第1話 死んでガチャって妹救う
円城 廻
異世界名:カイ
前世は宝くじで当てた資金を元手に投資で成功した富豪。総資産30億円。
逆恨みによって殺されたが、異常に高いLUK(幸運)値を見込まれ、ロトによって異世界に転生させられる。
クールで冷静な性格だが、病気の妹・美月のことになると感情的になる。
妹の治療費を払い続けるため、そして妹を守るために生き返ることが目的。
異世界では16歳の少年の姿で、黒髪のイケメン。
スキル【課金】により前世の資産をそのままGPとして使用可能。
初回ガチャでUR「鑑定眼」とSSR「身体強化」を獲得。
ロト
ギャンブル狂の神
金髪オールバック、サングラス、金ピカローブという成金趣味な外見の神。
ガチャが大好きで、自分の管理する世界をガチャ中心の世界にしてしまった。
しかし管理が面倒になって放置した結果、世界が荒廃し神力が低下。
神界ランキング最下位(100位)で、このままでは神権を剥奪される危機に。
カイの異常な幸運に目をつけ、地球の管理神に全財産を払って魂を譲り受けた。
カイに全BETし、神界トップを目指す。
必死でプライドはないが、どこか憎めない性格。
円城 美月
カイの妹
13歳の中学生。不治の病に侵されており、入院中。
毎月300万円の治療費が必要で、兄であるカイが支払っていた。
カイが死んだ後、治療費を払える人物がいないため、
カイが生き返る最大の動機となっている。
冷たい。
背中に走った衝撃の後、じわりと広がる熱さと、それとは対照的な体の冷たさ。視界が霞み、膝から力が抜けていく。
「お前のせいで……お前のせいで……!」
振り返ることもできない。誰かが背後で何かを呟いている。声の主の顔も、刺された理由も分からない。
ああ、そうか。俺は死ぬのか。
投資家たちとの飲み会帰り。タクシーを待っていただけなのに。宝くじで当てた金を元手に投資で成功して、まだ二十代で資産三十億。確かに恨まれても仕方ないのかもしれない。
だが――。
(美月……)
意識が薄れていく中、頭に浮かぶのは妹の顔だった。中学生の妹、円城美月。不治の病に侵され、俺が毎月払う治療費だけが彼女の命を繋いでいる。
俺が死んだら、誰が美月の治療費を払うんだ。両親はもういない。親戚だって頼れる奴なんていない。
(くそ……まだ死ねない……死んでたまるか……!)
しかし、体は言うことを聞かない。アスファルトに倒れ込み、視界が闇に包まれていく。
美月、ごめん。兄ちゃん、約束守れそうにない――。
◇
「おいおいおい、このLUK値は何だよ!?」
どこかで誰かが騒いでいる。
「人の10倍以上あるじゃねぇか!こんな数値、見たことねぇぞ!」
声の主は興奮を隠せない様子で続ける。
「しかも死んだばかりじゃねぇか。まだ魂も新鮮だ。こいつを俺の世界に転生させられれば……ククク、面白いことが起きそうだ」
何を言っているのか分からない。だが、その声には妙な説得力があった。
「よし決めた!俺はお前に全BETだ!」
◇
目を開けると、そこは見たこともない場所だった。
白い大理石のような素材でできた神殿。高い天井には複雑な紋様が描かれ、柱には見たこともない文字が刻まれている。そして正面には――。
「よぉ、目覚めたか」
玉座に座るのは、どう見ても二十代後半の男。金髪をオールバックにして、なぜかサングラスをかけている。服装は……なんというか、成金趣味丸出しの金ピカローブ。
「……あんた誰」
「俺か?俺は神だ。この世界を管理する偉大なる神、その名もロト様だ!」
ロト。妙にギャンブラーっぽい名前だな。
「で、俺は死んだと。ここは死後の世界?」
「いや、違う。俺の神殿だ。お前を転生させるために呼んだ」
転生。その単語で、なんとなく状況が理解できた。最近のライトノベルでよくある展開だ。まさか自分がその当事者になるとは。
「なんで俺なんだ」
「お前のLUK値――まあ、運のステータスだな。それが人の10倍以上ある。普通じゃ考えられない数値だ。宝くじ何回も当てたろ?それ、このステータスのおかげだ」
確かに俺は宝くじに三回当選している。それを元手に投資で成功したわけだが。
「それで?」
俺の冷めた反応に、ロトと名乗る神は苦笑いを浮かべた。
「話が早くて助かる。単刀直入に言うぜ」
男は玉座から立ち上がり、俺に近づいてきた。
