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第6話 絶対このキャラ元奴隷だろ

 外のベンチに座り、夕陽を眺めながらソーンを撫でていたハティが、突如として店から出てきたマフユと、そのまま店裏に引きずられていったナツメの姿に困惑していると、その後ろから出てきたハルカが、物欲しそうな顔で同じベンチに座ってきた。


 「ハティちゃん、もう一度触らせてもらえないかな・・・?」


 「しつこい! さっきは油断して触らせてしまったけど、ボクは転生者とは絶対触れ合わない!」


 そういってハルカを睨みつつ牙をむき出しにして敵意を隠さないハティに、少し残念そうな顔をするも、諦めずに話しかけるハルカ。


 「うーん、ハティちゃんは、どうして転生者が嫌いなの?」


 「転生者なんてサイテーな奴ばっかりだ、メスだろーと、どうせお前たちも一緒だ!」

 

 初めて顔を合わせた時から、ハティは4人に対してあまり好意的でない態度を取っていたが、さきほど店の中で4人が転生者だという話を聞くと、とたんに怒り出し、店の外に出て行ってしまった。


 「人間の転生者って他種族に嫌われてるのかしら・・・」

 「でも、マリーさんはとても親切にしてくれたし・・・」


 「ふん、勘違いするな!お師匠はお前たちが同じ人間だったから、見捨てなかっただけだ!」


 「同じ人間・・・?」


 ハルカがハティに聞き返すと、ハティは不機嫌そうに少しため息をついたあと、話を始めた。


 「お師匠には、すごく、すっごく大切だった人間がいたんだ」


 「その人間は、お前たちみたいに森で迷って行き倒れてた所をお師匠が助けてあげて、それから仲良くなって、一緒に暮らすようになった」

 「当然エルフであるお師匠よりその人間は先に死んじゃったけど、その人間のことが本当に大切で大好きだったお師匠はその時のショックで、その人間のことを全部忘れてしまった」

 「いつも明るくふるまってるけど、一番大切だった人を思い出すことができずに、忘れてしまった後悔と、その人間への罪悪感で、今もずっと苦しんでる」

 「だから、少しでも贖罪と、心の隙間をうめるために、同じように森で迷ったり倒れたりした人間を連れて帰ってきては、面倒を見てるんだ」


 その話を聞いたハルカは、マリーと最初に出会った時、マリーが、大切な人が眠っていると話す、樹の前で、物思いにふけるような顔をしながら祈りを捧げていたたことを思い出した。


 (だからあんな顔をしていたのね・・・。)


 「前にこの町の冒険者ギルドが新しく大きくなって、冒険者がたくさんポーションを買って行ったからお金がいっぱい入った時に、ボクがお店をもっと大きくしようって提案したことがあったんだ」

 「でもその時、お師匠が言ってた。この店はボロボロだけど、なんとかなんとか修理して、どうしてもここをそのまま使いたいんだ。って」

 「きっとこのお店は、お師匠がその人間と2人で建てた、お師匠にとって唯一残った思い出なんだ」


 そういって、壁に空いてしまっている穴を塞ぐように補強された板を手のひらで触れるハティ。


 「思い出すことも、忘れることもできない・・・、まるで心を縛る鎖のようね・・・」

 「でもなんでハティちゃんは、その人間さんのことを知っているの?」


 ハルカが尋ねると、ハティはうつむき、手をぎゅっと握ったまま、静かに口を開いた。


 「ボクがここに来たばっかりのころ、毎日出ていくお師匠が気になって、こっそり後をつけて行ったことがあるんだ」

 「その時お師匠は、人間が眠っている樹に向かって、涙を流しながらずっとずっと謝ってた」

 「死んでしまった理由も、名前も顔も、思い出せないのに、どうしても全て忘れることができないって」


 「エルフはボクやお前たちと違ってとっても長生きだから、お師匠はどれだけの間、何も思い出せない苦しみを抱えて生きてきたのか、ボクには想像もつかない」

 「・・・雨の日も雪の日も、毎日毎日あの丘に通って、ずっと一人で記憶を取り戻すために、ポーションを作り続けてる」


 それを間近で同じように毎日毎日見続けてきたのであろう、悲しそうに耳を折り、うつむくハティの瞳には、涙が浮かんでいた。


 「・・・ボクは自分の意思でここに来たわけじゃないけど、どこにも居場所がなかったボクを、お師匠は唯一優しく迎えてくれたし、感謝してもしても全然足りないほど、いろんなものを貰った・・」

