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『アーク層の追放者 ―カイ・ラグナロック英雄戦記―』  作者: kaiくん
第5章 止まった世界の外側へ

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100/100

第100話 最終話 進行観測報告 ――

――記録を開始する。


本報告は、

世界の「真理」を記すものではない。


あらかじめ明記しておくが、

私は世界の全体像を把握しているわけではない。

また、因果のすべてを理解しているとも言えない。


本報告は、

あくまで一つの観測点から得られた、

限定的な結果の集積である。


したがって、この報告は正しいとは限らない。

別の観測点から見れば、

まったく異なる結論が導かれる可能性もある。


だが――

無意味ではない。


世界は、長らく「進行している」と認識されてきた。


時間は一定の速度で流れ、

出来事は因果に従って積み重なり、

選択は必ず結果を生む。


少なくとも、

大多数の観測者は、

そう信じることで世界を理解してきた。


世界は自律的に進行し、

個はその流れの中で選択を行う。

それが、一般的な世界像だった。


しかし、今回の一連の事象を通して、

その前提に大きな修正が必要であることが判明した。


世界の進行は――

構造そのものに内在する必然ではなかった。


進行は、観測点に依存していた。


世界は、自動で進んでいたのではない。


誰かが、

進ませていた。


カイという存在について、整理する。


彼は探索者ではなかった。

未知を切り拓く者でも、

未来を選択によって切り替える者でもない。


多くの物語が期待するような、

世界を変革する英雄ではなかった。


彼の役割は、

より単純で、

より過酷だった。


進行を代替するための、停止点。


世界が破綻しないよう、

世界が自律的に進めなくなった瞬間、

その進行を一時的に引き受ける存在。


止まることで、

他を進ませる。


時間を肩代わりし、

因果の負荷を一身に受け止め、

世界全体の破綻を回避する。


進行が成立しない構造を、

個の犠牲によって補っていた。


それは、

極めて静かな形で行われていた。


だからこそ、

我々はそれを異常だと認識できなかった。


その状態を、

我々は「安定」と誤認していた。


誤算があったとすれば、

それは個ではなく、

世界の側にある。


世界は、

観測に依存しない存在を想定していなかった。


止まった存在を見つけ、

そこから連れ出す者。


観測の外側から、

しかし世界構造の内側に触れる存在。


彼女――ティアは、

世界の一部でありながら、

観測点として固定されていなかった。


世界は、

観測されることで成立する。


観測され、

意味づけられ、

記録されることで、

世界は「在るもの」として確定する。


だが、

観測に縛られない存在が介入した瞬間、

その前提は崩れた。


世界は初めて、

「観測されない選択」に直面した。


これが、

世界構造上の最大の誤算である。


双龍撃について、補足する。


この現象は、

武技として分類すべきものではない。

また、単なる力の行使でもない。


世界構造への、唯一の内部干渉手段。


外部から書き換えるのではなく、

世界の内側に存在する者が、

その継続を拒否する行為。


内側から、

「これ以上は支えない」と宣告する。


双龍撃が成立した理由は明確だ。


カイが探索者ではなかったからである。


停止点であった彼だけが、

世界に対して

「これ以上、進行を肩代わりしない」という

選択を行う資格を持っていた。


世界は、

その選択を拒否できなかった。


拒否した瞬間、

世界は破綻していたからだ。


結論を記す。


世界が止まっていたのではない。


止まって、世界を支えていた人がいた。


それを、

我々は世界そのものだと勘違いしていた。


支えが外れた今、

世界は不完全になった。


失敗は増え、

予測は外れ、

選択は、より直接的な痛みを伴う。


だが――

進行は、再び世界そのものに返された。


現在。


カイは、仲間と歩いている。


特別な使命はない。

観測対象でもない。

世界を止める役割も、もう持たない。


彼は、

迷い、

選び、

時に誤り、

それでも前に進む。


誰もがそうであるように。


ごく普通の、

不完全な日常。


観測ログは、

これ以上出力されない。


進行が、

誰か一人の犠牲に依存していないからだ。


――世界は、もう誰も止めていない。

だから不完全で、

だから確かに、進んでいる。


(進行観測報告、終了)

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