「俺は神の中でも最下位なんだ。このままじゃ神の資格を剥奪される。だが、お前が俺の世界で活躍してくれれば、世界の評価が上がって俺の序列も上がる。お前の幸運は、その活躍を後押しする武器になるってわけだ」
「ふーん」
「……反応薄くね?」
「別に。で、俺のメリットは?」
ロトは真剣な表情になった。
「俺が神界でトップになれば、全知全能の力が手に入る。そうすれば――」
男は俺の目を真っ直ぐ見据えた。
「お前を生き返らせることもできるし、時間を巻き戻して死ぬ前に戻すこともできる」
その瞬間、俺の表情が変わったのを、ロトは見逃さなかった。
「……本当か」
「ああ、神に嘘はつけねぇ。妹さんのこと、心配だろ?」
どうして知っているのか聞く前に、相手は神だということを思い出した。
「円城美月、十三歳。不治の病で入院中。毎月の治療費は三百万。お前が死んだら、誰も払えない」
「……」
「だから協力しろ。俺を神界トップにしてくれれば、お前は妹の元に帰れる」
選択の余地はなかった。
「条件は?」
ロトはパチンと指を鳴らした。すると、空中にホログラムのような映像が浮かび上がる。
「神界には序列がある。管理する世界の『神力』によって決まるんだ。神力ってのは、その世界がどれだけ豊かで、住民がどれだけ幸せかで決まる」
映像にはランキングが表示されていた。1位から100位まで。そして最下位の100位に「ロト」の名前があった。
「俺はギャンブルが好きでな。特にガチャが大好きなんだ。だから自分の世界をガチャ中心の世界にした」
「ガチャ中心?」
「そう。住民は全員、ガチャでアイテムやスキルを手に入れて生活してる。通貨もガチャポイント、略してGPだ」
とんでもない世界を作ったものだ。
「最初は面白かったんだが、管理が面倒になって放置してたら、世界が荒れちまった。で、神力も下がって最下位に」
「自業自得だろ」
「うるせぇ!とにかく、お前には特別な力を与える」
ロトが手をかざすと、俺の体が光に包まれた。
「スキル『課金』。お前の前世の資産、三十億円をそのままGPとして使える。しかも俺からの特別ボーナスで、GP獲得量は五倍だ」
「三十億GP……」
「一般人が一生で稼ぐGPが一億五千万くらいだから、お前は人生二十回分の金を持ってることになる」
とんでもない額だ。
「さらに毎日ログインボーナスで百万GPもやる。どうだ、太っ腹だろ?」
「……必死だな」
「当たり前だ!俺はお前に全BETしたんだ!」
ロトは興奮気味に続ける。
「お前の魂を地球の管理神から譲ってもらうのに、俺の全財産つぎ込んだんだぞ!神界での貯金も、宝物も、なけなしの神力も全部だ!今の俺は文字通りスッカラカンなんだよ!」
「……本気か」
「だから頼む!お前しかいないんだ!」
プライドのかけらもなく必死に訴えてくる神。
(ギャンブルで身を持ち崩した男みたいだな)
「分かった。やるよ」
「マジか!?」
「ただし、約束は守れよ。俺を生き返らせて、妹の元に戻す」
「もちろんだ!」
ロトの説明が続く。
「世界に降りて、活躍しろ。モンスターを倒したり、街の問題を解決したり。住民が幸せになれば、それが信仰となって俺の神力になる」
「了解」
「準備はいいか?」
俺は頷いた。
「じゃあ行くぞ。頑張れよ、俺の全財産……じゃなくて、相棒!」
再び光に包まれ、意識が遠のいていく。
次に目を覚ました時、俺は全く別の場所にいた。
◇
鏡を見て、少し驚いた。
そこに映っていたのは、どう見ても高校生くらいの少年。黒髪で、顔立ちは……まあ、悪くない。前世の俺より少しイケメンかもしれない。
「若返ったか」
声も若い。体を動かしてみると、軽い。
部屋を見回す。六畳一間の簡素な部屋。ベッドと机、それに小さなクローゼットがあるだけ。窓から外を見ると、中世ヨーロッパ風の街並みが広がっていた。
『おーい、聞こえるか?』
突然頭の中に声が響いた。
「うるさい」
『冷たっ!俺だ俺。ロトだ。テレパシーで話しかけてる』
「で?」
『新しい体はどうだ?』
「まあまあかな。何歳設定?」
『十六歳だ。この世界では十五歳から成人扱いだから、もう大人だぞ』
「ふーん」
『とりあえず、この世界のことを知る必要があるな。お前の家から歩いて十分のところに、学院がある』
「学院?」
『日本で言う高校みたいなもんだ。そこで基礎知識を学んだり、将来の職業を決めたりする。入学手続きをしてこい』
「了解」
