25.月夜の再会
王宮は静まり返っている。周りの市場は賑わっているのに、王宮の中からまるで人の気配がしないのが気味が悪い。どうやら人間の王族たちはあまり活動的ではないようだ。
「何をしているんです?」
すっかり日が落ちていたので顔は見えない。しかし人間に比べたら暗闇にはずっと強い。ゆっくりと振り返って目を凝らすとそこには切れ長の目の女性が立っていた。背が高く細身の彼女は、まるで幼い少年のような儚さを纏っている。
「・・・王宮の者に用があるのです」
俺の言葉を聞くと一変、少し下がって腰を下げる。服で隠しているが刀を持っているのは一目瞭然だった。たった少しの動きで相当な腕だと分かる。
「用件を言いなさい。基本、ここは庶民は立ち入り禁止です」
冷たい声が響く。予想していた言葉だが、ここで引き下がるほどの猶予はない。
「伝言を預かってはくれませんか?その方に言い伝えてくださればきっと私を通してくれるはずです。許可が出るまで絶対に門をくぐらないと約束しますから」
「伝言・・・?一体誰にですか」
「夏野彰さんに。『あなたの愛した女性の親族が来た』と」
暗闇の中でも女性の顔が変わるのがわかる。
「嘘をつくな。あのお方の親族は王族しかいない。母方の親族は皆亡くなった」
「美桜さんのことをご存知なのですね。なら話は早い。夏野さんに伝言をお願いします」
「美桜さんだと?庶民が舐めた口を聞くな」
女性の顔はどんどん強張っていく。
「一体何者だ?」
少しの静寂の後、瞬く間に剣が降りかかる。慌てて避けると、被っていたフードが外れた。女性の切れ長の目が大きく見開かれたと思うと、頭を地面に付けてひれ伏した。
「ご無礼をお許しください」
なんて忠実な家来だろう。会ったこともない美桜に想いを馳せる。たくさんの者に愛された王女だった、彼女を。
「顔を上げてください」
「大変申し訳ありません。まさか美桜様の本当のご親族の方だとは思わず・・・」
「突然の訪問なので怪しまれて当然です。それよりも見事な剣術に感心しました。お名前は?」
「月と申します」
糸の話を思い出す。美桜に勧められて、自分が思う1番美しい物を名前にしたと。この者は月を選んだのか。
「夏野彰を呼びに行って参ります」
慌てて駆けていく月を目で追う。
ほどなくして夏野はやってきた。
長身の男は痩せていて、表情に生気がない。目の下の濃い隈がここでの生活の苦労を感じさせた。
「あぁ・・・」
夏野は俺を見て崩れるように手を地面につけて泣いた。月も涙ぐんでいるように見える。
「初めまして、ではないですね。命を救ってくれたこと、感謝しています」
夏野は泣きながら首を横に振る。今にも折れてしまいそうなほど腕が細かった。涙でぐちゃぐちゃの夏野に顔を覗き込まれる。
「初めて会った時は意識を失っていたから気づかなかったけど、君の眼は美桜そのものだ」
「真っ白な肌も・・・美桜様・・・」
2人の反応でやはり俺の予想は正しかったと感じる。美桜はゼファの娘で間違いない。
「2人に協力を願いたい」
「なんですか?」
「私の叔父、つまり美桜の父が、王様の命を狙っている」
月明かりに照らされた、再会を喜ぶかのような2人の泣き顔を、俺は忘れることはないだろう。




