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『アーク層の追放者 ―カイ・ラグナロック英雄戦記―』  作者: kaiくん
第1章:歪む世界と特異点の少年(カイ)

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第12話 ――二度目の呼び声

 森の入り口は昨日と同じ場所のはずなのに――どこか薄暗く見えた。


 日は高く、光は十分に差している。

 それでも木々の影は濃く沈み、風が吹き抜ける音さえ、まるで森全体がざわついているかのようだった。

 遠くで鴉が不吉に鳴き、空気をさらにひりつかせる。


 カイは剣の柄を握り直し、隣のミリアは掌に小さな火種を灯したまま周囲を警戒する。


「……昨日より空気が重いよ。森全体が息を潜めてるみたい」


「“歪み”が広がっているのかもしれない」


 カイの胸の奥では、ざらつくような圧がじわじわと強くなる。

 森の奥――昨日見た“黒い穴”の方向へ、何かに引っ張られる感覚。


(呼ばれている……そんな感じだ)


 観測局の男。

 あいつが歪みの存在を“知っていた”ことは疑いようがない。


 胸騒ぎは昨日よりずっと強かった。


「カイ、あんまり前に出ないでよ?」

 ミリアが不安げに袖をつかむ。火種がゆらりと揺れた。


「昨日みたいに吹き飛ばされたら……私、泣くから」


「……泣かないだろ」


「泣く! 怒るし、殴るし、泣く!」


「三段攻撃か……」


 カイは苦笑したが、ミリアの心配は真剣そのものだ。

 その瞳には恐れと覚悟、そして“守りたい”という意思が宿っていた。


 カイは小さく頷き、慎重に前へ進む。


***


◆◆ 森の中腹――昨日の調査地点


 森の中腹。

 魔術師団が昨日「異常なし」と判断した場所に辿り着く。


 だが――。


「……やっぱり、ある」


 カイの視界にははっきりと“黒い穴”が浮かんでいた。


 空間が沈み、光を飲み込み、

 まるで“世界の裏側”が破れたような異質な歪み。


 ミリアは目を凝らすが――


「……どこ? 何も見えないよ?」


「ミリアにも見えないのか」


「うん。空間も普通だし、魔力も感じない」


 昨日と同じ。

 この“異常”は――カイにしか見えていない。


 歪みに近づくほど、胸の奥が締めつけられる。

 昨日より強い圧力。

 まるで向こう側から押し返されているような拒絶の気配。


(昨日より……ずっと強い。“向こう”の存在が力を増してる)


 カイは恐る恐る手を伸ばした。


 ――その瞬間。


「ッ……!」


 触れる前に、胸を殴られたような衝撃。

 肺を圧迫される痛みに、膝が地面へ沈む。


「カイ!? 無茶しないでって言ったのに!」

 ミリアが肩を支える。


「だ、大丈夫……でも……」


 荒い息を整えながら、カイは指で歪みを示した。


「この歪み……誰かが“見てる”。そんな感じがする」


「見てる? 誰が? 魔獣? それとも……」


「分からない。でも……昨日の観測局の男の気配に似てる」


 ミリアの火球が、警戒のように強く燃え上がる。


「昨日の男……団長が調べても何も分からなかったんだよ?

 ってことは、本当にこの世界の人じゃないの……?」


「少なくとも“国”の存在じゃないだろうな」


 そう口にした瞬間――


 森全体が、


 ――ギギ……ギ……ギ……ッ……


 と軋むような音を放った。


「な、なに!?」


「歪みが……広がってる!」


 カイの視界で、黒い穴が円形に膨張していく。

 空間そのものが裂けていくように、静かに、しかし確実に。


 もちろん、それを認識しているのはカイだけだ。


「カイ、戻ろう! これ以上は本当に危険だよ!」


「……そうだな。一度団長に報告しよう」


 触れてはならない領域――そんな直感が働いた。


 歪みから距離をとろうとした、その時。


***


◆◆ 二度目の呼び声


 歪みの奥から――声が聞こえた。


――カイ=……。


 人の言葉なのか、機械的な音なのか。

 冷たく、深く、底の見えない声。


 ミリアには聞こえない。

 だがカイには明確に――耳元で囁かれたように聞こえた。


(……呼ぶな)


 背中を冷たい汗が伝う。

 視界がわずかに揺れ、足元が浮くような感覚。


「カイ……? 顔色、本当に悪いよ!」


「……いや、大丈夫」


 言い終える前に、歪みは脈動し――

 音もなく縮み、霧が晴れるように消えた。


 まるで最初から存在しなかったかのように。


(観測されている……間違いない)


 しかし。


 あの奥には“誰か”がいた。

 昨日の男とも違う――もっと深く、もっと冷たい存在が。


 森を離れながら、カイは強く思う。


(俺は……外側にいる“何か”に見られている)


 その確信は、恐怖ではなく――

 胸の奥に、静かで熱い火を灯し始めていた。

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