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第7話 トイレには一人で行け

 住居を確保するため、店の2階にある開かずの部屋を掃除する仕事を引き受けた4人。

 マリーがいっていたとおり、かなり大昔から開かれていないのであろうその部屋は、外壁にツタがからまっており、少し薄暗くなってきた辺りの様子と相まって、おどろおどろしい雰囲気を漂わせている。


 「・・・なんで私が先頭?」


 「いいから早く行きなさい」

 

 「え、何? お前らもしかして怖


 「はやく行ってください」


 表情を強張らせているハルカとマフユに背中をぐいぐい押され、既にボロボロなのに先頭に立たされてしまったナツメは、小さくため息をつくと、ドアを両手で握り、思いっきり力を入れた。

 のだが、4人の中で一番(バーサーカーモードのハルカを除けば)腕力に自信のあるナツメが押しても引いても、そのドアはびくともしなかった。


 「かったい!このドア!!!」


 そう言って怒ってドアを足で思いっきり蹴りつけるナツメだったが、あまりのかたさに断末魔を上げながら右足を抑えてうずくまった。


 「開かないのなら仕方ないわ。これはもう仕方ないわよ」

 

 「そ、そうですね! しかたないです! 諦めて店の中で寝させてもらえるように頼みましょう!」


 無理矢理自分たちを納得させすぐに諦めの姿勢に入った2人が、しかたないしかたないと頷きつつ階段を降りようとすると、その横でギィーと鈍い音を立てながらチアキがドアが開いた。


 「え? 普通に空いたけど」

 

 「・・・」


 せっかく開けてあげたにも関わらず、なぜか恨めしそうに2人に睨まれたチアキは、罰として最後尾に任命されることとなったが、何の罰なのかは全く理解できなかった。



 

 


「ねぇ~、オバケとかユーレイだとかの問題じゃなくて、異世界なんだし何がでてもおかしくないじゃん。いちいちびびっててもしかたないって・・・」

 

 部屋に入ったはいいものの、ドアの近くから一切動こうとしない2人に、ナツメは呆れた顔で頭をポリポリかいた。


 「冗談じゃないわ!!いきなり異世界に飛ばされてこんな思いしないといけないなんて、絶対にごめんよ!!」


 「そうですよ!!絶対にここじゃないといけない理由はないはずです!!別の場所を探しましょう!!」




 「ん-、でも今から宿を探そうにも、お金も時間もないよー?」


 チアキのクリティカルな一言に、お互い顔を見合わせたハルカとマフユは大きくため息をついたあと、とうとう観念した様子で、ナツメとチアキの背中にぴったり張り付いた。


 「ゆっくり歩きなさいよゆっくり!」


 「絶対離れないでくださいね!!」




 「どっちかというと君たちのほうが背後霊みたいじゃない・・・?」

 

 気だるそうにつっこみを入れるチアキに2人して睨みを入れるのを無視して、さっそく辺りを捜索しはじめるナツメとチアキ。

 ランタンでぼんやりと照らされているものの、部屋の中はかなり暗く、ランタンの光が届くところ以外は、ほとんど何も見えないような状況だった。

 部屋の中はかすかに感じる薬品のような匂いと、何故か湿っぽくひんやりした空気が漂っている。

 ポーションについての資料だろうか、難しそうな本がたくさん入った本棚や、得体の知れない薬品がはいった棚などが放置されているが、意外と中は広々としており、今日一日寝る分のスペースは確保できそうだ。


 「とりあえず、換気しましょう。 暗いし、ホコリっぽくてかなわないわ。チアキあけなさい」


 「えぇー。そのくらい自分でやりなよー」


  未だに怖がって自分の後ろに張り付いているマフユに面倒くさいから動きたくないという彼女なりのささやかな抵抗を示すチアキだったが、肩越しに睨まれたため、諦めてドアに向かう。


 「あれドアって閉めてたっけ・・・」


 最後尾にいた記憶を探りながらドアに手をかけるチアキ。



 「・・・」


 「どうしたの、早く開けなさい」

 なかなかドアを開けないチアキに、背中から乗り出して命令をするマフユ。



 「・・・」


 「何をしているの?」


 それでも黙っているチアキの顔をマフユが不思議そうに覗き込むと、普段一切感情が揺らがないチアキが、珍しく焦ったような表情で、小さく声を発した。






 「あのー、これ・・・」


 

