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『アーク層の追放者 ―カイ・ラグナロック英雄戦記―』  作者: kaiくん
第1章:歪む世界と特異点の少年(カイ)

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第18話 歪みの残滓と観測の警告

 森の奥で“歪み”と激突した翌朝。

 朝霧が地表を薄く覆う頃、カイは村外れ――歪みが出現した場所へひとり戻ってきていた。


 昨夜の戦いの跡は、まだ生々しく残っていた。


 ――木々が、根元から外側へねじれ折れている。

 ――地面は一瞬だけ液体になったように波打ち、そのまま固まったような凹凸を残していた。

 ――風がないはずなのに、中心点だけが“音のない唸り”を微かに発している。


 どれも魔法の痕跡とは一致しない。

 魔術師団が定義する属性反応にも触れず、魔術具で測れば“ゼロ”と表示されるはずの異常。


(……これは魔法じゃない。“未知の世界”からの干渉だ)


 胸の奥が重く、警告のように鈍く響く。


 そのとき。


「……カイ?」


 背後から聞き慣れた声。

 振り返るとミリアが小道を歩いてくるところだった。

 昨日の疲れを引きずりつつも、まっすぐにカイを見つめている。


「ごめん……起きたらいなくて。ここに来ると思った」


「ああ。昨日の歪みがどう残ったか、確かめたかったんだ」


 ミリアが地面へ視線を落し、眉を寄せた。


「思ったより……壊れてない。でも、これ魔法の跡じゃないよね?」


「魔法じゃない。“魔法という式が存在しない力”の形だ」


 ミリアはしゃがみ込み、地面を触る。

 しかしすぐに手を離した。


「……ただの土にしか感じない。魔力も反応もゼロ。でも――」


「昨日の歪みが確かに“何か”を残していった」


 カイは、歪みの中心に近い黒く焦げた地割れへ手を伸ばした。


 触れた瞬間。


――ピシッ。


 空間が“ガラスが割れる音”のような振動を返した。


「っ……!」


「カイ!? いま何が――!」


 カイは反射的に手を引いた。

 指先が軽く痺れ、脳の奥を掠めるような拒絶感が残る。


(間違いない……昨日と同じ“観測”だ)


 見られている。

 歪んだ穴の奥から、誰かの“視線”が突き刺さるようだ。


 それは熱や寒さではなく、

 “存在そのものの輪郭を測られる”ような異質な感覚。


 ミリアがこわごわカイの顔をのぞき込んだ。


「カイ……すごい顔してる。怖いよ……」


「……ごめん。何か残ってる。昨日の影を操ってた“外側の何か”が」


 胸の奥がざわりと震えたその直後――

 歪みの中心に、小さな黒い粒が浮かび上がった。


「……球?」


 ミリアは首をかしげるが、その目線は球体を捉えていない。

 見えているのは、カイだけ。


(やっぱり……俺にだけ見えてる)


 直径三センチほどの完璧な黒い球体。

 光を吸い込み、反射がない。

 生物的な気配も魔力反応もゼロ。


 ただ――“観測している”。


 そんな圧迫感だけが伝わってくる。


「カイ、何を見てるの……?」


「黒い球が……ここに浮いてる」


「……わたしには見えない。歪みの残滓みたいなもの?」


「たぶん、そうだ」


 黒い球体から、微かなノイズが漏れた。


――……キロ……ユ……セ……

――……再……観測……対象……カイ=……


「っ……!」


 カイは思わず後ずさる。

 頭の奥がピリッと軋むように痛んだ。


(先日の“観測局の男”に似た波長……でも、それより冷たい)


「カイ、本当に大丈夫……?」


「大丈夫……いや、正直言うと大丈夫じゃない」


 球体から流れる“情報”は断片的だが、はっきりと分かる。


――……干渉値……上昇……

――……観測……継続……

――……回収……条件……調整……


(回収……前も言っていた“回収”……!)


 カイが一歩踏み込むと、黒い球体が一瞬震え――

 水滴が蒸発するように、音もなく消えた。


 残ったのは、ごく薄い“影の焦げ跡”だけ。


 森にようやく風が戻り、遠くで鳥が一羽だけ鳴いた。


 ミリアは何も見えなかったはずなのに、肩を震わせていた。


「……カイ。何も見えなかったのに、場所が……急に寒くなった」


「ミリア。怖がらせてごめん。でも、ほんの一瞬だった」


「ううん……カイのほうがもっと怖いよ。自分にだけ見えるって……」


 ミリアは震える手でカイの腕を掴む。


「カイ。ひとりで抱えないで。わたしも一緒に戦う。考えることだってできるから」


「……ありがとう」


 その言葉が、胸に温かく落ちていく。


 だが――。


 足元に残る黒い影を見るたび、胸の奥の違和感はより強くなる。


(観測局……あれは魔術師なんかじゃない。

 この世界の魔法とは別の、もっと根源の力だ)


 黒い球体――“観測の残滓”。

 これは“まだ終わっていない合図”だ。


(昨日の戦いは、ただの予備動作……

 本当の干渉は、これから来る――)


 カイの背筋を、冷たいものがゆっくりと這い上がった。

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