転生猫、王妃を守護する。~俺、人間のときより有能なんだが~
――気がついたら、毛が生えていた。
いや、正確には“全身にふわっふわの毛”。
視界がやけに低い。手を見れば、指ではなく、ぷにっとした肉球がある。
耳を動かすと、微かに風の音が増幅され、鼻をひくひくさせると甘い香りやほこりが感じられる。
……どう見ても、猫だ。
「……は? 転生? よりによって猫?」
前世の俺――ルーク=アーデン。王国最強の近衛騎士。
王妃様を守るために剣を握り、盾を掲げ、命を賭けて戦った。
それなのに、目を覚ますと――ソファの上で毛玉になっていたのだ。
心臓が、いや、胸元の毛がもじゃもじゃと震える。
王妃の寝室は、金糸のカーテンが柔らかく光を反射し、暖炉の炎がゆらゆら揺れている。
家具はきらびやかで、絨毯の上に置かれたソファはふかふか。
……完全に猫仕様だ。俺、どうやら完全にハイエンド仕様らしい。
「まぁ、この子……可愛い! お部屋においておきましょう」
王妃が声をあげる。金色の瞳がきらきらと輝き、手を伸ばす。
俺――いや、“ニャルーク”はそのまま抱き上げられ、胸の上に乗せられた。
毛並みは絹のように滑らかで、ふわふわ。
……いや、たぶん俺が高級なのではなく、前世の忠誠心と凛とした気配が顔に出ているのだろう。
しかし、安心している暇はない。
窓の外から聞こえるざわめき、侍女たちの小声。どうやら、俺が死んだ後、王妃に毒を盛ろうとする者まで出たらしい。
敵は――油断も隙もない。
(あー……はいはい、そういう筋書きね。了解。猫の出番だな)
小さく前足を伸ばし、爪を研ぎながら、俺は決意する。
王妃の安全を守る――今度は爪と牙で。
いや、猫の姿でも騎士の魂は死んでいない。
ソファの上で伸びをすると、俺の金の瞳は鋭く光った。
これから始まる猫の戦いに、心も体も準備万端だ。
◆
事件は翌朝、早速起きた。
王妃様の紅茶に、こっそり粉が混入されている。
侍女の一人が、妙にキョロキョロしてやがる。
(おい、俺の肉球センサーが反応してるぞ)
俺は王妃様がカップを手に取る瞬間、
――バシィィン!!
その手を思い切り引っ掻いた。
「ひゃあっ!? ニャルーク!?」
紅茶は見事にこぼれ、カーペットに染みる。
侍女は顔を青くして震えた。
「な、なぜその……そんなことを……」
『(図星だろ、このポンコツスパイ)』
王妃様は不思議そうにカップを嗅ぎ、眉をひそめる。
「……変な匂い。まさか……毒?」
はい、正解。
俺、猫だけど嗅覚も鋭い。人間時代より有能。
それ以来、俺は王妃様の“非公式護衛”として、城を自由に歩き回るようになった。
夜。廊下の陰でヒソヒソと話す貴族たち。
「次の舞踏会で王妃を――」なんて物騒な単語が聞こえる。
(ふーん……で、何時に集まるって?)
俺は闇の中で尾を揺らし、柱の上から飛び降りた。
ドガァッ!!
「ぎゃあああああっ!? 猫が顔にぃぃぃぃ!!」
爪で顔をひっかき回し、髪を咥えて引っ張り回す。
にゃにゃにゃにゃにゃ!!
逃げようとしたやつは、尻尾で足を引っ掛けて転倒。
『(ふん、人間の騎士より、よっぽど身軽だな)』
その場に取り残された陰謀貴族たちは、恐怖で震えながら口を割った。
「ね、猫が喋ったんです! 『主君に牙を向ける者、我が爪で裁く』って!!」
「どこの猫だそれ!!」
――なお、俺は一言も喋ってない。
ただ、“そう聞こえるくらいの気迫”は出してた。
◆
事件は翌朝、早速起きた。
王妃様の紅茶に、こっそり粉が混入されている。
俺の前足で床を踏むたび、肉球が微かに震える。嗅覚センサーがピピッと反応する。
侍女の一人が、妙にキョロキョロしているのが視界の端に入った。
(おい、俺の肉球センサーが反応してるぞ……完全に怪しい)
王妃様がカップを手に取る瞬間――俺は全身の筋肉をしならせ、空中で跳躍し、爪を伸ばす。
――バシィィン!!