 「だけど、お師匠が本当に苦しんでいることに、ボクは何にもしてあげられない・・・」


 そう言って、その大きな思いをずっと傍で支えてきたであろう、震えている小さな背中を、ハルカはそっと優しく抱きしめた。





 


 

 



 「ほら、記憶喪失を直すポーションができたよ。笑ってる暇があったらちょっと飲んでみて」


 未だに笑いが止まらず、震える口でポーションを飲み干したチアキは、どこかに消えたマフユに気付かれないよう、店の隅で顔を真っ赤にして口を抑えて震えている。


 「こらこら、それだとよくない薬を飲んだみたいになるじゃない・・・」

 「で、どうなの?何か思い出した?」

 

 「んー・・・、気が付いたら森の中にいたかなー」


 「やっぱり記憶喪失ってわけでもないのね・・・。どうやら本当に転生者みたいね」

 「けれど何の能力もスキルも持たない転生者なんて、聞いたことないわ・・・」


 マリーは今までけっこうな人間の転生者の面倒を見てきたが、前世の記憶がなく、何の能力も持っていない転生者など一人もいなかったはずであるため、さすがに面食らってしまった。


 「困ったわね・・・、さすがに4人だと、ちょっと余裕もないし、何より住むところがないわ・・・」


 「そんなー、ここを出たら、もう夕方だし、私たちはどこにもいくところがないよー」


 「といっても・・・」


 深く考えこんだマリーは、1つあることを思い出した。


 「あ、そういえば」

 

 「お、何か思いついたかー?」


 目をキラキラさせながら顔を覗き込んでくるチアキに、少し申し訳なさを感じつつも、マリーは1つ提案をした。


 「この店の2階もうずっと使っていないから存在を忘れていたけど、少し片づければ人が寝るスペースくらいはあると思うわ」


 今はほとんど店奥の研究室で寝泊りをしているため全く使っていないが、大昔に生活スペースとして使っていた2階の存在を思い出した。


 「・・・で、つまり私たちがそこを片付ければ、そこに一時住んでいいってワケ?」

 未だに少し恥じらった様子だが、一応落ち着きを取り戻したマフユが店に入ってきた。


 「うーん、もう時間も遅いし、今日はたぶん寝るスペースくらいしか確保できないだろうけど、しっかり部屋を片づけたら考えてあげるよ」


 「お師匠・・・、またそんな勝手な・・・!」


 麦わら帽子をくるくる指で回しながら、いつもそうなのであろう突拍子もない提案に困惑した様子で、少し赤くした目を擦りながら、ハティとハルカも店内に戻ってきた。


 「任せて下さい!お掃除は得意ですから!!」


 「よし、任せたー」

 

 「・・・あなたもやるのよ、チアキ」


 お前もズタボロにするぞという表情でチアキの胸ぐらを掴んでいるマフユを尻目に、おそらく自分がほとんどの掃除をすることになるであろうと自覚をしているハルカが、悲しい決意を胸に後ろ髪を固く結んだ。


 「大昔から使ってないからもしかしたらひどい有様かもしれないけど、頑張ってね~」


 (エルフにおいての大昔って・・・・?)


  笑顔で手をふるマリーに見送られながら店を出た3人は階段を登り、固く閉ざされたまま何年も放置されていたのであろう、開かずの間の前に到達したところで、ハルカが不意に口を開く。


 「うん? 何か足りなくないですか?」

 




 その数分後、店裏の薬草畑にて、ナツメが無残な姿で無事発見された。

始めて小説を書きます!


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