『あ、そうそう。お前の名前はカイな。円城廻から取った』
カイか。悪くない。
家を出て、街を歩く。石畳の道、レンガ造りの建物。ファンタジー世界そのものだ。
そして気づいたのは、人々の会話。
「今日のガチャ、Rが出たぜ!」
「マジかよ!俺なんて十連してもNしか出ない」
「GP貯めて来月の限定ガチャ狙うわ」
本当にガチャ中心の世界らしい。
学院に到着した。大きな門構えの立派な建物だ。受付らしき場所を探して中に入る。
「入学手続きをしたい」
受付の女性は俺を見て首を傾げた。
「保護者の方は?」
「一人で来た」
「……珍しいですね。入学には入学GPが十六万、月々の授業GPが三万必要ですが」
「問題ない」
俺は手元に出現したカードのようなものを確認する。そこには『300億GP』と表示されていた。
「支払う」
カードをかざすと、受付の女性の目が丸くなった。
「さ、三十億……!?」
しまった。全額表示されるのか。
「ど、どちらの貴族様でしょうか……?」
「いや、その……」
どう説明したものか。
「わかりました。詮索は致しません。明日からの編入ということでよろしいですか?」
「ああ」
手続きを済ませ、学院を後にする。
腹が鳴った。そういえば、転生してから何も食べていない。
近くの食堂に入る。メニューを見ると、それぞれにGPが書かれている。パン一個で200GP、定食で800GPといったところか。
「肉定食」
「800GPになります」
支払いを済ませ、食事を待つ。この世界でも、GPが全てなのか。
食事を終えて家に戻る。夕方になっていた。
『おい、何してる?』
またロトの声。
「何って?」
『ガチャ引かないのか?せっかく金があるんだから、引いてみろよ』
そうだった。この世界の基本はガチャ。
「どうやって」
『念じろ。ガチャ、開け!って』
言われた通りに念じると、目の前に半透明のウィンドウが開いた。
【ガチャメニュー】
・アイテムガチャ(1000GP)
・スキルガチャ(100000GP)
・カイ様限定!初回無料転生生活応援ガチャ※10連無料!
「……カイ様限定?」
『ああ、それな。俺からのささやかなプレゼントだ』
ロトが得意げに説明する。
『転生したばかりで右も左も分からねぇだろ?だから最初くらいは応援してやろうと思ってな。特別に用意した』
「俺専用か」
『当たり前だ!お前専用にカスタマイズしたガチャだぞ。他の奴らには見えもしねぇ』
『ちなみに通常は「生活用品フェス」とか「武器フェス」みたいなジャンル特化ガチャが不定期で開催される。まあ、そういうのは後々分かるさ』
「じゃあ、この応援ガチャを」
『それだ!引け引け!』
ロトがやたらと興奮している。
カイ様限定!初回無料転生生活応援ガチャを選択。10連無料の文字が光っている。
「回す」
ボタンを押すと、画面にカプセルが十個現れた。派手な演出と共に、一つずつ開いていく。
【N】体力回復薬(小)
【N】革の手袋
【R】風の指輪
【N】解毒薬
【SR】雷撃の書
【R】力の腕輪
【SR】魔力増幅の首飾り
【SSR】スキル:身体強化
【N】体力回復薬(小)
【UR】スキル:鑑定眼
最後の一つが虹色に光った。
『うおおおおお!UR出た!しかも鑑定眼!』
ロトが発狂レベルで大騒ぎしている。
「これ、そんなにすごいの?」
『すごいも何も、他人のステータスやアイテムの詳細が見られる超便利スキルだ!しかもURの確率は百万分の一だぞ!初回で引くとか、お前の運マジでヤベェ!』
なるほど、俺の異常な運が早速仕事をしたらしい。
「あと、この身体強化ってスキルも」
『SSRスキルじゃねぇか!一時的に身体能力を3倍にできる汎用スキルだ。戦闘でも日常でも使える優れモノだぞ!』
「使い方は?」
『スキルウィンドウを開いて、装備しろ』
言われた通りにすると、スキル欄に鑑定眼と身体強化が追加された。これで俺もスキル持ちか。しかも2つも。
窓の外を見ると、もう暗くなっていた。
「今日は寝る」
『おう、明日から頑張れよ。期待してるぜ、相棒!』
ベッドに横になる。
異世界での新しい生活。ロトとの奇妙な契約。そして、三十億GPという途方もない資産。
でも、俺の目的は一つだ。
美月、待ってろ。
この世界で成り上がって、神を頂点に押し上げて、そして――。
時間を巻き戻して、生き返る。そして今度こそ、お前を守ってみせる。