 「開かないんだけど・・・」






 「どきなさい!!」 「どいてください!!」


 チアキが開かないことを伝え終えるか終えないかという神速の速さで、チアキのことを力任せに突き飛ばし、ドアに駆け寄り手をかけるマフユとハルカ。


 しかし、まるで最初にナツメが開けようとしたときのように、ドアはビクともしなかった。






 「あああああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!」




 迫真の叫び声と共に、開かなくなったドアを狂ったようにドンドンと叩き始めるマフユとハルカ。


 「お、落ち着け落ち着け!! まずは落ち着けって!!」


 「落ち着いていられるわけないでしょ!! 閉じ込められたのよ私たち!!!」

 

 自分の骨が折れることもいとわぬ迫力でドアを殴りつけていたマフユを、ナツメが後ろから取り押さえると、それを振り払って頭を抱えながらマフユが絶叫した。 

 

 「アカナイ・・・ アカナイ・・・」


 膝を丸めてうずくまり、頭を地面につけて震えたまま呪文のように繰り返しているハルカ。



 「カギもかかってないのにこんなに動かないなんて、外側から何かされてるのかな・・・」


 「あんのクソエルフ!! 絶対罠だわ!! 転生者をここに閉じ込めて、ギルドに売り払うビジネスよ!!」


 「そんなワケあるか!」


 マフユが怒りの形相で歯ぎしりをしながら陰謀論を提唱しているところに、冷静なつっこみをいれるナツメ。

 ドアが開かないことで、元から暗かった部屋がより暗く感じられ、4人の沈んだ気持ちを表すように、部屋の中にはどことなく冷えた空気が流れていた。










 「はぁ、寒いし、暗い・・・」

 

 閉じ込められてから少し時間がたち、窓から漏れてくる太陽の光も無くなったころ、疲れているにも関わらず、恐怖心からか眠ることができないマフユが膝を抱えて座ったままランタンの明かりをぼんやりと眺めていると、不意に下腹部に生理的欲求が湧き上がってくる。


 (う・・・、そういえば今日は心が休まる時がなかったから、トイレにも行けてないわ・・・。)

 

 ランタンの光がギリギリ届く範囲を見渡すと、いまいるリビングのような部屋から一段下がって別室に通じているような廊下があるため、おそらくトイレやシャワー室などがそこにあるのであろう。

 普通の状況であればなんてことはない距離、この広い異世界の中でも限りなく短いといえる距離。

 だが、今の状況で一人でトイレに行くという発想はマフユには一切なかった。


 「・・・」


 無言で隣を見るマフユ。

 自分のすぐ隣には、丸くなって猫のように静かに寝ているチアキ。

 その隣でこんな状況でも手足を思いっきり広げ、豪快に爆睡しているナツメ。

 そしてどこからか拾って来た布をかぶり、もやは起きているのか寝ているのか、死んでいるのかもわからないが、一切微動だにしないハルカ。


 「チアキ、ちょっと・・・」


 一見、三択かのように見えるが、絶対にこんなことを頼みたくないナツメと、絶対に戦力になるはずがないハルカは論外なので、実際には一択である。


 「んぁ~? なぁ~に~? まだ寝てなかったの~?」


 マフユに揺り起こされたチアキが、眠そうに目を擦りながらマフユに顔を向ける。


 「あんたはあれだけ眠っていたのに、どんだけ寝るのよ・・・。 」

 「ちょっと、トイレに着いてきなさい」


 「うえぇ~・・・?  ちょっとねむいしめんど・・・」


 チアキが言い終わる前に、無理矢理引っ張り起こした。


 




 


 「ぜっっっったいに、ここにいなさいよ!!」


 眠そうに目を擦っているチアキに向かって、必死の形相で詰め寄るマフユ。



 「呼んだらすぐ入ってきてよね!! 絶対よ!! 」

 

 「わかったってぇ~ はやくしてよ~ 」


 トイレの中から顔だけ出してずっと念押ししてくるマフユに呆れたチアキが、あまりの眠さにその場でウトウトしはじめたため、仕方なく急いで扉をしめ、腰掛けるマフユ。


 トイレの中は部屋と同じように、壁はボロボロでホコリっぽく、水は問題なく出るようであったが、傾いた窓から漂っている冷たい隙間風の中、あまり精神的には落ち着ける環境ではなかった。

 

 「チアキー、ちゃんとそこにいるわよねー?」


 入って数秒も立たずマフユがドアを叩くも、反応はないが、うっすらと呼吸音が聞こえる。

 

 (もしかして、こいつ寝てるんじゃないの・・・)


 あの数秒の間に本当に寝てしまったのか、腰掛けたままドアに耳をあて、目を瞑り、注意深く音を探ろうとしたその時


 

 マフユの耳元で、かすかに、だが確実に、聞いたことのない女の子の笑い声が聞こえた。

初めて小説を書きます!


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