表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/5

第1話 死んでガチャって妹救う

円城えんじょう かい

異世界名:カイ

前世は宝くじで当てた資金を元手に投資で成功した富豪。総資産30億円。

逆恨みによって殺されたが、異常に高いLUK(幸運)値を見込まれ、ロトによって異世界に転生させられる。

クールで冷静な性格だが、病気の妹・美月のことになると感情的になる。

妹の治療費を払い続けるため、そして妹を守るために生き返ることが目的。

異世界では16歳の少年の姿で、黒髪のイケメン。

スキル【課金】により前世の資産をそのままGPとして使用可能。

初回ガチャでUR「鑑定眼アナライズ・アイ」とSSR「身体強化ブースト」を獲得。



ロト

ギャンブル狂の神

金髪オールバック、サングラス、金ピカローブという成金趣味な外見の神。

ガチャが大好きで、自分の管理する世界をガチャ中心の世界にしてしまった。

しかし管理が面倒になって放置した結果、世界が荒廃し神力が低下。

神界ランキング最下位(100位)で、このままでは神権を剥奪される危機に。

カイの異常な幸運に目をつけ、地球の管理神に全財産を払って魂を譲り受けた。

カイに全BETし、神界トップを目指す。

必死でプライドはないが、どこか憎めない性格。



円城えんじょう 美月みつき

カイの妹

13歳の中学生。不治の病に侵されており、入院中。

毎月300万円の治療費が必要で、兄であるカイが支払っていた。

カイが死んだ後、治療費を払える人物がいないため、

カイが生き返る最大の動機となっている。

 冷たい。


 背中に走った衝撃の後、じわりと広がる熱さと、それとは対照的な体の冷たさ。視界が霞み、膝から力が抜けていく。


「お前のせいで……お前のせいで……!」


 振り返ることもできない。誰かが背後で何かを呟いている。声の主の顔も、刺された理由も分からない。


 ああ、そうか。俺は死ぬのか。


 投資家たちとの飲み会帰り。タクシーを待っていただけなのに。宝くじで当てた金を元手に投資で成功して、まだ二十代で資産三十億。確かに恨まれても仕方ないのかもしれない。


 だが――。


(美月……)


 意識が薄れていく中、頭に浮かぶのは妹の顔だった。中学生の妹、円城美月。不治の病に侵され、俺が毎月払う治療費だけが彼女の命を繋いでいる。


 俺が死んだら、誰が美月の治療費を払うんだ。両親はもういない。親戚だって頼れる奴なんていない。


(くそ……まだ死ねない……死んでたまるか……!)


 しかし、体は言うことを聞かない。アスファルトに倒れ込み、視界が闇に包まれていく。


 美月、ごめん。兄ちゃん、約束守れそうにない――。


 ◇


「おいおいおい、このLUK値は何だよ!?」


 どこかで誰かが騒いでいる。


「人の10倍以上あるじゃねぇか!こんな数値、見たことねぇぞ!」


 声の主は興奮を隠せない様子で続ける。


「しかも死んだばかりじゃねぇか。まだ魂も新鮮だ。こいつを俺の世界に転生させられれば……ククク、面白いことが起きそうだ」


 何を言っているのか分からない。だが、その声には妙な説得力があった。


「よし決めた!俺はお前に全BETだ!」


 ◇


 目を開けると、そこは見たこともない場所だった。


 白い大理石のような素材でできた神殿。高い天井には複雑な紋様が描かれ、柱には見たこともない文字が刻まれている。そして正面には――。


「よぉ、目覚めたか」


 玉座に座るのは、どう見ても二十代後半の男。金髪をオールバックにして、なぜかサングラスをかけている。服装は……なんというか、成金趣味丸出しの金ピカローブ。


「……あんた誰」


「俺か?俺は神だ。この世界を管理する偉大なる神、その名もロト様だ!」


 ロト。妙にギャンブラーっぽい名前だな。


「で、俺は死んだと。ここは死後の世界?」


「いや、違う。俺の神殿だ。お前を転生させるために呼んだ」


 転生。その単語で、なんとなく状況が理解できた。最近のライトノベルでよくある展開だ。まさか自分がその当事者になるとは。


「なんで俺なんだ」


「お前のLUK値――まあ、運のステータスだな。それが人の10倍以上ある。普通じゃ考えられない数値だ。宝くじ何回も当てたろ?それ、このステータスのおかげだ」


 確かに俺は宝くじに三回当選している。それを元手に投資で成功したわけだが。


「それで?」


 俺の冷めた反応に、ロトと名乗る神は苦笑いを浮かべた。


「話が早くて助かる。単刀直入に言うぜ」


 男は玉座から立ち上がり、俺に近づいてきた。


「俺は神の中でも最下位なんだ。このままじゃ神の資格を剥奪される。だが、お前が俺の世界で活躍してくれれば、世界の評価が上がって俺の序列も上がる。お前の幸運は、その活躍を後押しする武器になるってわけだ」