王妃様の手首を思い切りひっかいた。
紅茶は見事にカーペットに飛び散り、温かい液体が織物の繊維に吸い込まれていく。
侍女は顔を青ざめ、震えながら立ちすくむ。
「な、なぜその……そんなことを……」
――図星だろ、このポンコツスパイ。俺の目は鋭く光り、尻尾をピンと立てて威圧する。
王妃様はカップの香りを嗅ぎ、眉をひそめる。
「……変な匂い。まさか……毒?」
はい、正解。
俺、猫だけど嗅覚は前世より鋭い。人間時代より有能だ。
胸の毛を逆立て、背中の筋肉をピリッと緊張させる。
このくらいの仕事、猫の身でも完璧にこなせる。
それ以来、俺は王妃様の“非公式護衛”として、城内を自由に駆け回るようになった。
夜――
廊下の陰でヒソヒソと話す貴族たちの声。
「次の舞踏会で王妃を――」
聞くだけで血が騒ぐ。猫の体は軽く、音もなく闇に溶ける。
(ふーん……で、何時に集まるって?)
柱の影から飛び出し、廊下を駆け抜ける。
床板が軋み、壁に爪がかすかに引っかかる。
――ドガァッ!!
「ぎゃああああっ!? 猫が顔にぃぃぃぃ!!」
俺は容赦なく爪を使い、髪を咥えて引っ張る。
逃げようとした奴は、尾で足を引っ掛けて転倒。
息を切らして震える貴族たちの前に、俺は堂々と立つ。
(ふん、人間の騎士より、よっぽど身軽だな)
その場に取り残された陰謀貴族たちは、恐怖に顔を歪め、口を割る。
「ね、猫が喋ったんです! 『主君に牙を向ける者、我が爪で裁く』って!」
「どこの猫だそれ!!」
――なお、俺は一言も喋っていない。
ただ、威圧感と動作だけで“そう聞こえるくらいの気迫”は出していたのだ。
◆
それからというもの、城ではこう呼ばれるようになった。
『王妃の影。喋る守護猫』
俺――ニャルーク。元騎士、現・もふもふ警護特化型生物。
城の廊下には爪痕が残り、裏では悪女たちが次々と計画を潰される。
王妃様は日に日に穏やかに笑い、部屋には平和が戻った。
「ニャルーク、あなた……不思議な子ね。まるで昔のルークのよう」
『……まぁ、本人だからな』
「今日も一緒に寝ましょう?」
『ちょ、王妃様、それは騎士としての理性が……いや、今猫だったわ』
人間時代より報われている気がする。
守る対象の笑顔が、俺の心を温かく満たす。
そして、王妃暗殺を裏で糸引いていた“宰相夫人”の処刑日。
王妃様は玉座に座り、膝の上に俺を抱く。
「この猫が、真実を暴いたのですよ」
「にゃあ(証拠はそいつの机の中にあります)」
「……!? 本当に猫が喋ったぁぁぁ!!」
王宮騒然。王、卒倒。
俺は爪を整え、髭を撫でながら、膝の上で尻尾をゆっくり振る。
『やれやれ、やっと平和になったな』
「ふふっ、ありがとう、ニャルーク。あなたがいてくれて良かった」
ああ、今度こそ守れた。
爪も牙も、すべてこの人のために使える。
猫の人生も――いや、騎士魂を宿した猫人生も、悪くない。
そして、最後の心の声。
(ごはん、もうちょい高級にしてほしいんだが……)
そんな願いは、今日も届かない。
王妃様の優しい笑顔に見惚れつつ、俺はふかふかの毛に丸くなり、軽く喉を鳴らした。
『――王妃を守る猫、今日も任務完了。にゃ』




