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獣王  作者: 川瀬ハンナ
2/25

2.起源

大成5年


街は大騒ぎだった。第38代獣王・イナヤ王に子供が産まれるというのだ。

つまりはイナヤ王の更なる後継となる、将来この国の王となるかもしれない子が産まれるということ。


予定だと少し後だったのだが、つい先ほどイナヤ王のお妃様であるツイ様が産気づかれたとの知らせが届いた。


街は驚きと喜びに満ちている。


イナヤ王のお子様の誕生というこの国で最も祝いに溢れる出来事に間に合うよう、人々は一斉に準備に乗り出した。

街では人々が動物の姿で荷物を運んだり走り回ったりしている。


(皆浮き足立っているな...)


苦笑い混じりに彼らを見るが、それ程喜ばしいことだから仕方ないと感じる。イナヤ王が第37代獣王の1人息子として20年以上前にお生まれになってから、この国に後継は誕生していなかった。


獣王とはこの国、獣国の最も偉大なたった1人の王である。初代獣王はこの国を作った信丸様であり、第38代イナヤ王まで獣王は皆オオカミへと変獣(人から動物の姿へ変身すること)してきた。


変獣する対象の動物は血筋が色濃く反映されるため、父が馬、母が鳥へと変獣するなら、子供は必ず馬か鳥へと変獣する。時々隔世遺伝するケースもあるが、ほとんどが男なら父、女なら母に倣って変獣するのだという認識が長い歴史の中で当然のように染み付いていた。


獣王様の家系もその認識通りに、後継となる男の子は皆オオカミに、女子はお妃様に似た美しい動物へ変獣してきた。

イナヤ王もそれは立派な美しい赤い眼を持つオオカミへと変獣する。

今回お産まれになる子も、きっと美しいに違いない。人離れしたその美しさに皆己慄き尊敬の眼差しを向けるのだ。


「時はまもなくだ!皆集まれ!」


村人たちが大騒ぎで街を駆け抜ける。その合図に、人々は一斉に王宮へと走り出した。

王宮に着くと、大勢が入り口の前で佇んでいる。その1人に加わり、顔を見上げると大きな窓が開いた。

お産まれになった子を獣王様が掲げる儀式なのだそうだ。

獣人は皆変獣した姿で誕生する。時が経つと人へと姿を変え、歳をとるにつれ変獣はスムーズで安定したものとなる。

つまり、此度のお子様の場合、男子なら狼、女子ならお妃様と同じ白鳥の姿をした赤ん坊が出てくるということだ。


イナヤ王の初子、そして20年以上人々が誕生するのを待っている後継者。


国民の期待は満ちていて、皆固唾を飲んで見守っていた。


狼の子が、現れますようにと。



イナヤ王が現れ人々の歓声が響く。

次の瞬間天高く掲げられた産まれたての赤ん坊の姿に、一同は呆然とした。


「人間・・・」


誰かが呟くのが聞こえる。

現れたのは美しい狼でも白鳥でもなく、純粋無垢な“人”の姿をした赤ん坊であったのだ。眼は赤く光り、その美しさはイナヤ王に似通っているが、変獣した姿で産まれなかった獣人を見るのは初めてで、ましてやそれが獣王様の御子となると、人々は驚きと混乱で言葉を見失った。

しばらく沈黙が続き、とうとうイナヤ王が口を開いた。


「我が息子、ゼファだ」


息子...!と人々は喜びに溢れる。後継者がようやく産まれたのだ。産まれた姿がどんな風かなんてこの際関係ない、男であるならきっとこれから立派なオオカミへと姿を変えるに違いないと人々は信じて疑わず、手放しにこの国の未来は明るいと大いに喜び、拍手喝采で溢れた。



ところがゼファ様は幾つになっても狼へと姿を変えることはなく、人々が焦燥に駆られる中で、彼が5歳の頃、次男のカイト様がお産まれになった。




それはそれは美しい、狼の姿で。






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