「ふーん」


「……反応薄くね?」


「別に。で、俺のメリットは?」


 ロトは真剣な表情になった。


「俺が神界でトップになれば、全知全能の力が手に入る。そうすれば――」


 男は俺の目を真っ直ぐ見据えた。


「お前を生き返らせることもできるし、時間を巻き戻して死ぬ前に戻すこともできる」


 その瞬間、俺の表情が変わったのを、ロトは見逃さなかった。


「……本当か」


「ああ、神に嘘はつけねぇ。妹さんのこと、心配だろ?」


 どうして知っているのか聞く前に、相手は神だということを思い出した。


「円城美月、十三歳。不治の病で入院中。毎月の治療費は三百万。お前が死んだら、誰も払えない」


「……」


「だから協力しろ。俺を神界トップにしてくれれば、お前は妹の元に帰れる」


 選択の余地はなかった。


「条件は?」


 ロトはパチンと指を鳴らした。すると、空中にホログラムのような映像が浮かび上がる。


「神界には序列がある。管理する世界の『神力』によって決まるんだ。神力ってのは、その世界がどれだけ豊かで、住民がどれだけ幸せかで決まる」


 映像にはランキングが表示されていた。1位から100位まで。そして最下位の100位に「ロト」の名前があった。


「俺はギャンブルが好きでな。特にガチャが大好きなんだ。だから自分の世界をガチャ中心の世界にした」


「ガチャ中心?」


「そう。住民は全員、ガチャでアイテムやスキルを手に入れて生活してる。通貨もガチャポイント、略してGPだ」


 とんでもない世界を作ったものだ。


「最初は面白かったんだが、管理が面倒になって放置してたら、世界が荒れちまった。で、神力も下がって最下位に」


「自業自得だろ」


「うるせぇ!とにかく、お前には特別な力を与える」


 ロトが手をかざすと、俺の体が光に包まれた。


「スキル『課金』。お前の前世の資産、三十億円をそのままGPとして使える。しかも俺からの特別ボーナスで、GP獲得量は五倍だ」


「三十億GP……」


「一般人が一生で稼ぐGPが一億五千万くらいだから、お前は人生二十回分の金を持ってることになる」


 とんでもない額だ。


「さらに毎日ログインボーナスで百万GPもやる。どうだ、太っ腹だろ?」


「……必死だな」


「当たり前だ!俺はお前に全BETしたんだ!」


 ロトは興奮気味に続ける。


「お前の魂を地球の管理神から譲ってもらうのに、俺の全財産つぎ込んだんだぞ!神界での貯金も、宝物も、なけなしの神力も全部だ!今の俺は文字通りスッカラカンなんだよ!」


「……本気か」


「だから頼む!お前しかいないんだ!」


 プライドのかけらもなく必死に訴えてくる神。


(ギャンブルで身を持ち崩した男みたいだな)


