が舞う――しかし風に逆らい、雪のように空へ逃げず、

 粘つくように落ち続ける。


「レオン……これ、放っておけるのか?」


「放っておけるわけがない」


 レオンは立ち上がり、広場をゆっくり見渡す。


「侵食者が本格的に動き出せば、この世界はもたない。

 ……今はまだ、ほんの序章にすぎない」


 レオンは主人公の目をまっすぐに見た。


「これから先、お前も巻き込まれる。覚悟しておけ」


 白い粉は、まだ消えない。

 溶けず、散らず、ただ“そこに存在し続ける”。


 ――それは、外部から侵入した“何者か”の、確かな足跡だった。

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