表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『アーク層の追放者 ―カイ・ラグナロック英雄戦記―』  作者: kaiくん
第1章:歪む世界と特異点の少年(カイ)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/100

第16話 歪みの奥より現れる影

 森の奥――誰も足を踏み入れたことのない領域に、異様な静けさが広がっていた。

 鳥も虫もいない。風までもが音を失い、世界全体が息を潜めているように感じられる。


 一歩進むごとに土の踏み心地が鈍くなり、木々の輪郭がゆらりと滲んでいく。

 ミリアが剣を構え、震える声でカイに問いかける。


「……カイ、“見えてる”んだよね?」


「ああ。昨日より、ずっとはっきりと」


 カイの目に映るのは、彼にしか視認できない“黒い裂け目”。

 世界の皮膚を破り、その奥から何かがこちらを覗き込んでいる――そんな不快な気配。


 昨日よりも確実に広がっていた。

 このまま放置すれば、森だけでなく街ごと呑み込むだろう、そんな確信があった。


 近づくほど胸を押し潰されるような圧力が増し、呼吸すら困難になる。

 カイは胸を抑え、苦しげに顔をゆがめた。


「っ……ぐ……」


「カイ!? また苦しいの!?」


「だいじょう……ぶだ。これは魔法じゃない。ただの圧だ」


 だが、それは虚勢だった。

 “観測局の男”が昨日行った干渉よりも深く、冷たい力が裂け目から滲み出ている。

 世界を構成する“式”を通らず、根本の法則へ直接触れるような異常さ。


(観測局の残留干渉……いや、これはもっと上の何かだ)


 呼吸を整え、カイはミリアを振り返る。


「ミリア、絶対に俺のそばから離れるな」


「わかった……でも危険なら、一度戻るべきじゃ――」


「戻ればもっと危険になる。歪みが広がれば、街が飲まれる」


 ミリアは息を呑み、決意を込めて頷いた。

 二人は駆け出し、森の最奥へと向かった。


◆裂け目の核心――“観測”の始まり


 森の深部。木々は影のように黒く沈み、陽光すら拒絶している。

 そんな暗闇の中心に、“それ”はあった。


 黒い裂け目が、空気に無理やり傷を入れるように波紋を広げている。

 ミリアには本体は見えないはずだが、周囲の異常だけで表情をこわばらせた。


「……空気が重い。魔力が……吸われてる?」


(吸われてるんじゃない。“観測されている”)


 その瞬間、


「っ……!」


 胸が激しく締めつけられ、視界が揺れる。

 耳鳴りが爆ぜ、世界が遠ざかるような感覚。


「カイ!? 顔色、本当にひどいよ!」


 昨日の観測局の干渉とは桁違いだ。

 今、裂け目の奥にいる“何者か”は、世界の外側から直接この場所を捻じ曲げている。


 黒い影が裂け目の奥でうごめき始めた。

 輪郭が世界の法則に合っていない。形を保つことすら拒む、理外の存在。


 その影を凝視した瞬間――


――〈 カ イ 〉


 脳を直接叩く声が響いた。


「っ……!? 今の……誰!?」

 ミリアは周囲を見回したが、声の主は見当たらない。


 耳ではない。

 “観測者”からの直接干渉だ。


(観測局の男じゃない……もっと深い、もっと冷たい何か)


「……誰だ」

 カイが震える声で問い返すと、裂け目がゆっくりと広がる。


――〈観測進行中。反応確認。個体識別:カイ〉


 ミリアは悲鳴を上げ、カイの腕へしがみついた。


「カイ!? 誰と喋ってるの!?」


「ミリア、俺の後ろに下がれ!」


――〈選択の時は近い〉


 冷たい声が空気を震わせる。


「……選択?」

 カイは眉をひそめる。


――〈この世界に紛れ込んだ“観測対象”。封印された理外の異物〉


 胸が跳ねた。

 自分自身を“異物”と断ずる声に、怒りが燃え上がる。


「黙れ……!」


――〈ならば証明せよ。己が、この世界に存在する価値を〉


 次の瞬間。


 ドッ、と世界が揺れた。


「ぐっ……!」


「カイ!!」


 ミリアが駆け寄ろうとしたその刹那、

 裂け目から吹き出した風圧がミリアの身体を横へ弾き飛ばした。


「ミリア!!」


 叫びが森にこだまする。


――〈干渉開始〉


 黒い影が動く。

 裂け目の中で形をつくり始めたそれは、人に似ているが、人ではない。


 関節が足りない。

 指の数が合わない。

 影も光も持たず、ただ“存在の過剰”だけを主張する異質な構造体。


(……来る!)


 カイは剣を強く握った。

 恐怖より先に、怒りと覚悟が湧き上がる。


(逃げない……ミリアを、街を……この森を守る!)


「来い……!!!」


 叫びが森の重い空気を切り裂く。


 そして、ついに――

 理外の“観測体”が、この世界へ侵入を開始した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