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『アーク層の追放者 ―カイ・ラグナロック英雄戦記―』  作者: kaiくん
第1章:歪む世界と特異点の少年(カイ)

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第13話 呼ばれる者、観測される者

 森で“歪み”を確認したあと、カイとミリアは急ぎ足で塔へ戻った。

 夕暮れの赤い光が街の石畳を照らしているというのに、二人の胸は重く沈んでいた。


「団長に伝えなきゃ。今日は……放っておくのは危険だよ」


「ああ。歪みは、もう“成長している”感じがした」


 二人は塔の扉を押し開け、階段を駆け上がる。

 魔術師団の本部には普段より多くの術師が詰めており、慌ただしく走り回っていた。


(街全体が……何かに怯えている)


 胸騒ぎはますます強くなる。


***


◆◆ 団長室――“観測外”という言葉


 団長室の扉を開けると、白髪の老魔術師――レイノルド団長が険しい顔で書類を睨んでいた。


「戻ったか。……で、歪みが“大きくなっていた”というのは本当か?」


「はい。場所も昨日と同じです。ただ……見えるのは俺だけでした」


「私には、何も……」

 ミリアも首を横に振る。


 団長は顎に手を当て、深く息を吐いた。


(カイにだけ見えて、魔術師団の検査では何も出ない……。

 本当に“観測外の事象”か……?)


「……カイ。お前が見た歪みだが、ひとつだけ心当たりがある」


「心当たり、ですか?」


「“観測外の事象”だ」


「観測外……?」


 団長はゆっくり説明を始めた。


「この世界の魔法は、“世界が認識しているもの”しか扱えない。

 魔力、術式、生物……あらゆるものが“観測”されて初めて魔法になる」


 カイの胸にざらつく感覚が走る。


「だが昨日のあの男――“観測局”を名乗った男は、魔法式を使っていなかった」


「団長、それって……この世界じゃありえないんですよね?」


「ありえん。完全に“未知の技術”だ」


 団長は机の上の羊皮紙を示す。


「これが奴の魔法痕跡だ。

 魔力の流れはあるのに、術式が存在しない。

 つまり、世界が“認識できない魔法”だ」


(やっぱり……あの男は、歪みと同じ‘未知’の存在だ)


「観測局って、本当にどこにも記録がないんですか?」


「昨日から探し続けているが、この大陸のどの国にもない。

 隣大陸にも存在しない。似た名称すらない」


 ミリアの表情が強ばる。


「じゃあ……どうしてあの人は、この村に? カイに?」


 団長はカイに向き直った。


「――カイ。お前の存在が、奴らを引き寄せたんだ」


「……俺が?」


「昨日の検査で分かっただろう。

 お前は魔法を“拒絶”する。

 だが魔法が起こした物理現象は受ける。

 ――この世界のルールに、完全には適合していない」


 カイは胸に手を置く。


(三年前、村で倒れていた俺……

 周囲の魔法が乱れていたという話……

 あれも関係があるのか?)


「団長……俺は、この世界の人間じゃないんですか?」


 自分で言いながら、喉が震えていた。


 団長は即答しない。

 しばらく沈黙してから、静かに首を振った。


「分からん。だが――

 “未知の技術”に反応するのは事実だ。

 歪みが見えるのも、お前が世界の壁の“向こう側”に片足をかけている証拠だ」


「そんな言い方……やめてください!」

 ミリアが声を上げ、机を叩く。


「カイはカイです!

 世界がどうとか、観測とか、そんなの関係ない!

 カイはこの村で生きてるんです!」


「ミリア……」


 団長も、少しだけ表情を緩める。


「……すまん。責めるつもりはない。

 だが、お前の出自が危険を呼んでいるのは確かだ」


 団長は別の報告書を手に取る。


「実は王都から緊急通達が届いた。

 森の奥で“未観測波形”が確認されたらしい」


「未観測……?」


「歪みと同じものだ。いや、もっと強い可能性がある」


 空気が一気に冷える。


「カイ。歪みに触れたとき、何か感じたと言っていたな?」


「……呼ばれた気がします」


「呼ばれた?」


「はい。ぼやけた声でしたが……確かに“名前”を呼ばれました」


 団長の目が細くなる。


「名前まで……。

 やはり、お前は“未知の存在にとって必要な存在”だ」


「必要……?」


「むこうから見れば、お前は“計算外の鍵”なのだろう」


 その言葉に、ミリアは震える手でカイの腕を掴む。


「カイは渡さない……。

 絶対に……!」


「ミリア……ありがとう」


 団長は二人を見つめ、ゆっくり頷いた。


「……よし。今夜から塔の護衛を強化する。

 カイ、ミリア。不用意に外をうろつくなよ」


「分かりました」


「はい!」


***


◆◆ 帰り道――“観測の印”


 塔を出ると、夕焼けの空は紫に沈みつつあった。


「カイ……怖い?」

 ミリアが小さく尋ねる。


「分からない。でも、逃げるつもりはないよ」


「……だよね。カイは、そういう人だもん」


 ミリアは強く笑う。

 その笑顔が、カイにとって何よりの支えになった。


 しかし――。


 路地の先、屋根の上。

 夕暮れに溶けるようにして、黒い外套の男が立っていた。


(また……見ている)


 ミリアには気づけない。

 だが男は、初めからカイだけを“観測”していた。


 男は指で小さな円を描き、

 それをカイに向けて**“観測の印”**を刻む。


 ――にたり、と歪んだ笑み。


 次の瞬間、輪郭が揺らぎ、

 世界から“削り落ちるように”姿を消した。


 音も、気配も、痕跡も残さずに。


「……カイ? どうしたの?」


「……いや。大丈夫」


(観測はまだ続いている。

 歪みの奥の“誰か”は――確実に俺を呼んでいる)


 カイは剣の柄を強く握りしめた。


 ――歪みの“本当の扉”が開く時は、もう近い。

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