5.縺れ
朝の準備をしにビビがやって来た。
「ビビ、何かあったのか」
ビビは少し驚いた様子だったが、すぐにいつもの笑顔でこちらを振り向いた。ビビは、俺が幼い頃から従事している執事のような者で、王宮内で共に過ごした時間は誰よりも長い。最近はすっかり白髪も目立ち始めた。
「何もございませんよ、ロウ様」
「何かあったのだろう、なぜ隠すのだ。じいの命令か?」
シュウの言葉を聞き王宮を歩いたが確かに様子がおかしい。皆が俺の様子を伺っているようで、何人かが小走りで誰かに何かを報告しに行ってるのも確認した。
絶対に何かが起きている。
部屋を出て廊下を歩いていると、家来に何やら指示を出すじいを見つける。
何やら焦っている様子だ。
「警備を集中しろ。絶対に破られるな、いいな?」
「じい、どうかしたんですか?」
じいは驚いた素振りでこちらを見た。
「なぜロウがここにおるのだ。やるべきことがあるだろう。それにもう王になったのだから“じい”と呼ぶのはよせと何度も言っているはずじゃ」
「わかったよ、じい。王宮が騒がしい訳を教えてください」
「いつもと変わらぬ」
「何か悪き事態が起きたのでは?」
「全く、お前って奴は・・・。何もないと言ったら何もないのだ。仕事を大人しくやってこい」
この反応は、絶対に何かある。
じいと別れ、自室に戻った。窓を開け、壁を3回叩いた。するとすぐにシュウが鷹の姿で飛んでくる。
「じいは何もないと言っていたが、絶対に何かを隠している」
「お前に隠す理由はなんだ?」
「何か俺に知られたくない事実があるのかもしれない」
シュウは人の姿へ戻り、真剣な面持ちでこちらを見た。
「ロウ、お前に残された選択は2つだ。イナヤ王、じゃなくてイナヤ様はお前のことをとても大切に思っておられる。だから隠したい事実というのはもしかしたら、お前が知ったら傷つくようなことなのかもしれない。それを踏まえた上で、イナヤ様のご意向通り、知らないふりをするのか。はたまた・・・何としてでも真実を突き止めるのか」
さぁ、どっちだ?とシュウが問いかける。
そんなの決まっている。昔から俺たちは、「この建物に入るな」と言われれば進んで入ったし、「部屋を抜け出すな」と言われても監視を掻い潜って王宮を抜け出して遊んだ。好奇心を抑えることができない性分なのだ。
「突き止めるぞ、真実を」
シュウはニヤリと笑う。
「そう来なくっちゃ」
この時はまだ、分かっていなかったのだ。
これから起こる、凄惨な事件を。
知ってはいけない秘密を知った、どうしようもない悲しみを。