黒い薔薇と観覧車、一周するまで十五分。
俺の同い年の彼女は、魅力的な人だ。
自分がその魅力的な人の意中の相手、という立場にいるにも関わらず言わせてもらおう。
髪型はハンサムショートで、まつ毛が長い。
リップは濃い色が似合い、身に纏うものは黒が似合う。
チャームポイントは、右目の下にある泣きぼくろだ。
それらが相まって生まれた引き寄せられるような彼女の瞳には、目を合わせる度に魅了される。
そんな彼女と出会ったのは、大学に入って三日ほど経った日だった。
すれ違う一瞬だったが、俺はその一瞬で彼女に惚れた。
所謂、一目惚れというもの。
俺は今まで向こうから寄ってくることが多く、こういう時に自分から行くことは無かった。
しかし、今を逃せば、いくら同じ大学とは言えもう会えないかもしれないと、急いで振り返り「あのっ」と声をかけた。
そしてその次の瞬間には付き合ってくださいと口走っており、しまったと思ったが、彼女はふわっと黒いバラを咲かせるように笑い、「私でよければ」と口にした。
前置きが長くなってしまったが、それから半年が経った今、未だ彼女と夢のような日々を送っている。
そして今日は、彼女にそぐわないのは重々承知しているが、遊園地にやって来ている。
なぜなら彼女自身が、観覧車に乗りたいと言うからだ。
遊園地に来て真っ先に観覧車に乗る。
彼女は何も話さず、段々と離れていく地面を眺めている。
かと思えばこちらを見て、ふふっ、と笑うので。
なぜ笑ったのか分からないがとりあえず、にこ、と笑みを返す。
すると彼女の顔が近づいてきて、その空間に綺麗なリップ音が響いた。
「っ……、?あの、蓮さん?」
「ん?」
「いや、ん?じゃなくて……」
付き合って半年になるが、蓮は何を考えているのか全く読めない。
しかし今まで、こんなにも不意にキスをされることは無かった。
自分の顔が赤くなっていくのが分かる。
俺が言葉に詰まっていると、蓮が言葉を発する。
「……なんで私が観覧車に乗りたいって言ったか、分かる?」
「……いや」
「私、広い景色を見るのが好きなの」
あ、なるほどな、と納得した次の瞬間。
蓮は何か含みのある笑みを浮かべて。
「だからその理想の場所で、聖にイジワルしたくなっちゃった」
薄々、気がついていた。
蓮はSだと。
そして蓮が迫ってくる。
一周するまでの、長い長い十五分が始まる。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
聖は、蓮の罠にハマってしまいましたね……