「分かった。やるよ」


「マジか!?」


「ただし、約束は守れよ。俺を生き返らせて、妹の元に戻す」


「もちろんだ!」


 ロトの説明が続く。


「世界に降りて、活躍しろ。モンスターを倒したり、街の問題を解決したり。住民が幸せになれば、それが信仰となって俺の神力になる」


「了解」


「準備はいいか?」


 俺は頷いた。


「じゃあ行くぞ。頑張れよ、俺の全財産……じゃなくて、相棒!」


 再び光に包まれ、意識が遠のいていく。


 次に目を覚ました時、俺は全く別の場所にいた。


 ◇


 鏡を見て、少し驚いた。


 そこに映っていたのは、どう見ても高校生くらいの少年。黒髪で、顔立ちは……まあ、悪くない。前世の俺より少しイケメンかもしれない。


「若返ったか」


 声も若い。体を動かしてみると、軽い。


 部屋を見回す。六畳一間の簡素な部屋。ベッドと机、それに小さなクローゼットがあるだけ。窓から外を見ると、中世ヨーロッパ風の街並みが広がっていた。


『おーい、聞こえるか?』


 突然頭の中に声が響いた。


「うるさい」


『冷たっ!俺だ俺。ロトだ。テレパシーで話しかけてる』


「で?」


『新しい体はどうだ?』


「まあまあかな。何歳設定?」


『十六歳だ。この世界では十五歳から成人扱いだから、もう大人だぞ』


「ふーん」


『とりあえず、この世界のことを知る必要があるな。お前の家から歩いて十分のところに、学院がある』


「学院?」


『日本で言う高校みたいなもんだ。そこで基礎知識を学んだり、将来の職業を決めたりする。入学手続きをしてこい』


「了解」


『あ、そうそう。お前の名前はカイな。円城廻から取った』


 カイか。悪くない。


 家を出て、街を歩く。石畳の道、レンガ造りの建物。ファンタジー世界そのものだ。


 そして気づいたのは、人々の会話。


「今日のガチャ、Rが出たぜ!」

「マジかよ!俺なんて十連してもNしか出ない」

「GP貯めて来月の限定ガチャ狙うわ」


 本当にガチャ中心の世界らしい。


 学院に到着した。大きな門構えの立派な建物だ。受付らしき場所を探して中に入る。


「入学手続きをしたい」


 受付の女性は俺を見て首を傾げた。


「保護者の方は?」


「一人で来た」


「……珍しいですね。入学には入学GPが十六万、月々の授業GPが三万必要ですが」


「問題ない」


 俺は手元に出現したカードのようなものを確認する。そこには『300億GP』と表示されていた。


「支払う」


 カードをかざすと、受付の女性の目が丸くなった。


「さ、三十億……!?」


 しまった。全額表示されるのか。


「ど、どちらの貴族様でしょうか……?」


「いや、その……」


 どう説明したものか。


「わかりました。詮索は致しません。明日からの編入ということでよろしいですか?」


「ああ」


 手続きを済ませ、学院を後にする。


 腹が鳴った。そういえば、転生してから何も食べていない。


 近くの食堂に入る。メニューを見ると、それぞれにGPが書かれている。パン一個で200GP、定食で800GPといったところか。


「肉定食」


「800GPになります」


 支払いを済ませ、食事を待つ。この世界でも、GPが全てなのか。


 食事を終えて家に戻る。夕方になっていた。


『おい、何してる?』


 またロトの声。


「何って?」


『ガチャ引かないのか?せっかく金があるんだから、引いてみろよ』


 そうだった。この世界の基本はガチャ。


「どうやって」


『念じろ。ガチャ、開け!って』


 言われた通りに念じると、目の前に半透明のウィンドウが開いた。


【ガチャメニュー】

 ・アイテムガチャ(1000GP)

 ・スキルガチャ(100000GP)

 ・カイ様限定!初回無料転生生活応援ガチャ※10連無料!


「……カイ様限定?」


『ああ、それな。俺からのささやかなプレゼントだ』


 ロトが得意げに説明する。


『転生したばかりで右も左も分からねぇだろ?だから最初くらいは応援してやろうと思ってな。特別に用意した』


「俺専用か」


『当たり前だ!お前専用にカスタマイズしたガチャだぞ。他の奴らには見えもしねぇ』


『ちなみに通常は「生活用品フェス」とか「武器フェス」みたいなジャンル特化ガチャが不定期で開催される。まあ、そういうのは後々分かるさ』


「じゃあ、この応援ガチャを」


『それだ!引け引け!』


 ロトがやたらと興奮している。


 カイ様限定!初回無料転生生活応援ガチャを選択。10連無料の文字が光っている。


「回す」


 ボタンを押すと、画面にカプセルが十個現れた。派手な演出と共に、一つずつ開いていく。


【N】体力回復薬(小)

【N】革の手袋

【R】風の指輪

【N】解毒薬

【SR】雷撃の書

【R】力の腕輪

【SR】魔力増幅の首飾り

【SSR】スキル:身体強化ブースト

【N】体力回復薬(小)

【UR】スキル:鑑定眼アナライズ・アイ


 最後の一つが虹色に光った。


『うおおおおお!UR出た!しかも鑑定眼アナライズ・アイ!』


 ロトが発狂レベルで大騒ぎしている。


「これ、そんなにすごいの?」


『すごいも何も、他人のステータスやアイテムの詳細が見られる超便利スキルだ!しかもURの確率は百万分の一だぞ!初回で引くとか、お前の運マジでヤベェ!』


 なるほど、俺の異常な運が早速仕事をしたらしい。


「あと、この身体強化ブーストってスキルも」


『SSRスキルじゃねぇか!一時的に身体能力を3倍にできる汎用スキルだ。戦闘でも日常でも使える優れモノだぞ!』


「使い方は?」


『スキルウィンドウを開いて、装備しろ』


 言われた通りにすると、スキル欄に鑑定眼アナライズ・アイ身体強化ブーストが追加された。これで俺もスキル持ちか。しかも2つも。


 窓の外を見ると、もう暗くなっていた。


「今日は寝る」


『おう、明日から頑張れよ。期待してるぜ、相棒!』


 ベッドに横になる。


 異世界での新しい生活。ロトとの奇妙な契約。そして、三十億GPという途方もない資産。


 でも、俺の目的は一つだ。


 美月、待ってろ。


 この世界で成り上がって、神を頂点に押し上げて、そして――。


 時間を巻き戻して、生き返る。そして今度こそ、お前を守ってみせる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