24.出陣
「それで、どうなったの?」
「親父は捕まって、牢屋に入れられた。収監されて数年して病気で死んだ。畑は俺が継いで、今まで何とか生きてきたよ」
秀太、いやシュウと呼ぶべきか。
シュウの話に胸が詰まる。
自分の過去を思い出す。
人の物を盗んで飢えを凌いだ地獄のような日々だった。
「糸さん、幻滅したでしょ?」
初めて見るシュウの不安そうな顔に、迷わず首を振る。
「幻滅してないわ。家族を助けるために王宮に飛んで行くなんてすごい勇気よ。尊敬する」
「・・・ロウは俺にとっての初めての味方だったんだ」
あなたも、味方を探して生きてきたんだね。
「それからすっかり仲良くなって、毎日のように王宮に押しかけてた」
「飛べるんだもんね。入り放題だ」
「そうそう。王宮に通ったおかげで変獣が上達したよ、ハハ」
思わず笑顔になる。だけどその後に襲ってくるのはやはり、どうしようもない悲しみだった。
先ほどの出来事を思い出す。人間の王様を助けるかどうかで2人は意見が割れて、シュウが”ロウのお祖父様は無事で命を受けてここに来た“と嘘をついていたことがバレた。ロウは”二度と俺の友と名乗るな“と言ってこの家を出て行ったのだ。
「ロウを騙したかったわけじゃない」
小さな声が聞こえる。悲しみのこもった声だった。
「あの日、助けてもらった日から、心に決めたんだ。次は俺が助けるって。何の取り柄もない俺だけど、ロウを絶対守るって。あいつは獣王に相応しい。絶対に、死なせてはダメだって」
「・・・一之助もわかってるはずよ」
シュウの言うことはよく理解できた。私も美桜を絶対に守ると誓ったけれど結局、守れなかった。一生後悔し続けるだろう。
「糸さん、これ」
シュウは立ち上がり、部屋の物置から何かを取り出す。
「首飾り・・・?」
取り出されたのは見覚えのない青い首飾りだった。
「これ、ロウが糸さんのために買ったんだよ。まだ俺が来る前、金がなくて、自分がつけてる王族の首飾りと市場で交換したんだ。気恥ずかしくてまだ渡せてないって言ってた」
夜空のように美しい首飾りだった。
「ロウはそういう奴なんだよ。お世話になった人に贈り物をする為に平気で王族の首飾りを外すような男なんだ。正義感も強いし、驕らない。人を見下さないし、口数は少ないけど思いやりはある。まさに最高の王さ。だからこそ、危ないんだ」
シュウの言うことを理解した。”ここにいる限りどんな危険からもお前を守ると約束する“と言ってくれたあの日の彼の目を思い出す。彼ならきっとどんな時も守ってくれる。そう信じてしまいそうな強い目だった。
「ロウは自分の命を犠牲にしてまで誰かを守る奴だ。ならロウのことは俺が守らなきゃ。あいつを守る為に俺は生まれてきたんだから」
「・・・それは違う」
え?とシュウの低い声が響く。
「誰かを守る為に生まれてきた人などいない。みんな幸せになる為に生まれてきたんだ。だから、自分の人生を生きろ。ちょっとの幸せじゃなく、思い切り幸せになれ」
「・・・ロウがそう言ったんだな」
シュウの言葉に頷く。
「美桜を守る為に私は生まれたはずなのに、助けられなかった。そう言った日に一之助に掛けられた言葉よ。正直、この言葉をまだ私は信じることはできないわ。生きる価値もないような日々を過ごしていたら運命に導かれるように美桜に救われた。彼女を助ける以外に私の生きる意味はないと本気で思ったの。だけど、一之助の言葉が間違いじゃないんだって思いたい」
きっと私はシュウと同じだ。
同じすぎて、きっとここで2人でいると間違いを犯す。シュウが私と同じなら、きっと彼も目的の為なら手段を選ばない人のはずだ。私もずっと、そうやって生きてきたから。
「・・・行きましょう。ロウはきっと止めても王様を守る。なら私たちにできることは、それを止めることじゃなくて、成功させて、死なないようにすることなんじゃない?」
シュウはすっかり赤くなった目元を拭って立ち上がる。
今度こそ、守れるように。
私の使命を、果たせるように。
「糸さんのことは好きだけど、味方だとは思ってないですよ」
シュウの言葉に笑みが溢れる。
「知ってる。似たもの同士、仲良くやりましょう」
私たちはこの世で生きている唯一の味方を助けに、住処を出た。




