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第1話 黄金の眼鏡の選定

 総タイトルであり、第三話に当たる話のサブタイトルの『黄金の眼鏡と苺姫』は『眼鏡祭(公開日は2006年8月1日)』に投稿した作品です。

 それに前日譚と後日譚をつけて5話(原稿用紙換算で59枚)構成に仕上げました。

 《黄金(きん)の眼鏡》は、血筋にとらわれることはない。

 国王が血筋によって縛られるのとは、対照的だった。

 どの家の子どもでも《黄金の眼鏡》の称号を得ることができた。

 まだ幼い子どもであれば、魔法使いのように何でも知る魔法の眼鏡になりたがった。

 ある程度、物がわかるようになれば、立身出世に夢を見て、国王を助言できる国一番の学者になりたがった。

 誰もが憧れる《黄金の眼鏡》。

 それの選定は、百の秘密の一つ。

 《黄金の眼鏡》しか知らなかった。




 国王陛下の御意見番、国務大臣フィナンシュ卿には、目に入れても痛くない子どもがいた。

 子宝を諦めかけたころにできた子どもであったから、その可愛がりようは宮廷の誰もが知っていた。

 名をクランブル。

 アップルグリーンの瞳が特徴的な男の子だった。

 その子がそろそろ四才を迎える頃のこと。

 大きな病気一つすることなく、健やかに育つ姿に、時の国王も好ましく思っていた。

 第一王子のパルフェと一つ違い。

 成人した暁には、頼もしい家臣となるだろう。

 やがては、父のように国務大臣の一人となり、国政を担っていくだろう。

 王都の人々が噂しあう以上に、クランブルは賢かった。

 まるで砂が水を吸っていくように。

 どんどん知識を吸収していく姿に、学者たちは嘆いた。

 何故、代々国務大臣を勤め上げる家に生まれたのだろうか。

 自由に言葉を操り、すらすらと小難しい単語を書き記す三つの少年に、そっとためいきをついた。


 それは、まるで何かの予言のように。


 秋の第二旬に、第一王女が誕生した。

 王家の慣習に従って、王女の名前は黙される。

 名づけに儀式に立ち会った者たちは、その音とつづりを知っていたが口にすることは出来なかった。

 本当に、呼ぶことが出来ないのだ。

 慣習に逆らって、名を呼ぼうとしても、舌が凍ってしまったように動かなくなる。

 フィナンシュも、そうであった。

 勤勉な大臣は我が家に帰ると、息子が眠る寝室に向かった。

 遅い夕食をとる前に、我が子の寝顔を見るのが、ここ数年の習慣だった。

 この日も静かに、ドアを開ける。

 大臣は、アップルグリーンの瞳と出会った。

 ぱっちりと目を開けて、息子が部屋の中央で立っていた。

 これ以上ないくらい真剣な表情で、父を見上げていた。

「どうしたんだい?」

 フィナンシュは絨毯に膝をつき、息子の細い腕を優しくつかむ。

 千年も生きた老人のように、奇妙な目をしていた。

「第一王女様のお名前は、フレジェとおっしゃるのでしょう?」

 クランブルは言った。

 呼ぶことのできるのは、名づけた親とその伴侶だけ。

 そう神が定めた法。

 雷に打たれたように、フィナンシュはその場に縛りつけられた。

「どこでそれを?」

 大臣は、やっとの思いで尋ねる。

「書いてありました」

 幼子は言った。

 子煩悩な父親の耳の奥で、その言葉はこだまする。

 理解しがたいことが目の前に起きた。

「大きな辞書に書いてあります。

 それを読みました」

 クランブルはにっこりと笑った。

 ようやく父は理解した。

 息子は《黄金の眼鏡》だ、と。



 翌日。

 クランブルは、宮廷に招かれる。

 国務大臣の息子としてではなく《黄金の眼鏡》として。

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