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第5話 異世界、ステータスオープンしがち

「全魔力を右手に集中・・・、全魔力を右手に集中・・・」

 

 さながら呪文のように繰り返されるそれは、小さく、しかしはっきりと意思を込めた口調だった。


 太陽も落ち始めたころ、わずかに雲行きが怪しくなる空に、風が砂を巻き上げ、まるで世界が震えているかのように、大気が揺れる。

 

 町から逃げるように鳥たちは夕暮れの空に羽ばたき、近くの深き森では異変を察知したのか、樹や地面に動物たちは隠れた。


 大きな城壁に囲まれた、広大な町の一角に離れて佇む一軒の店。


 「普段は目に見えないはずの魔力が、はっきりと色として確認できるほどの凄まじい力の奔流に、屋根は軋み、場の空気は静まり返った」


 「大陸の全てのエネルギーが一点に集中しているほどの熱量がナツメの右腕に集中し、太陽のように真紅に輝き、バチバチと遠雷のような轟音を響かせた」


 「莫大なエネルギーに振るえる右腕を左腕で抑えつつ、しっかりと、そしてゆっくりと前方に狙いを定め、右手にありったけのオーラを集中し、ナツメがカッと目を見開く」





 「うおおおおおおおおおおおぉぉぉ!! ハイパーフレイムサンダァー!!!!!」



 







 「うーん、これもだめかー・・・」


 「せっかくナレーションしてあげたのになー」

 

 心底残念そうに首を振る2人と、またバカどもが何かやっていると、最初から相手にせず一人で本を読んでいるマフユ。


 店の中では、さきほどから不可思議な呪文大会が開催されていた。


 「レベルアップ!」

 「マジックチェンジ!」

 「モンスター召喚!」


 様々な言葉を発しては、奇妙なポーズを披露するナツメと、それを見守るチアキ。


 「どうだー?」


 「んーん、なーんにも起こんない」


 それっぽい動作や知っている単語を色々試してみたものの、ナツメのまわりにはうんともすんとも変化は起こらず、2人は肩をすくめてしまった。

 転生者であれば何か能力があるはずだ。能力のない転生者など転生者である意味がない。

 自分たちにどんなトンデモ能力が隠されているのかと、ドキドキに胸を高鳴らせつつ試し始めたのだが、何の成果も得られないまま、時間だけが無為に過ぎていった。


 「転生してきた時も別に何の説明もなかったしなー」

 

 「説明も何も、私ら気付いたら森の中で迷ってたしね」


 マリーに発見される前、転生してきた直後は、前世のことなど何も覚えていないどころか、自分と他の3人が仲間であるということしか脳内情報がなかった4人。

 途方に暮れたまま森の中を歩き回るも、周りは木々ばかりの似たような風景が続く。

 陰鬱な雰囲気に耐えられずにナツメが大声をあげた瞬間、どこからともなく現れた巨大鹿のソーンに追いかけまわされ、あの状況となっていた。


 「あのレムール森林は迷いの森って呼ばれてるほど厄介な森なの」

 「ただ広くて複雑なだけじゃなくて、冒険者にとってはちょっと困った子たちが住んでるのよ・・・」


 マリーが困ったような顔で森のことを話していると、何かを思い出したように、人差し指を頬にあてて、空中に視線を泳がせた。 


 「そういえば、前にうちに来た転生者で冒険者の子は、ステータスがどうのこうのって話をしてたわね」


 マリーがそう言うと、2人は顔を見合わせて立ち上がった。


 「なるほどそうか!ステータスだステータス。異世界転生っていったらステータス!」


 「そうそう、それだー」


 ナツメは再び店の真ん中に飛び出ると、深く深呼吸したあと、足を開き、右手を大きく掲げ叫んだ。


 「ステータス!! オープン!!」




 店の中には、マリーが調薬を行う雫の音だけが虚しく響く。

 

 「だめかー・・・」


 「うーん」

 

 お決まりのセリフも不発となり、打つ手が無くなってしまった2人は、大きくため息をつき、がっくりと肩を落とす。。

 何かヒントが無いか異世界薬学の専門書等が置いてある本棚にナツメが目をやると、先ほどからこちらを完全に無視して本を読んでいるマフユの姿が目に入る。


 「なぁ、ちょっとマフユもやってみてよ」

 

 「・・・えぇ!? 私!?」


 「もしかしたら私ら2人ができないってだけかもわかんないじゃん?」


 この世界における基礎知識を得るため、マリーが持っていた文書などを読んでいたマフユは、突然の抜擢に思わず仰け反ってしまった。

 正直こんなことをしても成功確率は低い。やる意味があるのかは正直怪しいところだ。

 しかし、自分たちが転生者である。ということだけはなぜか意識下ではっきりしており、自分がこの状況に置かれている以上、異世界転生された何らかの意味があるハズだ。とは、マフユも考えていた。


 「はぁ・・・、仕方ないわね・・・」

 「主演交代よ、下がりなさい」


 「頼むわー」


 「がんばれー」


 ナツメとチアキを下がらせ、店の中央に貴族社交界かのような優雅なステップで躍り出たマフユは、右手を振りかざしつつ、ありったけの声量で叫んだ。



 「ステータス!!オープン!!!!」















 「プッ・・・」


 小刻みに震えつつ急速に赤く染まっていくマフユの顔。

 普段であればマフユが絶対にやらないであろう迫真のポージングに、’’絶対に笑ってはいけない’’空気の中、誰もが予想する通りナツメが真っ先に噴き出した。

 顔をドラゴンベリーのようにしたマフユは、ナツメを床に押さえつけ店の外に引きずって行き、そのまま戻ってこなかった。






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